第二十一話:この混乱は、やっぱり適当にまとめられる
ガンガン行こうぜ!
臨時ニュース大ニュース。号外だけじゃ飽き足らず、全ての放送局を乗っ取って臨時放映したいレベルのビックニュース。
「シエンが・・・・・・魔王?」
魔王って、あの魔王?うはは~世界を支配するぜ~、の魔王?モルゴとかいう国に拠点を構えているって設定だった、あの魔王?狂気に駆られた殺戮の王で、天界をも手中に収めようとしている?
「いや、見えねーよ」
多分、逆立ちしても見えない。いや、逆立ちしたら何が変わるってわけでもないんだろうが。
「おいおい。まさか疑ってんのか?つーか、見えないって・・・・・・。ほら、よく見ろよ。この俺から溢れるカリスマオーラ。な?魔王っぽいだろ?」
「そういうことを言ってる時点で魔王っぽくはねぇな」
「・・・・・・なん・・・だと・・・・・・?」
とりあえず思ったままにツッコんでみると、自他称魔王のシエン様(笑)が膝を突いて落ち込んでいた。どうしよう。どんどん信じられなくなっていくんだが・・・・・・。
「おいサタラ。とりあえず説明してくれよ。本当にこれが、あの魔王なのか?それとも、魔王ってのは他にもいたりするのか?」
状況を整理するために、サタラに確認を取る俺だが・・・・・・あれ?ねえサタラさん。どうして目を逸らすのかな?ねえねえ、こっちを見ておくれよ。
そんな状況のサタラはしかし意外と、聞かれたらしっかり答えるえらい娘なので、決してしっかりではなかったけれど、それでもちゃんと答えてくれた。俺の望まない回答を。
「・・・・・・ゴメン・・・。間違いなく・・・・・・魔王だわ」
「ちょっと待ってくださいサタラ。確かに、私たちの先入観というものも多分にあったでしょうが、しかしこれでは、あまりにも世間のイメージや噂からかけ離れています」
「うーん・・・・・・オレも、魔人だった頃の記憶が完全に残ってるわけじゃねえんだ。リュージに解放してもらったとき、一緒に抜け落ちたみたいでよ。でも、コイツは確かに魔王だよ」
サタラは嘘をついていない。それはわかるが・・・・・・どうも信憑性にかけるな。サタラ自身も間違っている可能性も、完全には拭いきれないし・・・・・・仕方が無い。
「なあリリア。こういうときは、やっぱり本人に聞こうぜ」
「・・・・・・そうですね。やはり、それが一番、手っ取り早いでしょう」
「ふふふ。話は聞かせてもらった!」
「そりゃそうだろ。だってずっとそこにいたんだから」
シエンが急に立ち上がり、突然の助っ人みたいなセリフを吐いた。だからさ。そういうのが、俺たちのイメージを揺らがせてるってわかってるのか?この人は。
「じゃあ、説明させてもらおうか。そして、君達にも説明してもらおうか。どうやらお互い、何らかの齟齬があるようだからね」
そういって、ニヤニヤと笑うのであった。
「あ。リュージがたまーに見せる笑い方だ」
サタラさん。今それいらなくない?いや、俺も思ったけどさ。
◆
「まずは・・・・・・そうだな。君達が知りたいであろう、俺が魔王と呼ばれ始めた頃の話からしようか。うーん、あれは・・・・・・だいたい1年くらい前かな?」
そう切り出した魔王にとって、この話はあくまで思い出話のような扱いらしく、かなりあっさりと話を開始する。
「そうそう、たしか1年前だな。俺はある日、自分の中に閉じ込められた」
「自分の中に、閉じ込められた?」
「あー、まあ表現がわかりにくいのは重々承知してるが、そこはあんまりツッコまないでくれ。正直、俺自身も未だに、よくわかってないんだ。自分の意思を無視して、体が勝手に動くとか、そういうのをイメージしてくれればいい。つまり、自分の意識ははっきりしているのに、ずっと暗闇の中にぶち込まれているってことだ」
ようするに、わかりやすく例えると、ハガレンでいうところのグ○ード様と同化したどこぞの王子みたいなもんかね。あぁ、俺、グリ○ド様好きですよ。カッコいいじゃんあの人。え、王子?・・・・・・まあまあ、かな。
「その暗闇のなかでは・・・・・・まあ色々、ってほどでもないが、内容的には色々あった。なかなかに濃い体験だったよ。自分のあり方を再確認したりとか、謎の変なナニかと闘ったりな」
「そんなある日だ。俺はようやく、その謎のナニかを打ち負かした、というのかな?納得していた風でもなかったしなぁ・・・・・・。まあとにかく、そんなこんなで俺は、自分の身体を取り戻すことが出来た」
ん、おや?
「しかし。いざ戻ってみると、ずいぶんと時間が経っていてな。その間に俺は、どうやら色々とおかしなことをしていたらしい。まあ、内側から多少は見ていたから知っていることもあったが、俺も俺で色々忙しかったから、あまり詳しくない。その間、勝手に増えていた魔人の内の1人が、まあサタラだったりするんだが。でも、サタラたちは、なんか俺の命令だとか言ってどこかに出て行っちゃって、あんまり話せてない上に帰ってこなかったからな。それからしばらくして。どうやら俺は、かなり下衆な野郎に成り下がっていたらしいことに気が付いてな。しかも、俺が俺じゃない間に増えた魔人どもが、これまた揃っておかしなヤツらで。ぶっ殺すーとか、町を壊滅ーとか、目的の無い行動ばっかしやがってさ。まあ、俺はできる範囲で、そういう奴らをぶっ飛ばして正気に戻したりしたんだが、やっぱりおかしなヤツは何人か残ってな」
あー。そういうヤツらの行動が、ああいう情報の元になったのか。いい噂よりも、悪い噂のほうが広がりやすいからな、世の中ってのは。そして、悪い噂のほうが、なぜか信じやすかったりするんだよな。怖い世の中だぜ。
「いくらなんでも、魔人の数が多すぎた。俺だけじゃ全ては対応しきれないし、普通の魔人では、敵うヤツが少ないんだ、悔しいことにな」
闇の力が上乗せされていたから、か?サタラの力も、闇に支配されていたときには不思議な使い方をしていた。まあその分、性格はあれだったが。
「・・・・・・まあ、俺の話はとりあえずここまでだ。で、なにかあるか?」
シエンはそこで一旦、話を切り上げる。
「んー、そうだな。あれ?なあリリア。これって、もう俺いらないんじゃね?」
だって、魔王の問題はもう、自分で解決しちゃったっぽいし。闇の力自分で抑えちゃったよコイツ。
「いえ・・・・・・もう少し話を聞きましょう。シエンさん。その魔人は、あとどのくらいいるんですか?」
「どのくらい・・・・・・。ん~、そうだな。おそらくってのが入るけど、あと数人ってところだろうな。5人とか、そのくらいだろう。それ以下ってことも、それ以上ってこともあるだろうがな」
「では。遺跡にある秘宝については、どうするのですか?」
「秘宝?あぁ、あの~、天界にいけるとかっていう・・・・・・。謎の変なナニかも言ってたしな。まあ、天界ってのが本当にあるかどうかは別に興味ないが、俺はともかく魔人どもは集めに行ったぜ?つーか、もういくつか集めていたはずだが」
「・・・・・・そうですか。では、貴方はこれから、どうするのですか?」
「ん?そうだなー。まあ、魔人どもを放っとくわけにもいかないしな。俺の責任でもあるし、なんとかするつもりではあるが・・・・・・。さっきも話した通り、どうしても時間が掛かるしな。その、秘宝だっけか?あれを集め終わる前にやり切れる確証もないってのが、正直なところだな」
そこまで聞くと、リリアは納得したように、考えが決まったように、結論を出す。
「そうですか。では、こういうのは如何でしょう?」
◆
「魔王が仲間になった!・・・・・・・・・なんでやねん!」
・・・・・・助けて!虚しさが100倍だよ!アン○ンマ~ン!もうお前の顔面でもいいから、俺を元気にしてくれ~!俺に元気を分けてくれ~ぃ!
「まあまあ。仲良くやろうじゃないか。ほら、賞金も貰えたんだし」
そういってシエンが指差すのは、俺が担いでいる布袋。そのなかには、優勝賞金の半分である、2500万チャルが入っている。
なんでも、今回の大会は中止。残った賞金の半分を、俺たちへの恩賞に。残り半分を、闘技場の修理資金に回すらしい。まぁ、俺たちも色々ぶっ壊したんだが・・・・・・。
「つーかおい。シエンよ。シエンさんよ」
「ん?どうした少年」
「オマエは城に帰らなくていいのかよ。ほら、魔王城」
「魔王城?あぁ、俺の城ね。魔王の城だから魔王城って、ネーミングセンスを全く感じさせないな」
「俺が決めたわけじゃねーよ。魔の剣で魔剣、聖なる剣で聖剣みたいに、シンプルでいいじゃねえか。名は体を表すってな。シンプル・イズ・ベスト」
「リュージ。話が逸れてますよ」
リリアに注意された。ごめん母さん。
「まあ、多分大丈夫だろう。というか俺、結構城を空けてるしなぁ」
「ふーん。まぁ、泥棒が入るとかっていうのとは無縁だろうけど」
というわけで、俺たちは町の中を歩き、宿に着く。
「まあ、部屋の数自体は変わらないですから、料金のほうも変化はないでしょう」
というリリアの意見により、俺の部屋に魔王がやってきた。わーい、魔王と2人っきりだー。あれ?これ最終対決シーンじゃね?BGMとか流れてきたら、俺たぶんノっちゃうよ?
「しっかし、少年君よ」
「ん?なんだい魔王様」
部屋について、俺がベッドにゴロンとなると、魔王はもう1つのベッドに腰掛け(元々ツインの部屋だった)、俺に声を掛ける。
「君、一度死んでるらしいじゃないか」
・・・・・・おい。いきなりそのネタに突っ込むかね。
「まあ・・・な」
どんなテンションで返していいのかわからず、とりあえず適当に答える。
「別に答えたくないんだったら、それで構わないが」
「なんだよ」
答えたくなかったら普通に答えないよ。その辺心配いらないよ。答えろっていわれても答えませんよ。
「なんていうのかな。そういうのって、どうなんだい?」
「どう・・・・・・って?」
「なんて言えばいいか難しいんだが。そうだな。君は納得しているのか?」
あぁ。なんか、前にも似たような話をしたな。リリアと。同じベッドの中で。まあ、たとえ時間が経っても、状況が変わっても。俺の答えは変わらないがな。
「納得もなにも、お前も今、言っていただろう?俺は一度、死んでるって。だったら、別に誰にも文句は言えないだろう。むしろ、今ほら。生き返ってるんだぜ?これ以上を望むのは、贅沢ってもんだろう。確かに、死んだことで納得しているかって言えば、まあ完璧に受け入れたわけじゃないけどよ。確かに、前の世界には、未練だってあったし、思い出だってあった。家族に会いたいし、友達にだって会いたい。でも、俺は死んだんだよ。本来だったら、こんなことを考えることも、思うことすら不可能だったんだ。みんなとこっちで楽しく過ごすこともな。だからまあ、死んじまったことはしょうがないって話だ」
そこまで話すと、俺は肩を軽く竦めて、両手を開く。
「どうよ。理屈は通ってるだろ?」
これが今の俺の意見。俺の受け止め方。これから、もしかしたら変わったりするのかもしれないが、今は、これが俺だ。
しかし、俺の言葉を聴き終わったシエンは、どこか納得しきれないような表情をしていた。
「なあ・・・・・・少年よ」
「ん?なんだよ」
シエンは、まるで聞き分けのない子供を諭すような、静かな口調で告げる。
「理屈に合わないことをするのが、人間ってもんだろ」
「まあ別に、君がそれでいいっていうのなら、部外者である俺が口を挟むわけにはいかないだろう。しかし、今の理屈が、君自身を無理矢理に納得させるためのものであるのならば、そこで止まってはいけない。君は、もっと考えなければならない。変化を求めない者は、ただ腐るのみだよ」
さすが魔王だな。いいこと言ってるよ。すげーかっこいい。ただ、さ。ただ・・・・・・。
「ベッドの上で飛び跳ねるんじゃありません」
壊れるだろうが。あと、2メートルもある大男が、結構スプリングの効いたベッドで飛び跳ねるから、声が聞き取りづらい。
「ぅえ!気持ち悪い・・・・・・」
「跳ねながら喋ってるからだろ」
シリアスな雰囲気が台無しである。
まあ。シエンのいうことも、わかる。確かにその通り。
この世界に来たことに後悔は無い。そこは変わらない。でも、前の世界を諦められるのか、といわれれば、否だ。捨てられるわけがない。あんな素敵な世界を。
(仕方がない・・・・・・。探してみるか。俺が、元の世界に蘇る方法)
なくて元々ダメ元だ。神だって天使だって魔王だっていたんだ。生き返る方法くらい、どこにでもあるだろう。
というわけで。魔王討伐という目的が消え、自分を生き返らせる方法を探すという目標が出来た。
視界の端で、重さでベッドが突き抜け、身体が刺さって抜けなくなっている魔王は、とりあえず放置で。
リュージ「というわけで後書きなんだが・・・・・・」
エクス「もう少しで日付が変更しちゃう!急がないと!」
作者「というわけで、連続投稿と相成りました今回のお話。急ピッチで仕上げております。しかし、風邪が治らん」
リリア「脱線しないで!雑談を挟もうとしないでください!」
サタラ「で、次回からはどんな話になるんだ?(急ぎ足)」
作者「はい。えー、次回からはですね。今までのお話の間に存在した、サイドストーリーというか、サブストーリーというか」
シエン「トイ・ス○ーリーというか」
サタラ「魔王は死ね」
シエン「え!?サタラ酷い!ヒドォイ!」
リリア「黙っていてください!あと5分もないんですよ!」
作者「というわけでですね。次回からは過去編という形で、本編には直接的にはあまり関係の無いお話をツラツラと、いくつか書いていこうと思います。時系列は無視の順番となりますので、ご了承ください」
リュージ「よし、締めいくぞ、急げ!」
エクス「お別れの挨拶!」
リリア「震える昂る異世界バトル『転生した俺は勇者として魔法世界を救うらしいですよ?』」
サタラ「次回!『【過去編Ⅰ】帝国の長』」
エクス「お楽しみに!」
作者「そういえば俺、今日床屋に行ってさ~」
リュージ「黙っとけ」




