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第十九話:それぞれの闘技

はい、お久しぶり・・・・・・ってほどでもないですね。

それではとりあえず、本文のほうをどうぞ!

「おぉおおおおらぁあああ!!!」

雄叫びを上げながら、身体から炎を噴き出させるサタラは、客席からステージへと飛び降り、そしてそのまま上方に炎を火柱のように打ち上げる。

「さぁて!それじゃあ久しぶりに、大暴れさせてもらおうかぁ!」

そういって激しい炎を身体の周りに撒き散らせながら、その手に炎剣を創り出す。

炎剣【ディスペア】。摂氏3000℃を超え、あらゆるものを焼き斬り、どんなものでも溶かし斬る。そんな化け物の化身みたいな装備を両手に整え、それを地面に突き刺す。すると地面にヒビが入り、その奥から激しい炎が噴き出す。それは一直線に、魔物たちが溢れ出る通路の出入り口へと伸び、溜まった魔物を一気に焼き尽くす。

そして、再度火柱が上がったかと思えば、今度はその身を上空へと移動させていた。

炎火えんか飛鳥ひちょう!」

両手に纏わせた炎を振りぬき、そのまま地上に叩きつける。四方が吹き飛ぶ爆発を起こし、さらに多くの魔物を吹き飛ばす。

そして、炎を纏いながら通路を駆けていく。


一方。元魔人が頑張れば、現役天使も奮闘する。

「さて。サタラが炎ならば、私は氷でいきましょうか」

そういうリリアの周囲は、彼女を中心に地面が凍てつき始める。その冷気を余すところ無く右手に凝縮させ、そして一気に駆け出す。そのまま、一際デカイ、全長5メートルは下らない巨大な岩の魔物へと突き進み、飛び上がりながらその腹部に右手を叩きつける。

バキッ!という音を立てながら、魔物は一瞬で凍りつく。そしてその冷気はとどまることを知らずに、周囲をも凍てつかせる。

氷天白夜ひょうてんびゃくや!」

そんなことを叫びながら、サタラとは別の通路を駆けていく。



「んで、取り残されてしまった俺だが」

『うーん。いや、君はここで戦えばいいんじゃないかい?』

「いや、だって見てみろよ」

俺が戦うまでもなく、ホワイト紳士シエンと、暴虐の化身エグバルが、その辺の魔物をボッコボコに蹂躙してるんだもん。

「オォラァアアアア!」

叫び声とともに光を纏った拳を横薙ぎに振るい、魔物を消し飛ばしていくエグバル。ちょっ!余波でこっちも吹き飛びそうなんですけど!

「ハハハ!遅い遅い遅い!」

そう叫びながら魔物を斬り付けながら跳ぶように駆け、飛ぶように跳ねるシエンは、おぉっと素手で、というか手刀的な何かで斬っているぞ?あれも魔法かな。


『一応、ボクたちも参戦したほうがいいんじゃないかい?』

「うーん。あの二人ほどの激しい演出をする自信が全く無いんだがな」

まあだからって、ここに突っ立っている訳にもいくまい。んじゃ、俺もやりますか。


「覇刀流、奥義・・・・・・撫子なでしこ!」

目にも留まらない、というかフィルムを繋ぎ間違えたのかと思うほどの高速移動で魔物の群れの中を駆け抜け、そしてエクスを振るう。

と、群れの先にまたまた巨大な魔物。どこか骸骨のような顔面をしたソイツは、その巨大で長い腕を振り上げ、俺を叩き潰そうとする。俺はそれを回避しつつ、一気に飛び上がり。

「覇刀流、がん!」

身体を捻って全身の運動を利用し、顔面に刀を、音速以上の速度で叩きつける。バキャッ!という音と共に、魔物の身体が地面に叩きつけられる。

「さらに・・・・・・滝波たきなみ!」

重力に従い自由落下し、身体を半身捻ってからの、叩きつけ。魔物の身体はくの字に折れ曲がり、そして動かなくなる。

さらに刀を振るい続け、気付けばシエンやエグバルと、背中を合わせて戦うようになっていた。というか、相変わらずシエンのフードは脱げないね。ふっしぎー。あれかな。逆さまになってもなぜか落ちてこない女の子のスカートとか髪とか、そういう扱いなのかな?あとエグバルさん。あなた怖いです。スゲー頼れるけど、スゲーいい人そうだけど・・・・・・怖いです!

「へい少年」

「あ?なんだよ」

シエンが俺に声をかける。どうした、なんか用か。

「君はこのまま通路を進みたまえ。ここは俺たちに任せてもらおうか」

「はぁ?いやでも、この数を2人じゃあ・・・・・・」

「おいおい。舐めるなよ小僧。オレたちが、この程度で苦戦すると思ったか」

エグバルも意見をそろえる。確かに、この2人なら何の問題もなさそうだし、それに通路の向こうにもまだまだ魔物はいそうだ。

ここは2人に甘えておこう。

「・・・・・じゃあ頼むわ」

背中越しに声をかけ、俺は通路に向かって駆け出す。



「うーん・・・・・・やっぱり引っかかるな。あのシエンって男。名前が同じって可能性もあるが、あの雰囲気は。いや、今は止めとくか」

炎を打ち出し、魔物の群れを牽制する。

『クソッ!数が多すぎる!』

おそらく、闘技場の係員だろう男3人が、魔物に応戦する。しかし、やはり多勢に無勢。今はなんとか保っていても、そのうちやられてしまうだろう。

「おい、アンタら!ここはオレがやるから、観客の警護に行ってくれ!」

『いやしかし・・・』

係員はオレの意見に渋る。そりゃそうだろうな。自分で言うのもなんだが、オレはパッと見、ただの小娘だからな。まあそんなときには仕方が無い。直接力を示すしかないだろう。

「打ち火――――――灯火ともしび!」

手を打ち合わせ、火を灯し叩きつける。そうするだけで、目の前の魔物は激しく燃焼し、一瞬で灰になる。骨すらも残らない。

「ここは大丈夫だ、オレに任せろ。だからアンタらは、観客たちを守ってやってくれ」

「・・・・・・わかった。ここは任せよう。行くぞ、お前たち。君も、無事でな!」

そう言い残し、係員たちは観客たちが避難しているであろう出入り口の方へと駆けていく。

「さぁて」

呟きオレは、再度炎剣を創り出す。激しく燃え盛るそれは、全てを切り裂く絶対の炎。そんな剣を、壁に突き立てる。


全く関係のない場所から、炎剣が突き出てきた。


ザシュ!と、魔物が数体串刺しにされ、内側から焼けていく。

「ははっ!ぜろ!」

炎剣が内側から破裂し、刺された魔物は、骨も残らず灰になり、周囲にいた魔物も、熱風を浴びて燃え尽き骨になる。

生き物が焼死したとき特有の、唇の下あたりが粘っこく、油が付く空気が漂う。


先程の、炎剣の出現位置が変わったのは、炎の能力ではなく、魔人としての能力『空間掌握』を使い炎剣の出現位置の座標を変えただけだ。


「弱体化してるとはいっても、使えないわけじゃねぇんだよ。やろうと思えば、テメェらの内蔵だけばすことだってできるんだぜ」

そういって指を弾く。すると――――――。


『ガハッ!?カッ、ガヒュ・・・・・・』

魔物数体が、一斉に倒れ込む。

「肺を跳ばした。お前らの肺は、その辺の壁にでも埋もれてるぜ」

そういって、ニタァと笑う。溶けるような笑みを浮かべて、両腕を開く。

どうやらスイッチが入ってしまったらしい。

「さぁて・・・・・・、始めようか!」



パキパキパキ、と。通路が凍りついていく。

「ふう。あとはこの通路を固めれば、闘技場の崩落は伏せがれるはず」

そう呟きながら、リリアは通路を進む。この通路を固めたのは、最悪の状況のためであり、あくまで念のためなのだが。

「魔物も人間もいない。遠くには魔力の流れがありますが・・・・・・。しかし、この辺りの魔力の流れが全く無い(・・・・)というのは奇妙ですね。そのような地点は確かに存在しますが、これは・・・「よくわかったな」っ!?」

背後からの声に振り返ると、通路の奥から1人の男が歩いてくる。しかし。

通路を歩いてきたのではなく、一瞬だけ歪んだ空間の狭間から突然現れた。

「まぁ、今さら驚くことではないですよね。しかし、空間系の魔法は、サタラの十八番のはずでは?」

なんとなく、素朴な疑問を口にする。すると男は、軽く首を傾げる勢いで、不思議そうな顔をする。

「うん?俺に関しては何もないのか?」

「どうせ魔人でしょう。それに、貴方のことは知っていますよ。【常夏の料理人】ゾルディックさん」

言葉に軽くトゲを混ぜるリリアだが、それに対して男、ゾルディックの反応は苦笑だった。

「ははは。まったく何が常夏だよ。ゾルディックの部分はまったくもってその通りだし、確かに常夏ってのもあながち間違ってもいねぇがな。それで、オマエは俺のターゲットってことでいいんだな?」

ターゲット?と呟く。

「ん?あぁ、これは言っちゃいけないんだったか?まぁいいか。多分合ってるし」

「まったく適当な。そんな理由で人を殺すなんて」

その瞬間、ゾルディックは表情を歪める。

「オマエは人じゃねぇだろ。魔力の流れも量も質も、わずかではあるが普通の人間とは違う」

「・・・・・・」

表情にこそ表さないが、内心で驚くリリア。え?人と天使って、魔力の質と量はともかく、流れとかも違うんですか?的な。

「さてと。オマエが人外だろうが実は人間だろうが関係ねぇ。オマエに恨みはねえけど、ぶっ殺させてもらうぜ」

そういうとゾルディックは、服の中から小さな指揮棒のようなものを取り出す。

「貴方、魔法で戦うんですか?先ほどは両刃りょうばの大剣を使っていた気が・・・・・・」

かなりの腕前だったはずだが・・・・・・。

「あぁ。ありゃお遊びだ。俺の十八番は魔法でね。まあこれでも魔人なんで。あぁ、さっきの質問に、答えておこうか」

「いえ、別に構いませんよ。愚問でしたし。空間魔法がサタラの得意分野である、というだけで、貴方が使えないというのは早計でしたね」

「おいおい冷てぇな、聞いてくれよ。つーか、本当にヒントくらいは教えるつもりだったんだぞ?」

ニヤニヤと、余裕の笑みを浮かべる

「俺がさっき使ったのは、空間系とはまったく別系統の魔法だよ」

その瞬間。10メートル以上離れていたゾルディックは、すでに目の前に現れていた。

「っく!」

完全なる反応で、魔法を使い即興で強化した拳を振るうが、しかし手応えは皆無で、空気を揺らすだけであった。

「はは!危ない危ない」

「・・・・・・いつの間に」

最初の位置に戻っているゾルディックは、カラカラと笑う。

そんな声を聞きながら、リリアは思考を進める。

(空間魔法ではない・・・・・・。にわかには信じがたい。実際、今の動きを説明するには、それが妥当・・・・・・。しかし、彼の言葉を信じるのなら。他に何か可能性はあるのか?)

材料が少ない。判断が付かない。

(とにかく今は、彼に手札を切らせるしかない・・・・・・!)

「今度は、こちらから行きます!」

駆け出しながら魔法を使い、ゾルディックの足を、氷で地面に縫い付ける。

「おっと、冷てー!あとこのままじゃ危ねえな!」

そういって、横に跳ぶ。

「はっ!?」

完全に予想外の動きに、リリアの思考は一瞬硬直する。そこへ、リリアの顔を狙ったゾルディックの鋭い蹴りが繰り出される。

このタイミングでは避けられない。せめてガードだけでも、と反射的に腕を顔の前でクロスさせる。しかし。

「――――――がはっ!?」

バコッ!と鈍い音が響き、リリアがを蹴られて吹き飛ぶ。10メートルは後方へ跳び、なんとか足で地面に着地しブレーキをかける。

思わず腰を曲げて腹を押さえながら、途切れ途切れの思考を進める。

(おかしい。確かに顔に迫っていたはず・・・・・・。蹴りの熱も感じましたし・・・・・・)


――――――熱?


つい先ほど、ゾルディックを氷で縫い付かせたはずの地点を見る。やはり、わずかに氷は残っていたが・・・・・・やっぱり。水溜りが出来ていた。

(突然現れる、いや。位置を誤認する現象に、攻撃の変化。そして、おそらく溶けたのであろう氷。つまり)

「・・・・・・熱を操っている」

その呟きは、ゾルディックに届いていたようで。

「ああ、気付いたか。その通りだよ。さっきから俺は熱、つーか温度を操っていた」

氷はただ溶かしただけ。位置を勘違いしたのは蜃気楼。温度というからには、一部を温め一部を冷やす、というようなことをしたのだろう。

「つまりだ。俺は冷気も操れるんだよな」

その瞬間、リリアの周りの気温が、一気に下がる。体感で、おそらく零度前後だろう。今の時期の常温が二十五度と暖かいため、その変化は身体に支障をきたすレベルだろう。

「身体の動きを制限するつもりですか。しかし」

リリアにも、その程度のことには対処出来る。自分の体温を上げ、身体から熱がなくなることを防ぐ。

「私にも、それくらいは対応できますよ」

余裕の笑み、というほどでもないが、それでも笑ってみせる。しかし、それを見てもゾルディックの態度は変わらない。

「だろうよ。その程度で終わられたら逆に困る。オマエを偽者にせものと判断せざる終えんしな。つーわけで、そろそろ俺も、攻めに回るわ」

そういうとゾルディックは、持っていたステッキを振る。

「?!」

空気の流れが。正確に言えば、気温の流れが乱れる。

何が起こるかはわからないが、とにかく異変から離れようと後方に跳ぶ。が。


ビュウッ!


リリアの身体が、右側に弾ける。弾ける、というより吹き飛ぶ、というのが正しいか。

バァンッ!と。決して狭くはない通路の壁に叩き付けられる。


「く、かはっ!・・・・・・なにが・・・」

痛みよりも驚きの方が大きいのか、疑問の言葉を口にする。

「教えるわけがないだろ。そんなことしたら、俺の手札がバレちまう」

さらにステッキを振るうと、またもや空気が乱れる。

とにかく、空気の流れを変えなければ。

腕を振るい魔力の力を吐き出し、大雑把に大気を操る。

しかし。


(魔法が・・・・・・使えない?)

空気に流そうと、腕に纏わせた魔力が離れない。

困惑するリリアに、先ほどと同じ衝撃が襲う。

「くっ!」

離れない魔力を、とにかく腕の強化に回し、衝撃に備える。

腕を弾かれながら、何とか堪える。しかし、その表情は冴えない。

(おかしい・・・・・・。まさか、魔力の操作ミス?)

魔力の操作ミス。珍しいことではあるが、ありえないことではない。リリアほどの使い手となれば滅多に無いことが、可能性としてはゼロではない。しかし。

(今の感じは違う。何かにせき止められるような・・・・・・・・・そうか)

そこで気が付いた。自分がいる、不自然に魔力の流れが無いこの空間の異質さを、思い出し、思い至った。

「お、気が付いたか。そうそうその通り。俺の、まあ魔人としての能力ってとこかな?いや、能力というか特質というべきか?まあどうでもいいか。俺はな、魔力の流れを視認化、操作できるんだよ」

魔力の操作。それがどれほどに恐ろしく凶悪な能力ちからか。そのことに気が付いたときにはもう遅く。

「そう。つまり、こういうことだ」

その瞬間。リリアは地面に膝を付いた。体内で何かが蠢くような、何かが身体を蝕んでいくような感覚に襲われる。

「人為的な、魔力の操作ミス、暴走を引き起こすことが可能だ。オマエの体内は今、魔力の暴走を始めた。しばらくすれば、その影響は自身に及び、人体は崩壊する」

(くっ・・・・・・これは、本格的にマズイですね)

自分の身体、自分の魔力。崩壊はすぐに始まる。約2分後には崩壊が始まり、おそらく10分後には死に至るだろう。

ゾルディックを倒せば、解放されるだろうが、現実的には無理だ。

この場から離れる、というのもおそらく無駄だろう。それに、そもそもゾルディックがそれを許してくれるとは思わないし、こんな状態ではそもそも不可能だ。

戦うことも、逃げることすら出来ない状況。

「気が付いてくれたか。俺としては、無駄な抵抗はしないで、そのまま大人しくしてくれると助かる。好んで病人を甚振れるほど、俺の神経は太くないんでね」

「・・・・・・しかし、諦めるわけにはいきません」

震える足で、壁に手を付きながら、歯を食いしばって立ち上がる。

魔法は使えない、武器も出せない。おそらく、本当に何も出来ないこの状況でも、諦めることは出来ない。

リリアのそんな姿を見て、しかしゾルディックはただ呆れたように息を吐く。

「は~。ったく、無駄な抵抗はしないでくれって頼んだだろうが。多少は期待ハズレでがっかりだったが、まあいいか。オマエの頑張りに応えて、冥土の土産に1つ、俺の手札を明かしてやろう。さっきオマエをぶっ飛ばしたあの技。あれはな、大気中の温度をいじって空気の流れを変えただけだ。明かしてみればその程度。ただの現象だ。俺がきっかけを与え、自然が結果を作り出す」

両腕を広げ、迎え入れるような仕草を見せながら、ゾルディックは近づいてくる。

「まあでも、別に恥じることはねぇよ。俺相手にそこまでやったんだ、仕方ねえ。俺は魔力を操るからな。魔力を体内に持つことが当たり前のこの世界、俺に勝てるやつはまずいねぇんだからよ」

ゾルディックは笑って言う。

「だから、諦めて楽になれよ」

諦める。そんな言葉を、受け入れることは出来ない。リリアは、今にも倒れこみそうなのを堪え、無理矢理に一歩進む。

(確かに、こんなことは無駄なのかもしれない。全く意味の無い、余計なことかもしれない。それでも!)

「どれだけ無駄でも、どれだけ無意味でも。私は、ここで倒れるわけにはいかないんです・・・・・・。この世界を救ってくれ、なんて頼んで、私が1人で先に倒れるわけにはいかない。彼らを置いていくわけにはいきません!」

一歩、進む。それだけで、身体からは力が抜け、倒れこみそうになりながら、それでも歯を食いしばる。目は乾いて、瞬きすれば二度と開かないかもしれない。前だって霞んで見える。身体が熱くて服まで燃えそうだ。

「リュージは私に、ずっと一緒にいてくれと言いました。サタラも、エクスも、私を必要としてくれます。なにより、彼らとの日々を、こんなところで失いたくありません」

「だから私は諦めません。無駄でも、無意味でも、抗うことを止めません」

しかし、そこまで言ったところで、ついに倒れる。その身体を、地面に投げ出す。

「崩壊が始まったか。残念だったな。でも、今の気力は凄かったぜ。オマエスゲーよ。できることなら、もっと別の形で出会いたかったな」

地面に突っ伏しながら、それでも進むために身体を動かそうとするが、しかし全く動かない。

そんな状況になっても、諦められない。

思わず、といってもいい。

唯一動く口が。最後の抵抗をした。


「・・・・・・助、けて」

「まかせろ」

その瞬間。立っていたゾルディックの腹部が吹き飛び、その姿が消える。

「おぉっと危ねぇ!」

「ちっ、幻覚か」

リリアからは15メートル、ゾルディックからは10メートルほど離れた通路の先から、舌打ちをするその少年は、リリアの良く知る者だった。

鈍い銀色光を放つ刀、淡いあかの光を放つ刀。そんな二刀を握り締める少年は、リリアの姿を確認すると声をかける。

「ようリリア。助けに来た」

「リュー、ジ・・・・・・」

「ちょっとヤバめな状況だな。待ってろ、すぐにコイツをぶっ倒す」

「・・・・・・わかりました。終わったら、起こしてください。あとは・・・・・・任せました」

「おう」

少年が力強く答える。

リリアは、久しぶりに見た少年の真剣な表情に安心して、目を閉じた。



「オマエ、リュージだな。今回のターゲットはオマエじゃないんだ。無駄な戦闘はしたくない」

「黙れ」

ゾルディックの言葉に、しかしリュージは取り合わない。ただただ、怒気と殺気を立ち上らせる。

「状況はわかってるのか?あと5分ちょいで、そいつの身体は崩壊するわけだが」

「なら、1分で終わらせるだけだ」

そこまで言うとリュージは、駆け出し刀を振るう。

がん!」

音速を超えた速度で繰り出される剣戟は、またも空を切る。

「おっと、怖えぇ。でも、オマエは俺の姿を捉えられ――――――」

灯篭とうろう!」

広範囲に及ぶ斬撃。幻覚も、隠れた本体もまとめて切り捨てようという一撃を、思わず回避するゾルディック。

「ぐっ!くそ、掠ったか」

斬撃を受け、血を流す横腹を手で押さえる。しかし、リュージはその隙も与えず、左右の刀を振り付ける。

「っく!」

咄嗟に空気を叩きつける。リュージはそれに気が付かずに、腹に衝撃を受ける。ボディーブローを受けたように、口から空気を吐き出す。しかし、それだけだった。

「ぐ・・・・・・あぁあああああ!」

腹部の痛みを気にせずに、さらに踏み込むリュージ。その行動を見て、ゾルディックは困惑した。

(くっ、このままじゃマズイ!コイツは本気で殺す!)

そして。必殺である魔力操作で、リュージにも魔力の暴走を起こそうとする。

そこで、ゾルディックは気が付く。

(コイツ・・・・・・体内に魔力を持っていない!?)

そう。元々、魔力の概念を持たない世界で生まれ育ったリュージは、いや折坂竜司は。覚えたての魔法しか使えず、本来は体内に溜め込んでおく魔力を、その場その場で生成するリュージは。

この世界で数少ない、ゾルディックの天敵となるのだ。

(魔力がないと、コイツに干渉できない!なら、体温を操って仮死状態に・・・・・・!)

リュージの体温を下げるため、ステッキを振るおうとする。

その瞬間には、もうすでにリュージは目の前に迫っていた。

「リリアの分だ。遠慮せず取っておけ」

もう、技名すら言わない。ただ、二本の刀を、魔人の身体に叩きつける。

「オォオオオオラアアアアアア!!!」

だからこそ。地の文であえて言おう!覇刀流二刀【重量爆心じゅうりょうばくしん】。重力を叩きつけるかの如き衝撃と共に斬撃を繰り出す、メチャクチャ派手な技なのだ!ちなみに、最初ゾルディックの腹部をブチ抜いた技は【大砲かのん】。補足説明をすると、現代の大砲は英語で言うとGUN(がん)であるが、まあこの技考えたのは昔の代の人だから、時代錯誤もしょうがないよね!



「おいリリア、大丈夫か!」

宣言どおりに速攻でゾルディックを倒したリュージは、慌ててリリアに駆け寄る。

「えぇ・・・・・・。どうやら、暴走は治まったようです。まだ少し辛いですが、放っておけば回復するでしょう。今後、どうこうなるようなものではありません」

「そ、そうか。良かった」

「しかしリュージ。よくここがわかりましたね。メチャクチャいいタイミングでしたよ」

「あぁ。どうも嫌な勘が働いてな。美少女のヘルプが聞こえた」

「それが本当なら、凄く便利な能力ですね」

「まあそのために、ステージのほうは全て投げ出してきたけどね!」

その言葉を聞き、リリアは呆れ顔を見せる。

「・・・・・・は~、そうですか。まったく、貴方はシリアスに徹することが出来ないんですか?」

「時と場合によるな。今は、お前を助けたから安心した」

ニカッと笑いかけるリュージに対し、若干のテレが出てしまったリリアは、慌てたように取り繕う。

「そ、それよりも。サタラのほうはどうなのですか?」

「あー、いや。サタラのほうはわからん。どこにいるのか見当も付かないし。エクス。お前わかるか?」

『キミはボクを何だと思っているんだい?そんな探知機みたいなこと、出来るわけが無いじゃないか』

リュージの問いかけに、彼が握った刀の片割れが答える。

「おいおい。お前も、魔力ってのを感じ取れるんじゃないのか?」

若干不満げに文句を垂れるリュージに対して、しかしエクスの態度は変わらなかった。

『だから、前から言ってるじゃないか。調子が悪いって』

調子が悪い。その一言に、リリアは何かを感じる。言葉には出来ないが、明確な嫌な予感。

しかしリュージは、それとは別の嫌な予感を感じていた。そして。

『ぐあぁああああああああああ!!!』

「ッ!この声は」

リリアが驚いている間に、すでにリュージは駆け出していた。

「お前はしばらく、そこで休んでろ!俺が行く!」



声、というか絶叫が聞こえてきた方向に、ただ感覚と勘で駆けていく。はたしてどうやら、その勘は正解だったようで。

「ぐ、あ・・・・・・」

壁に背を付き座り込む、血塗れのサタラと。


「短期間での成長。やはり貴様は逸材だな。しかし、俺の計画の遂行を邪魔するのであれば、余計でしかないな」

脳に直接響いてくるような、感情の無い声。身体には一切の出血の、傷もなく、返り血すら浴びていない。空気中の水すらも弾きそうなほどの威圧感を放つ、この場の支配者。


「む?なんだ来たのか。久しいな、人間」

「魔人・・・・・・!」

絶対的な支配者を前に、身体が、脳が。本能的な恐怖を訴えてくる。しかし、だからこそ。恐怖で足が動かない。進むことも、逃げることも出来ない。ボロボロのサタラに、駆け寄ることすら。

そのとき。

蚊の鳴くようなか細い声で。残りわずかな、最後の力を振り絞るかのような声を聞いた。

「りゅ・・・・・・じ」

「サ、タラ・・・・・・?」

彼女は、すべてが抜け落ちたような、何も無い表情で、呟く。


「ごめん」


目を閉じ、動かなくなるサタラ。元、魔人。そして、友であり仲間でもある彼女は、わずかにも動かなかった。

それをみて、ただそこに立っているだけの魔人は。

「・・・・・・ふん」

つまらないものでも見るように息を吐き。


刀を握った少年は。ありとあらゆる感情を押し殺し、ありとあらゆる全ての感情を、たった一言に押し込んだ。


「・・・・・・殺す」


作者「文化祭終了!ドンドンパフパフ~」

リュージ「いえー。でも、あんまり触れないで欲しいんだろ?」

作者「・・・・・・そうだね。先輩と野球拳した思い出くらいしかない」

リュージ「学校でなにしてんだ」


作者「はい、というわけでですね。ようやく物語が進み始めましたね」

リュージ「でも、スランプは一向に抜け出せないな」

作者「そう簡単に抜け出せれば苦労しねぇんだよ」


リリア「後書きにくるのも久しぶり、ですね」

サタラ「あぁ、そうだな・・・・・・って、オレ出ても大丈夫なのか?」

リュージ「え?なにが」

サタラ「いや、なにがって・・・・・・。ほら、オレ物語の中でなんかこう、いろいろヤバくなってるじゃねえかよ」

作者「あー、大丈夫です。その辺はほら、時系列がどうとかこうとか」

エクス「わー。説明が適当だー」

作者「まあぶっちゃけ。ここは神も侵せない特別空間だからね。本編のほうのことは気にしなくてオールオーケーなのさ」


作者「本編といえばエクスさん。貴方、なにやら面白そうな伏線を引いてらっしゃらない?」

エクス「うん?あぁ、あれね。まあ伏線ってほどのことじゃないけどね。キミがうまく拾ってくれるのを楽しみにしているよ、作者君」

作者「腹痛とかでいいか?」

リュージ「いいわけねぇだろ」


サタラ「番外編のほうは、ちょっと手付かずだな」

リリア「どうせ言い訳は、前話後書き参照なのでしょう」


作者「それじゃあ、これからも応援よろしくですってことで、締めましょうか!」

リリア・サタラ「ふるえるたかぶる異世界バトル『転生した俺は勇者として魔法世界を救うらしいですよ?』」

エクス・リュージ「お楽しみに!」

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