第十四話:お家に帰るまでが遠足です!
お久しぶりです!では早速どうぞ!
「・・・他愛ない」
魔人は一言、つまらなそうに呟くと、その手に握っていたものを放した。
かつて魔人だった少女の体が、重力に従って倒れこむ。
圧倒的だった。
この場で立っているのは、魔人ただ一人。この空間の完全なる支配者であった。
(・・・く、そ)
体が重い。リュージは、かろうじて動く首を振り、周りの状況を確認した。
サタラが見えた。そしてリリアとエクスの気配も感じる。全員、息はあるようだ。
その確認だけでも、引き裂くような痛みが全身を襲う。
(どう、なったんだ・・・)
魔人が何をしたのかがわからなかった。圧倒的なスピードで移動したわけでも、強靭な腕力を振るったわけでも、強力な魔法を使ったわけでもない。
ただ、気づいたときには体が吹き飛ばされていた。
いや、正確には何かを感じた。恐ろしく濃密な、殺気の塊のようなものが、自分たちに迫ってくるのを。
(ふざ、けんなよ。こっちは一国と一戦交えるレベルの戦力だぞ。それが、こんなにあっさり、全滅・・・?)
誰一人として起き上がれない状況の中、場違いなほどに簡単な声が響く。
「多少は期待していたのだがな。この程度で全滅とは・・・。しかしまぁ、目的を果たす。という点に関しては好都合だ」
足音が響く。そちらへ目をやると、魔人はサタラの正面で歩みを止める。
「では始めるか。下拵えだ」
その右手に、何かを纏う。濃い緑色をした、嫌な色だ。
本能的に感じた。あれはマズイと。
「サ、タラ・・・」
しかし届かない。どれだけ脳から信号を送っても、その四肢は動かず、ただ指が微かに、芋虫のように動くだけだ。
そして、その光が魔人の手から離れ、サタラに届く。
―――――――――はずだった。
「・・・なに?」
光がサタラに届く直前、何かが弾け、光が霧散した。
と、同時に。
背後から、恐ろしいほどの威圧感を感じた。
リリアが起き上がり、リュージを飛び越え魔人の正面に立つ。服はボロボロで、体に傷も見えるがしかし、その佇まいは痛みを感じさせなかった。
「離れなさい」
一言。
そのたった一言で、この場の空気が一変した。
「リ、リア?」
それは間違いなくリリアの声だ。しかし、何かが違う。
正面をみると、相変わらずの無表情の魔人がいたがしかし、その目にはわずかな変化があった気がした。
「・・・それが、貴様の真の力か」
魔人の言葉には取り合わず、リリアは右腕を前に突き出した。
それだけで、サタラの体がリュージたちの背後に移動した。
突き出した右腕を軽く振るうと、虚空から氷の剣が現れた。
音はなかった。
正面から剣を叩きつけたリリアに対し、魔人はただの腕で受け止めた。残った腕でリリアの腹を殴りつける魔人だが、それは見えない壁に阻まれたかのように防がれる。
「その程度では、今の私には届きませんよ」
そういってリリアの放った蹴りを、再度腕で受けた魔人は、地面を抉りながら後方に滑る。
「・・・・・・そろそろ頃合いか」
そういうと魔人は、両手を下ろす。
「今の状態では、その女の相手をするには少々手が掛かりそうだ。貴様らのような者とは、万全の状態で望むが礼儀であろう」
そういうと魔人は、地面を軽く踏む。
それだけで、爆発が起こった。
土煙が晴れた時にはもう、魔人の姿はなかった。
そこまで確認したと同時に、リュージの意識は消えた。
◆
あれからどれだけの時間がたっただろうか。数秒にも感じられたし、数時間にも感じられた。
おそらく、いくらか時間はたったのだろう。俺は、ニーナの家の部屋に敷かれている布団にいた。
と、そこまで状況確認をしたところで俺は、気がつけば拳を握りこんでいた。
絶望的だった。全く届かなかった。もしあの時、リリアが戦ってくれていなかったら、俺たちは全員死んでいただろう。少なくとも俺は。
俺だって、それなりに強くなっている。この世界に初めてきた時と比べれば、その差は小さくないはずだ。
しかし、あの魔人はそんなレベルじゃなかった。そもそも、次元が違った。パワーが足りないとか、素早さが足りないとか、そういう問題ではなかった。同じ土俵に立つことさえ出来なかった。
・・・・・・が、そこで立ち止まるつもりはない。
確かに、アイツにはまったく届かなかった。何も出来なかった。でも、それが立ち止まる理由にはならない。アイツは今回、サタラを狙ってきた。それがどういう目的なのかはわからない。元魔人のサタラに用があったのか、それともサタラ自身に用があったのか。だが、そんなことは関係ない。
「・・・上等だ」
アイツらの狙いはわからないし、止める方法も力もない。
だからどうした。その程度が、諦める理由になんかならない。
アイツらがまだ、嫌がるサタラを追い掛け回すなら、そのために仲間を傷つけるっていうなら、そんなふざけた筋書きは、俺が跡形も残さずにブッ潰す。
◆
部屋を出てしばらく歩くと、ニーナと会った。
「おっ!久しぶりだなニーナ。元気してたか?」
「てっ!え?もう起きて大丈夫なんですか!?」
ニーナが困惑したように聞いてくる。
「あぁ。まだ少し痛むけど、歩く程度なら・・・」
そういうとニーナは、そうですかと呟いて、安心したように息を吐く。
「悪かったな。心配かけて」
本当に、心からそう感じたので、とりあえずは謝罪。悪いと思ったらすぐ謝ることが大事です。
「本当ですよ。心配したんですから。これからは気をつけてくださいね?」
あぁ。と頷く。わかってる。これからは、もっと強くなる。誰にも心配をかけないように・・・。
あ。誰にもと言えば、あいつらはどうしたんだ?
「なぁニーナ。あいつらはどうした?」
「他の皆さんは、もうお目覚めになりましたよ?全員、怪我の完治とまではいきませんが、二、三日安静にしていれば大丈夫ですよ」
「そうか・・・」
よかった。全員ズタボロにされてたけど、大丈夫だったんだな。さすがだ。
すりとニーナは、ハッとしたように手を合わせた。
「そうだ!お腹空きましたよね?食事の用意をしてきます!」
おぉ、そういえばずいぶんと食ってなかったような気がするぞ!あぁ、思い出したら急に腹が減ってきた・・・。
「あ、でもあんまり食欲とかないですか?それならお粥とか雑炊とかにしますけど・・・」
「あぁ、いや。気にしなくていいぜ?むしろ腹が減りすぎて、いつもよりガッツリ食いたいくらいだ」
じゃあ、ご馳走を作らなきゃですね!と嬉しそうに言うニーナ。なるほど確かにご馳走はありがたいが、一人であの人数分作るのは骨が折れるだろう。
「じゃあ俺も手伝うよ」
「え?いいですよ!リュージさんは怪我人なんですから、ゆっくりしていてください」
「いやしかし・・・」
それではどうも悪い気がする。というか純粋に大変だろう。
「まぁまぁ気にするなって。一人で作るのは大変だろうし、それに、ニーナが料理してる姿見るの好きなんだよ」
「・・・え?」
俺の言葉を聞いて、ニーナの動きが少し止まる。
「えぇ・・・と、その・・・それはどういう・・・?」
どういうって。
「いや。みんなのために一生懸命料理してるニーナの姿ってのが、見ていて気持ちがいいんだ。嬉しくもあるしな。素敵だと思うぜ?」
料理の味を決めるのは、それに込める気持ちである。その点、ニーナがみなに注ぐ気持ちは、どんなスパイスにも劣らない最高の調味料だ。
「~~~~~~ッ!」
あ、あれ?
「ど、どうしたニーナ!?なんか暴走しかけてますけど!?」
「お、お風呂・・・そうお風呂!食事は私が用意しますから、リュージさんは汗でも流してきてください!それではごゆっくり~~~!!!」
・・・ニーナが走り去ってしまった。いったいどうしたんだ?
「まぁ、そこまで言われたら任せるけど・・・」
なんだったんだろうな。
「まぁいいか。確かに寝たきりだったから汗もかいたしな。一風呂浴びてくるか」
◆
(ビ、ビックリしたぁ~~~)
台所には、先ほどの出来事にいまだ少し動揺しているニーナがいた。
「まさか面と向かってあんな事をいうなんて・・・・・・いえ、リュージさんはそういう人でしたね」
あの性格は諦めるしかないのでしょうか・・・。というか、本当に素なんですかね。それはそれで気になりますが・・・。
「とにかく今は料理に集中です!」
せっかく皆さんが帰ってきたのですから、腕によりを懸けて・・・・・・て。
「あれ?皆さんが・・・帰ってきて・・・」
そういえば・・・・・・皆さんが起きてきた時、どんな会話したっけ~~?
『皆さん目が覚めましたね。リュージさんはまだ眠っていますから、今のうちに汗を流しておいては?』
『そうですね。ではお言葉に甘えましょう』
「――――――ッ!?」
キュピーンと、名探偵コ○ン君のように閃いたニーナは、普段では見せないような全力ダッシュで、風呂場に向かった。
扉を開けて開口一番。
「リュージさん、だめぇええええ!!!」
そこには、ちょうど風呂から上がってきた三人と鉢合わせ、一時的に思考が停止している両陣営が・・・。
『・・・・・・(リリア・サタラの沈黙)』
『・・・・・・(死刑の執行を待つ少年)』
「ははは・・・リュージ君。この展開は、いくらなんでも出来すぎだよ」
リリアとサタラが拳を構え、割と本気でストレートをかます寸前。少年は最後(最期?)の雄たけびを上げた。
「これは陰謀だバァガハッ!!!」
少年はこの日。ノックと確認は大事だ、ということを改めて学んだ。
リュージ「いやぁ、ここ来るのも久しぶり、というかちょうど一ヶ月ぶりだな」
エクス「そうだねぇ~。ところで、本編ではボクたち色々大変だったよねぇ」
リリア「あの魔人はいったい何者なんですか?あまりにも強すぎます」
サタラ「いや、あいつに対抗できてた時点でお前も強すぎだよ」
リュージ「そういや作者。つい一昨日に学年末試験が終わったんだよな」
ニーナ「そうなんですか?結果はどうでした?」
作者「いや、返却日はまだだからわからんが・・・」
リリア「それでも、やった感触とかはあるでしょう?」
サタラ「そうだよ。手応えはあったのか?」
作者「・・・・・・ふっ」
ニーナ「なぜそこで遠い目を!?って、作者さん?小さく『ははは』とか笑わないでください!怖いですよ!」
リュージ「・・・・・・駄目、だったのか?」
作者「ふふふ・・・。俺、二年生になって先輩って呼ばれたかったな」
サタラ「ぅおおい!なんか悲しい未来予想図が漏れてるぞ!?」
リリア「重症ですね・・・」
ニーナ「作者さん!私が呼んであげますから!先輩ッ!」
作者「・・・ふはは」
ニーナ「ふぇええ!?もっと暗くなってしまいました!」
エクス「今の彼には逆効果だよ・・・」
リュージ「まぁ終わっちまったもんは仕方ねぇよ。あとは結果を待つのみだ」
エクス「果報は寝て待て。だね♪」
サタラ「・・・果報だといいな」
リリア「全くです」
リュージ「さて。次回はどんな展開になるんだ?」
作者「おう。いい加減、遺跡のほうに行こうと思う」
リリア「そういえば、そんな設定がありましたねぇ」
サタラ「でもその前に、もう数話、村での話を入れるんだろ?」
作者「あぁ。ぶっちゃけ書きやすいしな!」
エクス「笑顔で言うことでもないと思うけど・・・」
ニーナ「ははは・・・」
リュージ「んじゃ、あれ行くか」
エクス「震える昂る異世界バトル『転生した俺は勇者として魔法世界を救うらしいですよ?』次回もお楽しみに!」
エルクリア「そういえば。長ったらしいタイトルってもうそろそろ廃る説が、一部ではあるらしいわね」
作者「そういうこと言うなよ!」




