取引現場襲撃
十一月二十三日月曜日午前十時三十七分
銀色のバレルの中に先端にブラシが付いた細長い棒を出し入れしていた。これで中の埃や火薬の滓などを落とす事ができる。
中を覗く。綺麗に汚れが落ちている。スライドにバレルを差し込む。バネの付いた細い棒も差し込む。
小さな布にオイルを少し染み込ませ、フレームの上部を拭く。スライドとフレームを取り付け、スライドを何回も引いた。これで動きを確認する。
9mm弾丸をマガジンに十五発押し込み、一発を薬室内に入れた。これで十六発撃てる事になる。
安全装置をかけ、ベレッタを横に置いた。バックからH&KのG36Cを取り出した。半透明のマガジンを抜き出し、テイクダウンピンを外し、銃をバラバラにした。
突然、テーブルに置いた携帯電話が音を立てて震えた。
「もしもし」
「今すぐ逃げて!」
女の声だった。とても懐かしく感じた。
「何訳のわからねぇこと言ってるんだ?」
「いいから!すぐに警察が来るわ!」
女は必死になっていた。マスターが現れた。
「パトカーが来るぞ」
淡々と言った。電話を切った。急いでバックにG36Cを詰め込め、ベレッタをホルスターに入れた。
「こっちだ」
マスターが裏口のドアを開けた。バックを持って裏口に向かった。
「後で連絡する」
「あぁ」
裏口に出た。裏口と言っても屋根の上に出ただけだった。目の前は小さな路地があり、向かえに家がある。
屋根から屋根に飛び移った。屋根の上を静かに移動し、また屋根に飛び移った。そこで屋根を下り、迷路のような路地を駆け抜けた。
腕時計を見た。十時五十六分。ラークを取り出し、火をつけた。工事現場の周りを歩いていた。“中に入るのは簡単に出来そうだ。”と煙を吸い込みながら思った。
携帯電話を取り出した。辺りを見渡した。花屋のワゴン車が止まっていた。中を覗くが誰もいない。植木鉢の中に放り投げた。その場を離れ、近くにあったファミリーレストランに入った。
「いらっしゃいませ」
女の店員が頭を下げていった。店の中はだれもいなかった。
「お一人様ですか?」
「あぁ」
「こちらへどうぞ」
花道通りが見える窓側の席に行った。席に座りバックをすぐ横に置いた。
「お決まりになりましたらそこのボタンを押して下さい」
店員がメニューを置いてレジに向かった。
店の前をさっきの花屋のワゴン車が通っていった。
壁に掛かった時計が九時三十分ジャストをさしていた。ドアがノックされた。
「入れ」
ドアが開き、部屋の中に男が入ってきた。男は黒のスーツに赤いネクタイをしている。
―この男は劉偉の護衛で徐虎。年齢二十九歳。一九八六年六月十八日生まれ。香港の特集部隊のSDU、別名、飛虎隊に所属していたが、一年前に辞める。そこを劉が雇い掃除屋の仕事などを難なくこなし今に至る。
「時間です」
低い声で言った。
「好(分かった)」
白いロングコートを着た。
ビルの前に出ると黒いベンツが二台止まっていた。携帯電話が震えた。電話に出る。
「はい」
『取引は大丈夫か?』
林迎明だった。
「順調です」
目の前に徐が現れ、車のドアを開けた。
『ならいい。しっかりやれ』
車の中に入る。
「お任せ下さい」
電話が切れた。横に徐が座った。
「出せ」
徐の言葉で車が動き出した。
車はゆっくりと花道通りに出た。花道通りは車が列になって走っていた。
「奴は来るんでしょうか」
スーツの中からグロック22を取り出した。
この銃はオーストラリアの銃で、銃全体がプラスチックで出来てるのが特徴である。この銃のもう一つの特徴はトリガーセフティーだ。文字通りトリガーの所に安全装置が付いてるのだ。
ポケットから一発の弾丸を取り出し、チェンバーの中に押し込み、腰からマガジンを取り、銃に差し込んだ。これで十六発撃てる事になる。
「奴は来るさ」
徐はグロックをスーツの中に隠した。
「ならいいですがね」
工事現場の入り口に付いた。作業員が入り口のフェンスをずらしていた。フェンスが無くなると車は中に入っていった。
黄色いヘルメットを被った作業員と銃を持った男達が至る所にいた。
ドアが開いた。車から降りると周りに五人の男が集まった。
「こちらです」
先頭の男の後をついていった。
木製のドアの前にレミントンのM870のソウドオフを持った男が横に立っていて、目が合うとドアを開けた。
ドアの向こう側からは何やら話し声を聞こえてくる。どうやら来ているようだ。
ドアを抜けると広いスペースがある空間に出た。丁度吹き抜けの様に二階から下を見る事ができる。
目の前には大きな張りぼての建物が建っており、その下を潜り、作業員が設計図を見て意見を交わすと思われるテーブルがある。
「Hi!Mr.Rau!」
左隅に四人で固まったアメリカ人がいた。その中の一人が手を挙げている。
劉は微笑みながら近づいた。男は劉より背が高く、近づくにつれてそれがはっきり分かる。
「Welcom to Japan(ようこそ日本へ)」
手を出しがっちりと握手をする。多少男は劉の英語の上手さに驚いていた。
劉は振り返り、顎に髭を生やし、黒い丸サングラスをかけた男に目を合わせた。男はすぐに大きなトランクを二つ持ってきた。
「Any chane of actually seeing the money(取引する前に金を見せてくれないか)?」
男は微笑んだ。
「Of course(勿論)」
後ろから白人の男が大きなバックを持ってきた。それをテーブルに置き、ファスナーを左から右に動かす。既に金が少し覗いている。
「It's exactly 50 million(きっかり五千万だ)」
男はそう言うとマルボロを一本出した。
斜め後ろにいた男に目で合図する。男は頷き、金の入ったバックに手を入れ、一束出した。ページをめくる様に札を確認する。
「大丈夫です」
目をぎらぎらと輝かしながら言った。相当嬉しい様だ。
そのバックの横にトランクを置いた。
劉は男に小さな袋を投げた。男は右手でそれを受け取る。
「Mike」
後ろからマイクと言う男が現れた。完璧にヤク中の目だった。
マイクはそれを受け取りとテーブルの上で開け、小さな剃刀の様な物を出し白い粉を千切りをする。それが終わるとストローの様な物を出し、片方を粉にもう片方を鼻の穴に入れる。吸い込む音共に粉があっと言う間に消えていく。
マイクは少しの間眉間に皺を寄せていたが、次第に笑顔になっていった。男は煙草を踏みつぶした。
「It was good dealings(良い取引だったよ)」
手を差し出した。
「Thank you」
握手した。それとほぼ同時にエンジンがかかる音がした。見るとドラム缶を持ち上げたホォークリフトが動き出した。
「奴だ!」
一人が叫んだ。
エンジンをかける時間はそれほどかからなかった。なんせ鍵がご丁寧に差し込まれたままだったからだ。
ドラム缶に当たる音がした。だが、ドラム缶の中には水が入っているので貫通はしなかった。
左手でハンドルを握り、右手で足下に置いたH&KG36Cを持ち上げる。
銃弾が飛んでくる。構わず走らせた。G36Cをドラム缶の間から撃った。凄い振動が肩を通って体全体に伝わる。
四人が真後ろに殆ど飛ぶ様に倒れた。突然、車体が傾いた。木村は舌打ちをした。タイヤを撃ち抜かれたのだ。
ハンドルをきり、半ば壁に突っ込むように止まった。無数の銃弾が飛んできた。すぐさまフォークリフトから降り、銃撃を開始した。
二階からも銃を撃ってきた。すぐ横にあった鉄パイプに当たった。銃を上に構え、撃つ。男の体から血が飛び散った。前かがみになり、そのまま二階から落ちた。鈍い音がした。
ウージーを持った男が撃ってきた。すぐさま壁に隠れる。9mmの弾丸が飛んできた。
左を見ると劉が男に付き添われ逃げてるのが見えた。撃った。だが、劉には当たらず後ろにいた男に当たった。
カチッという音が鳴った。弾切れだ。予めポケットに入れておいたマガジンを取りだし、弾の無いマガジンを抜き、新しいマガジンを差し込んだ。
角から銃だけを出し、撃ち続けた。ある程度撃つと、勢い良く飛び出した。反応はなく、血を流して倒れた男がいるだけ。
劉の逃げた方に走った。骨組みの建物に入ると、上から音がした。降りてくる音。そう判断し、階段の一歩手前にある鉄板の様な物を支えている固定具を撃った。ボルトやらプラスチックの破片が飛んだ。運良く。男が二人、窓を突き破って落ちていった。
G36Cの弾が無くなった。バックに入れ、腰からベレッタを抜き取る。また走り出す。
ドアの横の小さな窓に男が三人通った。透かさずもう一挺のベレッタを抜いた。
二挺のベレッタをドアに向かって交互に撃った。弾丸が木製のドアに吸い込まれていく。ドアを蹴り破る。三人が倒れている。一人は口から大量に血を吹き出している。そのせいで噎せていた。
三人の横を駆け抜けた。丁度車に乗り込んでいる時だった。二挺のベレッタが火を噴く。ヘッドライトが破裂した。ボンネットにも何発か抉り込んだ。
サイレンが聞こえた。しかも、一台や二台じゃない。それでも、撃つのを止めない。
エンジンがかかる。片目のヘッドライトが目に飛び込んできた。思わず目を瞑った。
車は後ろにではなく、前に進んできた。横に飛び込む。間一髪かわせた。
車は壁を突き破って外に出た。後を追った。ベレッタを構えたが、車はみるみる内に小さくなっていく。ベレッタを下ろした。