真相と決意
歌舞伎町に戻り、コマ劇場とミラノの間のマックで昼食をとっていた。しばらく二人とも黙っていた。レジの打つ音。カップルの世間話、携帯電話で話をしてる奴等の声を聞いていた。關が口を開いた。
「何で…あたし狙われてるの?」
木村は食べ欠けのビッグマックを置いた。
「それはこっちが聞きたいよ」
ラークを取り出した。
「あっ。きっとあれだわ」
「何のことだ?」
「劉が誰かと話をしてるとこを聞いたのよ」
「何を話してた?」
「ブツは奴の所にって言ってた」
「それだけ?」
「あと、呉の始末は任せたって言ってたわ」
これで分かった。やはり、劉が黒幕だ。呉も奴の指示だ。奴は俺を陥れる気だ。
「これで少しは分かったぞ」
ビッグマックを食べ尽くした。椅子から腰を上げた。
「行くぞ」
「何処に?」
「真実を知りに行くんだよ。それと個人的な問題を解決しに」
關は袖を掴んだ。
「逃げて。事情は分からないけど、きっと劉はあなたを殺す気よ」
椅子に座った。
「この世界、生きるより逃げる方が難しいんだよ。逃げ場なんて無いんだよ。奴らどんな所にいても必ず探し出す。死ぬまでね」
關は黙り込んだ。
「まぁ、逃げる逃げないにしても武器が必要だ」
關は黙ったまま立ち上がった。
店を出て、桜通りを歩いていた。歩いているとGUNSと書かれた看板が見えてきた。その店の中に入った。
ドアの上に取り付けられた鈴がなった。店の中はエアーガンやプラモデルや軍事グッズが綺麗に並べてある。目の前にはガラスのショーケースに、その横にレジがあった。
「よぉ、木村」
ショーケースの奥でパイプ椅子に座って煙草を吹かしてる中年の男がいた。
―この男はここGUNSの店長の田中京介。歳は三十九。一九七六年六月十七日生まれ。ここの店は表向きは普通のエアーガンショップだが、極少数の人間にとっては銃が買える店なのだ。
「今日は美人連れで何の用だ?」
「そんな。美人じゃないですよ」
關は顔を赤くして日本語で言った。
田中は灰皿に煙草を擦り付けた。
「銃を買いに来た」
田中は笑った。
「どういう風の吹き回しだ?」
田中は皮肉な言い方をした。
「頼むよ田中さん」
田中はため息をついた。
「分かったよ」
田中は屈んで何かをし始めた。黒い塊を何個かショーケースに上に並べた。
木村はその内の一個を持った。
「何だこりゃ?」
田中は眉間に皺を寄せた。
「おいおい冗談だろ?ガキでも知ってるぞ」
少し心を痛めた。
「悪かったな」
ふてくされながら言った。
「そいつはベレッタM92Fだ。。イタリア製でジャムが少ない。弾は9mmパラベラムだから貫通力は抜群だ。まぁ、この銃は素人でも簡単に扱えるからな。今人気なんだよ」
自慢そうに言った。
ベレッタをショーケースに置いた。
「これ以外にも何挺かくれ。それとライフルとショットガンも」
田中はセーラムを取り出し、火をつけた。
「戦争でもするのか?」
「まぁ、そんなとこだな」
田中はしばらく黙り込んだ。
「仕方ねぇ。こっちに来い」
田中は木村と關を連れて、奥に入っていった。
田中は壁で何やら操作しだした。すぐに壁が横にスライドした。中に入った。思わず唖然とした。
銃が壁に綺麗に並べられていて、まるで博物館の様だ。
「好きなだけ持ってけ」
黒く大きなバックを投げた。それを受け取り、銃を選び始めた。
田中に薦められたベレッタM92Fを見つけた。色は銀色に輝いていた。それを二挺取り、バックに入れた。 次に真っ黒なコルトガバメントを取った。M1991A1タイプだ。
この銃はコルト社が一九九一年に出した物だ。所々改良されており、コルト社が出した最後のガバメントとなる。
これも二挺入れた。次にシンプルな形のブローニングハイパワーを取った。
巨匠ジョン・ブラウニングが設計した銃だ。全ての原点となった銃と言っても過言ではない。特徴はマガジンセフティーという安全装置が付いている事。
また二挺入れた。次にライフルを見た。
木製のグリップとハンドガードが目立つAK-47Sを取った。
AKとはアブトマットカラシニコフの略で、この銃を見たことない人はまずいないだろ。この銃の特徴はどんな悪環境でも正常に作動し、メンテナンスもそれほどしなくてもいいという優れ物だ。
折り畳みタイプのストックなのでストックを折り畳んでバックに入れた。
次にコルトM4と似た銃を取った。H&KHK416だ。
この銃はアメリカの国防省の提案により実現した銃である。外見はコルトM4と似ているが内部構図は違う。元はHKM4と呼ばれていたが、コルト社の抗議により今の名となった。
バックにしまった。次に、上に掛けられた銃を取った。これも、H&KでG36Cだ。
この銃はマガジンが半透明になっており、残りの弾数が分かるようになっている。フレームがプラスチック制なので重量はそこそこ軽くなっている。
バックにしまった。サブマシンガンを見た。H&KMP5K。
この銃は命中精度がよく、要人警護にも使われているらしい。小さいながら一分間で九百発の連射速度がある。
この銃をしまい、下に掛けられた銃を見た。ミニウージーだった。
この銃はウージーの小型タイプの銃だ。ストックを折り畳むとハンドガードの下にプレート部分にきて、握る事ができる。
ミニウージーをバックに入れ、右にある小さな箱型の銃を取った。MACM11だ。
いわゆるイングラムだ。この銃の特徴はなんと言っても連射速度だ。なんと一分間に千二百発と言われている。
化け物銃をバックしまい、次はショットガンを見た。
メタリックのストックが折り畳められ、多数の放熱口が目立つ銃が目に入った。スパス12だ。
この銃はイタリアのフランキ社が作った12ゲージショットガンだ。しかも、セミかフルに変える事ができるショットガンでもある。
スパス12をバックに入れた。次に右隣にあった真っ黒なソードオフの銃を取った。モスバーグM500だった。
このモスバーグは防護用兼放熱用のアウターカバーが取り付けられてるのが特徴だ。
銃を入れた。次に弾やマガジンを入れた。
「もういいのか?」
田中はセーラムを灰皿に擦り付けた。
「あぁ」
バックを肩に掛けた。田中は壁に掛かったマグナムを見ていた。何かを手に取った。
「こいつを持っておけ」
關に真っ黒に輝く二インチのマグナムを渡した。バレルにはS&Wと掘られている。
この銃はS&WのM36だ。護身用として人気があり、女性でも違和感無く持つ事ができる。
關は困りながらも受け取った。田中は銃のハンマーの部分を指をさした。
「撃つ時はそこを起こして両手でしっかり持つんだ」
田中はウイバースタンスの構えをした。
「後は体の真ん中を狙って撃つんだ。そしたら体のどこかに当たる」
「はい」
關はポケットにしまった。
「でも何でこれを?」
田中は木村を見た。
「事情は知らないが、こいつはあんたを命がけで守ろうとするだろう」
木村はラークを取り出した。
「だが、あいつも不死身じゃない。そん時はそいつを使え」
「もういいじゃないですか」
木村は煙草の煙を吸い込んでいた。
「分かりました」
關は田中に笑顔で答えた。木村はラークを灰皿に擦り付けた。
「行くぞ」
關は頷いた。
「気をつけろよ」
「あぁ」
店を出た。花道通りを歩き、歌舞伎町二丁目の中に入っていった。町の中を歩いていると安宿のホテルブリットが見えてきた。ホテル全体が古くさく、白い壁の所々に鳥の巣の穴ができている。
中に入ると正面に受付があり、左右に通路があり、エレベーターが付いている。
「いらっしゃいませ」
受付員が軽く頭を下げて言った。
「二名様で?」
「あぁ」
受付員は後ろにある鍵の列から一つ取った。その上に数字が書かれていた。
「四○八号室です。あちらのエレベーターをお使い下さい」
受付員は右の通路に手を差し出した。
鍵を受け取り、木で出来た通路を歩いてエレベーターに乗った。四のボタンを押して、エレベーター動かした。酷く遅かった。
四階につき、ドアが開いた。出ると薄暗かった。天井に電気がついているが、片方が消えていたり、両方消えていたりした。今にも消えそうなのもあった。“良いホテルだな”と思った。
四○八と書かれたドアの前に来た。鍵でドアを開け、部屋の中に入った。關はすぐにベッドに倒れ込んだ。すぐに寝息が聞こえてきた。無理もないな。
木村はベッドの隅にバックを置き、もう一つのベッドに座った。
關は寝返りを打ち、木村の方に顔を向けた。
木村は關の寝顔を見て胸がキュンとなった。初めてではなかった。林から写真を見せてくれた時からそうだった。
最初は自分でも馬鹿馬鹿しかった。なんせ自分のボスの婚約者に恋をしてしまうなんて………でも、今日会って。確信した。確実に恋をしていた。
木村は頭を振った。“林さんの婚約者だぞ”と自分に言い聞かせた。
木村はラークを取り出した。残り二本だった。ラークをしまった。
木村は考えた。このままこっちに残していた方がいいのか。林のいる香港に逃がした方がいいのか。それとも映画の様な逃避行するか。だが、簡単な事ではない。林は黙ってはいないだろう。殺されるのが目に見えている。
とにかく、今日が過ぎればいつもの自分に戻れる様な気がした。木村は決心した。
木村は關の体に布団をかけ、そのまま部屋を出た。
ホテルを出て、花道通りを渡り、コマ劇場の横を通り、桜通りを通り、東通りにきた。
東通りを歩いていると変わった店の前で止まった。
店の前に街灯があり、他の店との間に階段がある。この階段を上がるとバーがある。木村はその階段を上がった。
店の扉を開けた。店の中は誰もいなかった。一人を除いて。
カウンターに煙草を吸っている女が座っていた。
女はジーンズに黒いパーカーを着て、中に白いTシャツを着ていた。胸はDぐらいだろうか?化粧はまったくしてなかった。それでも整った顔だちで、美人だった。髪はショートで真ん中で分けていた。身なりを変えれば忽ち男どもが寄ってくるだろうに。
カウンターの奥ではグラスを磨いている口髭を生やした男がいた。
男の体格はがっちりしており、黒いズボンに白いシャツに黒い蝶ネクタイをしている。顔は穏やかだが、何処か暗いイメージがある男だ。
「珍しい客だな」
口髭を生やした男が言った。
―男の名前は山下正太郎。みんなはマスターと呼んでる。三十八歳。一九七七年十一月九日生まれ。元殺し屋だ。殺し屋を辞めた後、職探しをしている時に前の店長と出会い、今の職についたらしい。俺はたまたまこの店に来て知り合ったとこだ。
「やぁ、マスター」
女の隣に座った。
「頼みがある」
「何?」
女は酒の入ったグラスを持って、一口飲んだ。
―この女は菅原雅美。二十八歳。一九八七年四月一日生まれ。この女も、元殺し屋だ。今は逃がし屋という仕事をしている。主に国外逃亡の手配をしている。
「今夜中に香港行きの手配できるか?」
菅原は灰皿に煙草を擦り付けた。
「いいわよ。人は?」
「一人だ」
「じゃ、三時間後に芝浦ふ頭の一番奥の倉庫の前に来て」
「分かった」
立ち上がり、店を出た。
外は大分暗くなってきた。ふと目の前が真っ暗になった。停電なのか。いや、殴られたのだ。地面に倒れ込んだ。