愛のために…
十二月二十五日金曜日午前九時七分
決戦の日。今日はその為に銃のメンテナンスを念入りにしている。ガバメントのスライドを何回も引き、滑らかか確かめる。大きな四十五口径の弾丸をマガジンに七発詰め込んだ。薬室内にも一発入れた。銃撃戦になると一発でも多い方が有利だ。マガジンを差し込んだ。
テーブルに広げた銃を見る。流石に多いと木村は思いながら煙草に火をつけた。AKの独特のマガジンを掴み、弾を込める。三十発。マガジンを差し込み、バックに詰め込む。
分解されたHK416を組み立てる。元の形に戻すと、予め弾を入れておいたマガジンを差し込み、安全装置をかける。バックに入れた。
モスバーグM500に赤い12ゲージのショットシェルを六発詰め込む。バックに入れる。ミニウージーに三十二発入りのロングマガジンを差し込んだ。化け物銃のイングラムも三十二発入りのロングマガジンを差し込んだ。二挺の拳銃をバックに押し込む。
今度はテーブルの上に弾の箱と予備のマガジンを広げた。マガジンに次々と弾を詰めた。箱に入った弾丸が徐々に無くなっていく。
全部のマガジンに弾を入れ終わったのは十一時過ぎだった。バックに押し込み、閉じた。短くなった煙草を吸い殻で溢れた灰皿に押し込む。煙をゆっくり吐き、目を閉じた。時間は刻々と迫っている。
不意に目の前を見ると三ヶ月前まで使っていた鏡があった。鏡に映った自分。殺気に満ち溢れている。
「皆殺しにしてやる」
ベレッタのスライドを引いて鏡の自分に向ける。トリガーを引く。金属音。弾が入っていなかった。ベレッタをテーブルに置いた。
ラークの箱の中を覗く。残り三本。内の一本をくわえ、火をつける。
携帯電話が震えた。画面を見ると公衆電話と映っている。電話に出る。
「もしもし?」
『今夜七時だ』
佐藤の声だった。
「分かった」
ため息が聞こえた。
『言っとくが五十はいるぞ』
「止めるなら今の内だ。なにしろあんたは警官だからな」
『………』
電話を切った。木村は例え一人でもやると決めていた。この考えはけして変わらない。煙草が次第に短くなっていく。煙を吐いて灰皿に押し込んだ。吸い殻が何本かテーブルの上に落ちる。
コートを着る。銃が詰まったバックを持ち、玄関に向かう。ドアを開けると賑やかな歌舞伎町一番街。カップルが目立った。暢気なものだ。
木村は歌舞伎町をゆっくりと見て回った。
「……これで見納めかもな」
小声で呟く。携帯電話が震えた。取り出し、画面を見る。非通知。
「もしもし?」
『今日やるのか?』
大林だった。
「それで?」
『事務所に来てくれ』
そう言って電話は切れた。ため息をつきながら携帯電話をポケットに入れる。区役所通りを目指す。
明治通りに曲がり、大林警護事務所に着いた。ビルの前には見覚えのあるチンピラ。目が合う。慌てて深く頭を下げた。
「どうぞ。頭は上です」
ニヤつきながらチンピラを横を通る。階段を上がり、事務所のドアを開けた。横にはデスクの上に置いたパソコンに目を向けた女。正面にデスクに座った大林。端に体格の良い男が二人。
「よぉ、来たか」
木村の顔を見ると笑顔を見せる大林。
「何の用だ?」
「伝説になる男を見とかないとな」
相変わらずの笑顔でそう言った。伝説になると言ったが、どうやら俺が死ぬと思っている様だ。確率は高いだろう。
「勝手に殺すな」
大林は大きな口を開け笑う。
「冗談だよ」
冗談の様にはまったく見えない。
「加勢してやろうと思ってよ」
ようやく真面目な顔になった。
「お前には色々と世話になったからよ。何か俺達もしないとな」
「気持ちだけで十分だ」
「武器なら俺達もあるぜ」
首を横に振った。
「死ぬのは俺だけで十分だ」
大林は少し俯きながら頷いた。肩を軽く叩く。ドアへと歩いた。
「木村」
振り向いた。
「死ぬなよ」
「努力するよ」
微笑みながら言った。ドアを開け、階段を下りる。ビルを出て、煙草をくわえる。目の前にライターが現れた。横にいた男が微笑みながら火をつける。煙を吸い込み、吐き出す。
「名前は?」
「大沢一輝」
ライターをポケットに押し込みながら言った。男は真っ黒のスーツに真っ白なシャツ。首に金色に輝くネックレス。髪は短すぎず長すぎず。整った顔立ち。格好はチンピラに見えるが、何処か裏がありそうな男だ。
「覚えておくよ。またな」
肩をポンと叩き、明治通りを歩きだした。
腕時計を見た。二時二十九分。何故か空腹という感覚は無かった。短くなった煙草を放り投げ、ホテル王道の裏に回った。
裏道は汚かった。煙草の吸い殻、割れた酒瓶、吐瀉物、犬の糞など。美しい国とかなんとか、何処かのお偉いさんが言ってたが、大きな間違いだ。日本自体が腐ってる。それを認識してもらいたいものだ。
裏に回ると男二人が立ち話をしている。林の部下というのは言うまでもない。
しばらく影から二人の様子を見ていると裏口から白いタキシードを着た男が出てきた。一目で分かった。劉偉だ。劉は二人の男に二言ほど言うと中へと戻った。二人の男をよく見ると腹に銃が挟まっている。しかも、トカレフや紛い物の中国五四式拳銃ではなく。グロック17だ。どうやら倉庫から奪った銃を使っているようだ。
肩を叩かれた。一瞬寒気がしたが思い切って振り返った。高橋だった。
「あんた……」
「中に入りたいんでしょ?」
言い終わる前に高橋が喋りだした。
「………」
「協力するわ」
自信で満ち溢れた顔だった。返事をする前に高橋は動き出した。高橋はもう一人の女と二人の男に近づいていく。何やら話をし始めた。時より笑い声が裏道に響く。高橋が目で訴える。見ると裏口が開いている。高橋に軽く頭を下げながら素早く中に入った。
白いタイルを進んでいくとキッチンに出た。白い服を着たコックが手際よく料理を作っていく。木村は何食わぬ顔でキッチンを抜けた。
赤いカーペットが敷かれた廊下に出た。すぐ近くのトイレに入る。中には誰もいなかった。壁に寄りかかり、大きく息を吐いた。腕時計を見る。四時五十一分。そろそろ参列者が来る頃だろう。個室に入り、便座に座った。壁に寄りかかり仮眠をとる事にした。
照明が付いた天井。誰かの顔が映る。ぼやけていた。次第に見えてきた。關だ。ウエディングドレスを着て、泣いている。何回も木村を揺らす。
目を開けた。額に汗が乗っている。手で拭い、腕時計を見る。六時五十分。個室のドアを開け、手洗い場の横にバックを置いた。バックから二挺のコルトガバメントを出し、腰に差し込んだ。隠し持ったもう一挺のベレッタを腹に挟める。予備のマガジンをポケットに押し込んだ。
ここに来て死の恐怖が襲ってきた。心臓の鼓動が少し早くなっている。鏡を見る。不安な表情の自分が映っている。大きく息を吐く。
「大丈夫、死なないさ」
そう言って、バックを持ち、トイレを出た。
赤いカーペットを一歩一歩踏み締めると同時に緊張が体中に走る。ホルスターに収まったベレッタを抜き、安全装置を外した。拍手の音が次第に近くなる。
「後戻りは出来ないって言ってるだろ?分かってるさ。やる事があるんだ」
緊張を紛らす様に独り言を呟いた。呟いていると男が二人立った扉が見えた。
「……行くぞ」
そう言うと廊下を堂々と歩き、扉に近づく。男の一人が気づいてスーツの中に手を入れた。ベレッタを撃った。二人の男が壁に寄りかかったり、床に倒れた。壁に寄りかかった男にもう一発撃ち込んだ。今度は頭を撃った。
拍手の音が消えていた。当然だ。扉をゆっくりと開けた。中にいた百人ぐらいの参列者が一斉に見た。中には口を押さえる人もいる。右端にいた男が動いた。参列者ではないのが一目で分かった。男の体に三発撃ち込んだ。絶叫。悲鳴。今度は反対側にいた男が動いた。同じく三発撃ち込んだ。
正面を見ると林迎明と關香梅が座っていた。左端に王超、陳堅、劉偉の順番で座っていた。劉以外は驚きの表情だった。
ベレッタの銃口を林の頭に合わせた。
「殺す前に一つ聞きたい事がある」
いつの間にか静かになっていた。
「何故俺をはめた?俺はあんたの下でずっと命令にしたがっていた。正に犬の様に働いた。何故だ」
「………」
「答えろ!」
木村の声が部屋の中に響き渡る。銃声。見ると後ろにいた男が頭を後ろに仰け反りながら倒れていった。
「パーティーに間に合った様だな」
ウィバースタンスでグロック19を構えた佐藤がそう言った。
「俺も色々と聞きたい事があるだ」
佐藤は背中合わせの位置で言った。
「呉を殺しただろ」
突然、林の口が動き出した。
「何言ってやがる。殺してなんか……」
「呉と一緒だったそうじゃないか」
言葉を出すにも出せなかった。それは事実だから。
「呉を殺して倉庫を襲ったんだろ?」
「違う!犯人はあいつだ!」
銃口を劉に向けた。劉は暢気に眼鏡を拭いていた。眼鏡をゆっくりとかけた。
「まったく、無礼にも程があるぞ」
王が突然口を開けた。
「当時劉は私と事務所で話をしていたんだ」
「そんなのアリバイにはならないぜ。誰かにやらせれば済むこった」
後ろから佐藤の声が聞こえた。足音。
「遅くなった」
李だった。手にはブローニングがしっかりと握られている。
「てめぇ!裏切るのか!?」
陳が吠えた。
「警官殺しの罪をきせられて黙っていると思ったか?」
拍手の音。ゆっくりとしたテンポで響き渡る。
「面白いものだな」
陳が劉ね胸元を掴んだ。
「何が面白い?」
「あんたら本当に木村がやったと思ってたのか?」
「木村も、本当に林にはめられたと思ってたのか?」
次第に劉は大声で笑い始めた。
「てめぇ、まさか」
銃声。陳の腕から血が飛び出す。右にあった扉から二十人ぐらいの男達が銃を持ってなだれ込んできた。
「鈍いよ」
タキシードから銀色に輝いたジェリコ941が出てきた。
「本当によく出来た計画だよ。自分でもこれほど完璧に出来て驚いてるよ」
「やろ……」
飛びかかった陳の頭が弾けた。後ろにいた王の顔に血が飛び散る。
「呉を殺したのはやっぱりあんたの差し金か」
木村は銃口を劉の頭に合わせる。
「本当はあそこでお前を殺す筈だったんだがな。とろい奴らだよ」
「じゃ田中を殺したのも課長を殺したのはてめぇの仕業か」
「富然(勿論)」
劉は笑顔で答えた。
「分かってたよ」
劉の顔が一瞬にして変わった。林の顔をゆっくりと見た。
「お前の計画は分かってたよ」
「何だと?」
「俺も馬鹿じゃない。これでもボスだからな」
劉はジェリコを林に向けた。
「停手呀(止めろ)!」
銃声。林の胸に当たり、真っ赤な血が白いタキシードに飛び散る。
ベレッタを撃った。劉の腕に当たり、血が白いタキシードに染み込む。
「殺れ!」
銃声と絶叫と悲鳴が入り交じり式場は戦場と化した。
「銃だ!」
佐藤にバックを投げる。受け取ったかは見ずに林と關の元に向かった。
「林さん!」
關が林の体を揺らしていた。
「ボス!」
傷口を押さえた。それでも血は溢れ出てくる。
「り……龍。……對唔住呀」
關も涙を流しながら木村の手の上から傷口を押さえる。
「關を……頼む」
林は息を引き取った。銃声が絶え間なく聞こえる。關が泣きながら抱きしめてくる。
「あぁ。拜託(約束する)」
男が現れる。ベレッタを撃つ。男が後ろに倒れる。
「木村!」
佐藤が叫ぶ。見ると劉がM203が付いたコルトM16A2を構えていた。
「死呀(死ね)!」
關を抱きしめたまま横に飛んだ。銃弾が飛んでくる。目の前に男がグロックを向けてきた。思わず目を瞑った。だが、痛みはなかった。代わりに男が血を流して倒れていた。
「大丈夫か?」
モスバーグM500をポンプしてショットシェルが飛んでいく。
「あぁ」
「援護する」
モスバーグショットガンが炸裂音と共に小さな弾を飛ばす。
「こっちだ」
關の手を握り、近くの扉を開ける。遠くからクルツを持った男二人が走ってくるのが見えた。透かさずベレッタを連射する。一人倒れるがもう一人はついに撃ってきた。体制を低くしながら撃ち返す。今度は当たった。
關の手を引き、キッチンに向かった。キッチンのドアを蹴破り、中に入る。
「ここで待ってるんだ」
そう言って關を影に隠れさせた。
「何処に行くの?」
「まだやる事が残ってるんだ」
袖を引っ張られる。
「嫌!もう一人は嫌!」
關を抱きしめた。
「一人にしないで」
涙声の關が耳に入ってくる。
「もう一人になんかさせるもんか」
關の白いウエディングドレスの背中を摩る。
「我好快就(すぐに戻るよ)」
耳元で囁いた。
「必定(必ず)?」
「あぁ」
体を離す。關が微笑む。
「絶対だよ」
「必定(必ずだ)」
ウィンクして關を置いてキッチンを出た。もう一挺のベレッタを腹から出し、式場に戻る。
戻ると佐藤と李が撃たれて影に隠れていた。そこに銃弾が容赦なく撃ち込まれていく。
二挺のベレッタを持ち上げ、交互に撃つ。二人が血を飛ばしながら倒れていく。右手に持ったベレッタのスライドが止まる。左手に持ったベレッタをがむしゃらに撃った。
柱に隠れる。銃弾が飛んでくる。左に男が現れた。ベレッタを撃つ。何発かは壁に当たったが男の体に命中した。
その隙に、二挺のベレッタのマガジンを出し、新しいマガジンを差し込む。
柱から飛び出し、再び二挺のベレッタを交互に撃った。左肩に痛み。痛みで左手の持ったベレッタが落ちる。すぐさま影に隠れた。
李は脇腹を押さえていた。佐藤は太股を撃たれた様だ。ズボンに穴が開き、血が出ている。それでも佐藤はH&KのHK416を撃っていた。ベレッタを撃ちながら佐藤と李のもとに走った。半ば飛び込む様に影に隠れた。
「遅かったな」
李が苦しそうに言った。
「大丈夫か?」
李は傷口を見た。
「今のところは」
ベレッタを撃った。スライドか止まった。ベレッタの予備マガジンが無くなったので放り投げた。佐藤の近くにあったバックを引き寄せ、中からAK47Sを取り出し、李に渡した。
「予備マガジンだ」
三本のバナナマガジンを渡す。李はマガジンをポケットに突っ込んだ。
「くそ弾切れだ!」
佐藤がHK416を投げながら言った。バックからクルツを出し、佐藤に投げる。次にマガジンを。木村はバックからG36Cを出す。
「とんだ三ヶ月だったよ」
佐藤が急に話始める。
「あぁ。そうだな」
「俺、あんらに会えて良かったよ」
李が微笑みながら言う。
「また何処かで」
三人が一斉に笑い出す。奇妙な友情が芽生えた様な気がした。
「行くか」
李がAKのセレクターをフルに合わせる。佐藤が叫びながらクルツを撃ち始める。続いて、李も。
一分間に七百五十発の早さで飛び出す弾丸は次々と倒していく。李がAKを撃ちながら飛び出す。それに続くいて飛び出す。テーブルに隠れた男がいた。テーブルに穴を開ける。男が倒れているのが見えた。
マガジンを替えて再び撃つ。血が白いテーブルクロスに飛び散る。ふと佐藤を見るとマガジンを替えていた。その後ろに男が銃を向けていた。透かさず男に弾丸を撃ち込む。
背中に激痛。前の椅子を倒しながら床に倒れ込む。男が撃ってくる。床のカーペットが弾け飛ぶ。男の体に銃弾を浴びせた。奇妙なダンスをしながら大量の血が飛び散る。弾切れ。男がゆっくりと後ろに倒れていく。
足をばたつかせ柱に隠れる。床にミニウージーと予備マガジンが転がってくる。転がってきた方を見ると佐藤が微笑んでいた。その笑顔も一瞬で苦痛の顔に変わった。男が二挺のグロック17を交互に撃ちながら佐藤に近づいていく。ミニウージーを持ち、男に叫びながら撃つ。ストック部分を握り、薙ぎ払う様に撃った。壁に当たりながらも四人の男が倒れた。
予備マガジンを握り、痛む背中を必死に耐えながら佐藤に近づく。
「佐藤!」
「銃を」
右腕を押さえながら言った。腰から一挺のガバメントを渡した。予備マガジンも三本渡す。残り一本。
李を探す。AKを捨てながら近づいてきた。いつの間にか銃声は止んでいた。
「くそ!」
佐藤はそう言いながら震えながら立ち上がった。李はバックから最後の化け物銃を出した。
「最後だ」
痛む脇腹を押さえながら予備マガジンも出す。
「劉!何処だ!」
佐藤が叫んだ。
「今からぶっ殺しに行くからな!」
付け足す。李は佐藤を支えながら歩きだした。木村もマガジンを替えながら後を追った。
突然、正面の扉が爆発した。爆風で少し体に衝撃が走る。立ち上る煙から銃の発光。李の肩に当たる。苦痛の表情になりながら佐藤と一緒に床に崩れる。
「どうした!俺はここだ!撃ってこいよ!」
劉の声だった。木村は煙に向かって三十二発、全弾撃ち尽くした。急いでマガジンを替えて、煙に突っ込んだ。
「木村!」
佐藤の声が聞こえたが無視して煙に入った。煙は次第に晴れてきた。がむしゃらに弾をばら撒く。
「出てこい!」
脇腹に激痛。叫びながらミニウージーを撃った。赤いカーペットに倒れる。ガバメントを出し、辺りを見渡す。右腕から血が飛び出す。思わずガバメントを落とした。
「やっといたな」
不気味な笑顔をしながら劉が近づいてくる。ガバメントに手を伸ばす。ガバメントが吹き飛んだ。
「くたばれ」
木村は吐き捨てる様に言った。劉に髪を掴まれる。
「それはこっちの台詞だ」
劉はジェリコの銃口が脇腹の傷口に押しつける。激痛が体に走る。
「俺はこの街の王になるんだ。邪魔はさせない」
痛みのせいで声が出ない。代わりに睨みつけた。
「あの女も俺が可愛がってやるよ」
笑い出す。
「て……めぇ……」
力のない声。
「何ではめられたか知りたいだろ?この際、教えてやるよ」
黙って聞く事にした。
「俺は林が嫌いだった。勿論、お前もだ。あいつは何もしねぇ癖に文句ばっかり言う。俺はきっちり仕事をしてるんだ。分かるか?うんざりなんだよ。あいつを消すのは簡単だが俺にとってプラスにならないと意味がない。そこで俺はこの組の頭を取る事にした。あとは簡単だ。熊と誰かに殺された様にすればいい。知ってたか?お前はボスになれたんだぞ?そんな気にいらない。何故長くいる俺ではなく日本人のお前なのか。だから、みんな殺す事にした」
衝撃の事実と馬鹿らしさが入り交じる。
「分かったか?つまりお前は巻き込まれたのさ」
髪から手を離し、頭に血が付いたジェリコを突きつけられる。
「今度こそあの世行きだな」
不気味な笑顔。銃声。頭が弾ける。だが、弾けたのは劉だった。血が飛び散る。何が起きたのか理解が出来なかった。
照明が付いた天井。誰かの顔が映る。ぼやけて見えない。次第に見える様になった。關だ。手には田中さんから貰った、小さなリボルバーのS&WのM36を持っていた。涙を流しながら体を揺すっている。何処かで見た光景だった。
「………しないで!」
声が聞こえてきた。
「一人にしないって言ったじゃん!」
痛みの感覚がなかった。天使が誘っているのが見える。そこに黄が突然現れた。
「馬鹿野郎!」
拳が飛んでくる。脇腹に痛みが走った。思わず体をビクつかせた。
「龍!」
「……關」
關が抱きしめてくる。
「痛いよ」
關は更に強く抱きしめた。痛むが幸福だった。
「すぐ戻るって言ったじゃない」
涙声になりながら言った。大量の足音が聞こえてきた。目の前にH&KのMP5A2を持ったSATの連中に囲まれた。
「待って!」
SATの後ろからボディアーマーを着た相沢が現れた。手にはグロック19。
「ここはいいわ。担架を」
「了解」
三人は式場に二人は反対方向に進んでいった。
「やったわね」
「あぁ」
相沢は木村と關を見てから式場に向かった。
「この方だ」
SATに先導されて救急隊の二人が担架を持ってきた。救急隊の二人が木村を持ち上げ、担架に移した。
「血が酷いな」
一人が呟いた。もう一人が担架を押す。木村はずっと天井を見ていた。
「助かりますか?」
關が怯えた表情で聞いた。
「今のところ何とも言えませんね」
ホテルを出るとカメラのフラッシュが眩しく光った。野次馬を見るとマスターと菅原の姿が見えた。二人とも笑っていた。木村は親指を立てて答えた。救急車の中に入る。
「出せ!」
一人が運転席にいた男に叫ぶように言った。けたたましいサイレンの音が鳴り出した。木村はゆっくりと目を閉じた。
ゆっくりと目を開けた。白い天井。窓からは朝日が差し込んでいた。体を起こそうとしたが思うように動かなかった。
横を見るとジャケットを体に掛けて眠った關がいた。左腕を動かして手を掴んだ。關がはっと起きる。 しばらく沈黙が続いたが關が口を開ける。
「龍」
涙を流してながら木村の手をしっかりと握った。
「一人にはしないさ」
声が思った程出なかったが、なんとか言葉に出来た。
「待ってて。今看護士さん呼んでくる」
そう言って病室を慌てて出ていった。窓を見ると雪が降っていた。雪が朝日に当たり、輝きながら落ちていく。改めて終わった事を実感した。俺達の勝ちだ。
遂に第一章が完結いたしました。駄作を最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
本作は約に二年前に突然と思いついた話であります。二年という歳月を経てようやく今に至りました。本作はいろんな銃の説明が出てきましたが、読み辛いと思われる方は随時感想をお待ちしております。それ以外の方も感想をお待ちしております。
現在、第二章を書いています。いつ投稿するか分かりませんがもし読みたい方はお待ち下さい。
最後に、本当に読んで下さりありがとうございますm(_ _)m