新たな殺し屋
また約一ヶ月後…
十二月二十二日火曜日午後七時三十七分
煙草の煙が宙に舞っている。灰皿に煙草を投げ込む。テレビでは男のアナウンサーが原稿用紙を読み上げている。
手元のベレッタのスライドを引いた。薬室内に弾が送り込まれる。
「何か飲むか?」
マスターが正面に来る。
「コーヒーくれ」
バックからコルト・ガバメントを出す。テイクダウンピンを外し、スライドを外す。
目の前にコーヒーが入ったカップが置かれた。気にせず銃のメンテナンスをする。
「……只今入ってきたニュースです。えー、歌舞伎署の刑事課の課長、奥田正久さんが何者かに銃撃を受け、重傷の模様です。奥田さんは大久保病院で緊急手術を受けているようです」
手の動きを止める。
「……奥田」
マスターが声を漏らす。どうやら林組は新たな殺し屋を雇ったようだな。その証拠にこれだ。どんなに馬鹿でも刑事課の刑事を殺す事はしない。多分次は俺だろう。
「大陸の人間だろう」
また手を動かし始める。
「だろうな」
マスターが煙草をくわえ、火をつける。ドアが開く。菅原だった。
「随分と凄い事になったわね」
「あぁ」
カウンター席に座る。
「次はあんたね」
赤いラークの箱から一本抜き出す。ジッポで火をつける。
「外に危ないのが沢山いるわよ」
腰からARCUS94を抜き、右奥にある窓に撃ち込む。音をたてながらガラスが割れる。
ベレッタを握り、ドアに撃ち込む。9mmの弾丸は木製のドアを意図も簡単に貫いた。照明が消える。どうやらブレーカーを落とされた様だ。
「マスター。銃は?」
小声で言った。
「持ってる」
すでにマスターはベネリM4スーパー90のショットガンを握っていた。
ベネリM4はイタリアのベネリ社が作った自動式散弾銃だ。この銃はアメリカ軍の要望により実現した銃だ。現在海兵隊が使用している。
音が小さくなった銃声がした。フルオート連射で撃ってきた。グラスが割れる音がする。頭上で炸裂音。ベネリM4の銃口から火を吹いた。一瞬明るくなる。
屋根から物音。ベレッタを撃つ。何かが落ちてくる。ピンが抜かれた閃光弾。目と耳を塞ぐ。爆発。耳を塞いでも大きな音が聞こえる。耳鳴りがする。何も聞こえない。銃の発光が見える。次第に耳が聞こえる様になってきた。
「……左!」
菅原の声が聞こえた。ベレッタを向けて撃つ。返り血が飛んでくる。完全に聞こえるようになった。
菅原がマスターに手で合図している。マスターは体を低くしながら壁に張り付く。菅原も動く。再び銃声。だがすぐに終わった。
「随分と立派な銃を使ってるな」
足下に落ちてたH&KのMP5A5を蹴った。
ベレッタをホルスターに入れた。菅原もARCUS94をホルスターに戻した。携帯電話が震えた。画面を見る。非通知。
「もしもし?」
『奥田が撃たれた』
佐藤の声だった。いつもより声が低かった。
「あぁ、テレビで見たよ。」
煙草をくわえた。
『調べた所どうやら昨日こっちに来たみたいだ。腕がいいぞ』
火をつける。
『奥田は車で帰宅中に撃たれた。ライフルだ。弾は一発のみ』
「なるほど」
『気をつけろよ』
「もう来たよ」
電話を切った。明かりが点いた。床に四人の死体が転がっていた。
「まったく。どいつが弁償すんだよ」
マスターが割れた酒のボトルを見ながら言った。ほとんどが割れていた。
「もちろんあんただろ?」
菅原は割れていない酒のボトルを取り、グラスに注いだ。
「分かった。俺が弁償する」
「当然だ。商売が出来ないだろ」
「かといって客が来る訳でもない」
菅原は一人酒を飲んでいた。マスターはため息をついた。木村は最後の追い込みをかける事にした。