死に逝くもの…そして団結
十一月二十四日火曜日午後六時三十七分
木村は苛立ちながら煙草の煙を吸い込んでいた。目の前に置かれた携帯電話の画面を見る。音信不通の來からの連絡がないか。やはりなかった。
煙草を灰皿に擦りつける。赤かった灰が真っ黒になる。電話が鳴る。すぐに出る。
「もしもし?」
『悪い知らせだ』
声の主は野村だった。
『來が死んだ』
言葉を失った。野村はまだ何か言いたそうだが電話を切った。携帯電話を投げた。
來の笑顔が頭の中で蘇る。だがすぐに消えた。俺が殺した様なものだ。來。何で死んじまったんだ。これで二人だ。もう誰も死なせたくない。
携帯電話が震えた。画面を見ると非通知と映っている。
「もしもし?」
『佐藤だ。話がある』
「場所は?」
『あんたの家で』
「分かった」
携帯電話を切った。ベレッタをホルスターに差し込み、コートを着る。
「何処に行く」
マスターが来る。
「ちょっとな」
ドアを開ける。
懐かしい歌舞伎町一番街に来た。相変わらずの人込みだった。“食”と書かれた焼鳥屋を見つけた。肉を焼く良い匂いが懐かしく感じる。店の中に入った。
「いらっしゃ……、木村!」
「お久しぶりです」
カウンターに座った。
「連れが後で来るで」
「あいよ。ビールでも飲むか?」
「頂きます」
ラークを取り出した。戸が開く。佐藤だった。
「いらっしゃい!」
佐藤が隣に座る。
「一体この町で何が起きてんだ?一年前のあの日から変に香港の奴らが動くし、今日だって劉が襲われるし、どうなってんだ?」
煙草に火をつける。
「見ての通りだ」
「教えろ」
目の前にビールが入ったジョッキが置かれた。
「ごゆっくりどうぞ」
若い男がそう言うと奥に行った。
「關とか言う女のためか?」
ビールを飲む。
「そいつのせいで何人死んだと思ってる。伊藤だって死んだ。來も死んだ。それだけじゃない。多くの人間が死んだ」
「何が言いたい」
灰皿に煙草を擦りつけた。
「自首しろ」
新しい煙草に火をつける。
「そんなのクソだね。これは個人的な問題だ」
「あんたクソだな。お前の考える事は分からん」
「俺の気持ちなんて誰も分からんさ」
ビールを飲み干した。戸が開いた。
「田中。何でここにいる?」
田中と呼ばれた男はグロック19を抜いた。
「おい。何のまねだ」
佐藤もグロックを抜いた。
「退け」
「銃を下ろせ」
佐藤は田中を説得しようと必死になっていた。どうやら佐藤は何も分かっていないようだ。
「無駄だ。こいつは劉の犬だ。俺を殺すまで銃は下ろさないさ」
佐藤は目を丸くした。田中は無表情のままだった。
「そういう事だ。だからそこを退け」
「だが俺も今死ぬつもりはない」
ベレッタを抜いた。空気が重くなった。
「二人とも銃を下ろせ」
佐藤が間に入る。
「もう後戻りできないんだよ」
「いや今でも遅くない」
「佐藤さん。甘いよその考え。この街じゃ誰かが死に、誰かがその死体を踏み台にするのさ」
佐藤が銃口を向けてきた。
「そんな知った事か」
「木村の言う通りお前は甘いよ。ここは闇の街だ」
田中はため息混じりの声で言った。
「何が闇の街だ。ここは俺達の街だ」
佐藤は銃口を田中に向けた。
銃声が店の中に響きわたる。自分の体を確かめる。撃たれてはいない。
また銃声。田中が倒れる。入り口に人影。ベレッタを握り、店の外に出る。小柄な男が人込みの中に入っていった。とても見つける事はできないだろう。
店の中に戻った。田中は佐藤に抱かれたまま永遠の眠りついていた。佐藤は血走った目で木村を睨みつけた。
「お前のせいだ」
怒りが込められた声だった。グロックが向けられる。
「落ち着け」
「クソ!」
佐藤は涙を流していた。
「絶対に許せない。ぶっ殺しやる!」
殺気が佐藤の体から蒸気の様に出ていた。
「落ち着け!」
佐藤の肩を掴んだ。荒々しい息づかいが手に伝わる。
「落ち着けだと!?親友が目の前で殺されたんだ!」
「だからこそ落ち着くんだ!あんたは刑事なんだぞ。そんな汚れ仕事しなくても俺が敵を討ってやる」
次第に体が震えてきた。佐藤は田中の目を優しく閉じた。
「なら俺ら二人でやろう。あんたは殺しを俺は情報をやるよ」
「いいのか?」
「とことんやろうぜ」
佐藤の目には獣の様に鋭い目つきになっていた。まるで自分を見ているような感じだった。
第二部が終わりました。次は最後の部です。第三部は新たな人物や展開が用意されています。最後までお付き合い下さい。感想もよろしくお願いします。