死を恐れない
十一月二十四日火曜日午後五時五十七分
「死ぬぞ」
短くなった煙草をくわえた田中が悲しそうな目でそう言った。
「あいつの為なら本望です」
ステアーM9のスライドを動かし弾を薬室に送り込んだ。
この銃はオーストラリアのステアー社が作った銃で、ポリマー製なので軽量化されている。反動やマズルジャンプが少ないので扱いやすい銃だ。
腰に二挺のステアーをズボンとシャツの間に挟めた。セブンスターの箱から一本取り出し、火をつける。 変わったデザインのサブマシンガン、ステアーTMPを取った。
ステアーTMPは最高の出来と評判の良い銃だ。一分間に九百発の早さで撃て、反動を極力無くし扱い易くなっている。
三十二発の9mm弾丸が入ったロングマガジンを差し込んだ。もう一つロングマガジンを取り、ジャケットのポケットに入れた。
「ありがとう」
「……」
來は田中の横を通り、店のドアを開けようとした。
「死ぬなよ」
微かに微笑みながらドアを開け、雨が降り注ぐ桜通りに出た。ステアーを無理矢理ズボンに挟め、花道通りに向かった。
林株式会社のビルの前に着き、地下駐車場に向かった。無人の駐車場に響きわたる足音が少し不気味だった。
エレベーターのドアがゆっくり開いた。中から男三人と護衛の徐と劉が運良く出てきた。
ステアーTMPのグリップを握り、劉に向けた。響きわたる銃声と共に劉の腕から血が出るのが見えた。すぐに男たちから反撃の銃撃が始まった。構わず9mmの弾をばら撒く様に撃った。あっという間弾切れになった。
横っ腹に激痛。反動で後ろに倒れた。足をばたつかせ、車の影に隠れた。銃弾がコンクリートを抉る。破片が飛んでくる。
ポケットから新しいマガジンを出し、差し込んだ。車のガラスが割れ、頭上から降り注ぐ。車のバンパーに手を乗せ、トリガーを引く。一瞬で弾切れになった。ステアー捨てた。テールランプが破裂した。
腰から二挺のステアーM9を抜いた。車の底にステアーを入れ、爪先に向けて銃弾を発射した。靴の爪先部分が吹き飛び、生々しい血が出る。立ち上がり、男に五発撃ち込んだ。
胸に銃弾が飛び込んでくる。最早痛みも感じなかった。地面に倒れる。
「殺せ」
そんな声が聞こえた。足音が近づく。死に逝く音だ。“ここで死んで良いのか?”もう一人の俺が叫ぶ。“劉はまだ生きてるぞ!”微かに力が蘇った。“ぶち殺せ!”体だけ起こし右手に握ったステアーM9を目の前の男、徐虎に向けた。けたたましい銃声と共に返り血が飛んでくる。スライドが止まる。徐は目を丸くしながら倒れた。
左手で持ったステアーを右に持ち替えた。目を丸した劉に向けた。撃った。車のボディに当たる。撃つ。コンクリートの壁に当たる。撃つ。自分の膝に当たる。いや、これは自分が撃ったのではない。膝を折って倒れた時には追い打ちが飛んでくる。
目の前が真っ暗になっていく。“案外楽しい人生だったな。”もう一人の俺がそれを聞いて笑っている。“最後まで出来なかったが、これはこれで良しとするか。”來は笑顔のまま死んでいった。