順調
十一月二十四日火曜日午前一時十一分
林はグラスに入った酒を一気に飲み干した。窓の外には歌舞伎町の街が見える。
「つまり……木村に情報を流した奴がいると」
劉は眼鏡を中指で持ち上げた。
「そうです。この取引は身内の者にしか言っていません。盗聴された可能性もありますが」
振り返り、劉を見た。
「ヤクは?」
「持ち帰りました」
グラスを木製のデスクの上に置いた。
「何人死んだ?」
「十一人です」
「しばらく沈黙続いた。林は目を閉じて黙祷を捧げた。
「……日本人が。好きかってやりやがって」
とても低い声で言った。
「黄來だ」
目を開けた。血走っていた。無理もない、たとえ部下でも身内は身内。それを憎き日本人の手によるものなら尚更だ。
「殺しますか?」
「いや。ここに連れてこい」
即答だった。
「分かりました」
劉は一礼して部屋を出た。
林は声には出なかったが、涙が流れた。
劉は部屋を出ると目の前にいた徐虎に目で合図した。
「殺すのか?」
キャビンから一本煙草を抜き取った。
「いや、連れてくるんだ」
徐は不満そうな顔をしながら携帯電話を取り出した。
「今すぐ黄を連れてこい」
そう言って電話を切った。煙草の煙を廊下の天井にある蛍光灯に吹きかけた。
「木村はどうする?」
「心配するな。計画は順調さ」
廊下を歩き始めた。