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こてつ物語1  作者: 貫雪
13/13

その十三

 こてつ会長の行きつけの料亭。その庭先は今日も穏やかで平和な時間が流れていた。

 スコンと晴れた空の下、ド・レ・ミ三婆の三人は仲居姿で庭の掃除に勤しんでいるが、礼似はふくれっ面で土間に文句を言っていた。

「ひどいじゃないの、私達に一言も教えてくれないなんて。おかげで大変だったんだからね。あんな大幹部たちに囲まれて、根掘り葉掘り聞かれて」

 土間もすまなそうに言う。

「悪いと思ってるわよ。でも私も今度の件は急なことだったのよ。今更私が継ぐなんて夢にも思ってなかったんだから。それに」

「それに?」

「後から人づてに聞かされるよりはあの場で見てもらった方が、話が早いと思ってね」

 御子も間に入ってとりなす。

「そうよ、結局私たちは本当に何も知らなかったって納得したら、幹部達も余計な質問はあきらめたじゃないの。あの場に私たちがいなかったら彼らの事だもの、有る事無い事いろんな噂が立ったかもしれないわよ」

「……まあ、そうかもしれないけど。でも一言ぐらいあっても良かったのに」礼似はまだ不満そうだ。


「でも、仮にも華風の組長がこんな所で仲居をやっていていいの?」御子がごく当たり前の疑問をぶつける。

「いいのよ、あんな頭の固い連中と部屋の中で膝つき合わせてたら、頭の中にカビが生えそうよ。そもそも辰雄さんのことだって血筋にこだわる古臭い家風から抜けきれなかったから、こんな事にまでなったんだから。誰かが風を通さなくちゃいけない。そのために私は選ばれたのよ」

 土間が一瞬遠い目をする。今度の一件を思い出しているのだろう。


「でもよく決心したわね、土間」御子が感心する。

「元の女組長さんに頭を下げられちゃね。華風の名前は継がないことを条件にお受けすることにしたのよ」

「名前を継がない?それじゃ襲名じゃ無いじゃない。なんで?」

 むくれていたはずの礼似が口を挟む。好奇心には勝てなかったらしい。

「継がないというか、継げないというか……襲名というのはあの場の便宜上の言葉。実は私と亡くなった富士子の間には一人息子がいるの。この姿になった以上名乗ることはないと思っていたけれど、組長になったからには決して人に知られる訳にはいかないわ。もし、私が華風の名を継いで、息子の存在が明らかになり、誰かが担ぎあげようとして、それに対抗して辰雄さんを担ごうとする動きが起こったら……」

「また今度の件の二の舞ね」礼似が言葉の続きを引き取った。

「そう言うこと。だから私は元組長と一緒にこの組の家風を変えようと思うの。元組長もそのためにしかたなく傍流の私を選んだの。血筋やしきたりだけではない、だけど金や勢力だけに頼ることのない、本物の組長を育てられる家風を華風組に作り上げたいのよ」

 土間の目に意志の力が宿る。その先に希望を見据えているようだ。


「これで元組長も辰雄さんとの時間がとれるわ。ああ、辰雄さんは小劇団に入団して裏方をやっているのよ。元組長も劇場にこまめに足を運んでいるの。あの親子もこれからね」土間は嬉しそうだ。

「女組長さんは、本当は最初から土間に組長をやらせたかったんじゃないかしら?」御子が割って入る。

「……御子、さてはアンタ読んだわね」土間が御子を見る。

「何のことかしら?」御子はとぼけた。

「ところで土間の息子さんは今どうしているの?」御子が聞く。

「真柴組でお世話になっているわ。当時私の近くにいたら命が危なかったから、真柴組長にお願いしたの。私の息子はあの、ハルオよ」

「ハルオー?」礼似と御子の声が同時に重なる。

「あの子は今、真柴組で幸せにしている。それだけで私は十分よ。御子、これからもハルオをよろしくね」

 御子も礼似も、もう声も出なかった。


「そう言えばあれから勇治たちはどうなったの?」ショックから立ち直ろうと礼似が話題を変えた。

「あなた会長の家に行ってからツイッターをすっかり放ってあったでしょう。勇治君は真面目に働き始めて、タエさんもよくに家に通っているわよ。良子ちゃんもタエさんになついているみたい。タエさんが嬉しそうに話す様子を会長の奥さんが書きつづっているわ。ご主人とも話し合っているみたいだからいずれ、元の鞘に収まりそうね」土間があきれ顔で答えた。

「もともと嫌いで別れた訳じゃないものね。それじゃかわいそうだけどハルオは失恋ね」

 と、礼似は言った。

 しかし御子には礼似がPCの前でためらう姿が一瞬見えた。礼似はツイッターを見ていないのではない。勇治のその後が心配で、見るに見れなかったようだ。御子は礼似を盗み見てニヤついてしまう。


「ハルオを心配してくれるなら、ハルオに伝えてくれる? あのたこ焼き屋の元の主人は、ただ逃げただけじゃない。自分に商才がない事に気づいても奥さんの体を気遣って止められなかったのを、あれをきっかけに転職しただけだったって。借金も返して今ではトップセールスマンだそうよ。奥さんの身体も良くなっているみたい」

 土間が優しい笑顔で頼むと、御子は大きくうなずいた。


「これでめでたし、めでたしね」礼似が満足そうに言う。

「あら、もうひとつおめでたい話がありそうよ。ねえ御子?」土間がからかう視線を送る。

「御子がどうかしたの?」礼似が聞く。

「真柴の組員達を説得した時にね、良平とは特別にそれはそれは深~く共感し合ったらしいのよ。真柴の組長が喜んでるわ。あきらめていた御子の祝言をどうやらあげる事が出来そうだって」

「へえええ。御子と良平が?」礼似がわざとらしいほど大声を上げた。

 御子は返事もせずに顔をそむけた。それでもその頬が赤い。われ知らず抑えた襟もとの裏には良平からもらったあのお守りが縫い止めてあった。


 そのとき、庭の中に勇治が入ってきた。後ろにこてつが付いてくる。

「礼似さん。こいつすっかり俺になついちまって、脱走癖が付いてるんですよ。屋敷に行くまで離れやしない。何とかして下さいよ」 勇治の泣きごとに礼似が答える。

「きっとあんたがタエさんに会いに行くのを見張っているのよ。ちゃんと送り届けてタエさんに顔を見せなさいよ。でないと何処までも追いかけられるわよ。ねえこてつ」

 礼似が笑いながら言ってやると、こてつが嬉しそうにしっぽを振りながらいつもの笑顔で勇治を追いかけまわし続けていた。

 その頭上には何処までも青い空が爽やかに広がっていた。                                                                                                                完



 こうして私のツイッターを発端とした、長い冗談話は、無事に終焉を迎える事が出来た。……いや、実際には終焉していない。この後も、こてつ物語はパート2が続き、このシリーズは十作にもなってしまった。


 私がお話を書き続けることが何時まで出来るかは分からないが、一人でも私のお話を読んでくれる人がいる限り、きっと私は書かずにはいられないんだろな……。


番外編含めたら、十作ではききませんでしたが(汗)


最初の作品なのでひどい出来ですが、記念碑として恥じを承知で残しておきます。

お粗末様でした。

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