【短編】まんまる星
睡蓮の開く音がするような、静かな月夜でした。
わたしはコンビニの軒下で、ぼんやりと空を眺めていました。
冬の空は、なんだかほかの季節よりも空が高くて、星が遠くに感じられて、立体的な気がします。
だから、わたしは冬の空がいちばん好きなのでした。
澄んだ空に浮かぶたくさんの星の中から、冬の大三角を探しながら、さっき買ったばかりの缶コーヒーの蓋を開けます。
プシュッ、と空気が抜ける音と一緒に、ほのかな湯気が立ち込めました。
ズルズルと音をさせながらコーヒーをすすり、小さくほっと息を吐くと、白い吐息が、薄いヴェールみたいにしんと冷えた空に広がっていきます。
いつも見えない、生の体温のようなものを見ることができる。
冬は、日常の中にもちょっとした特別感を感じます。
だからわたしは、よりいっそう冬が好きになったのでした。
世界にわたしの生をおすそけしながら、白いヴェールの向こうに、探していた大三角を見つけました。嬉しくなったわたしは、つい空に向けて手を伸ばしてしまいます。
指で星を繋げて、三角形を描きます。
一、二、三。
コーヒーで暖まった薄桃色の指で冷たい空気をふわりと押しのけ、空をなぞります。
とても大きくてキレイな三角形ができました。
けれど、その日のわたしはぜんぜん満足できなくて、勝手に周りの星を巻き込んで繋げていきました。
空いっぱいの星々を操る今のわたしには、この世界は少し、狭苦しかったのかもしれません。
三角形が四角形、六角形、十角形とどんどん変貌していき、冬の大三角は、冬のまんまる星とでも言うべき、まんまるな形になってしまいました。
そのキレイで均等な曲線に満足した私でしたが、まんまる星はそうではありませんでした。
まんまる星は自分の意思を持ち、勝手に動き出してしまったのです。
右、上、下、左、また右に。空を泳ぐ魚のように、四方八方へ動きます。
私の制御下を離れたまんまる星は、どんどん周りの星を吸収していきました。
わたしはそれを、缶コーヒーを擦りながらぼんやりと眺めていました。
白い熱気が空気に溶けて広がるように、まんまる星は大きく、大きくなりました。
そして、空いっぱいの星を喰らい尽くしたまんまる星は、ついに地球をも飲みこんでしまいます。
黒い黒い大きな口が、夜の底から迫ってきます。
コーヒーみたい、とわたしは思いました。
わたしが最後に聞いたのは、空っぽの缶が落ちるような、とても乾いた音でした。




