猫蜉蝣1
連載中「たった一つの世界」のサイドストーリー。
うつろうは悲しみか
八月四日、夏
世を渡るものたち
加賀屋の双子は常に店の奥で品を磨いている。
番頭の向こう側から俺を出迎える表情は相変わらず。
少年らは一片の狂いもない同じ顔を突き合わせていた。
目を細め、大きな口を上弦の月のように吊り上げて、それはそれは人好きのする笑みで受け入れる。
好奇をそそる光景だった。
店の中には豆電球が五つ。
薄暗い黄色の明りが、かろうじて店の中の足場と棚の上の品を浮かび上がらせる。
ロージー
茶猫である。
するりと足下を擦り抜け、王様のように歩く猫だ。
「おとなりの科賀屋さんちの居候殿、いらっしゃい」
「いやいやいや、お久し振り」
正直なところ双子との面識はそれほどない。
「見掛けるわけよ、前を通るとそこの窓から」
そういわれて見れば、・・・いや、なるほど。
胸元のリボンが揺れた。
麻の紺の着物に足が生え(たかのようにだ)、無意識に木造の奥へと足を踏み込む。
蜘蛛の糸を駆除した後の薄汚れた窓が、うず高く押しこまれている棚の間から覗く。
時間をそのまま吸い付くしたような年季を感じさせる木の棚は、ほこりを被りながらもかろうじて艶やかな飴色だった。
「おや。ロージーは?」
「いつものところじゃないかねぇ?」
チェシャ猫のようにニヤニヤ笑い、ぐるりと同時に私に視線を戻す。
ではなく私の後ろの扉の方目を向けた。
「いいねぇ気楽で」
「ねぇ」
加賀屋の家と
科賀屋の家の
間。
街の隙間のスキマの扉。
密集した家のうちの一軒の
表札。
開けてみればタバコ屋のような狭い場所。
抜けて見れば線路の下の、川原の土手であった。
自分が持ってる某ブログにこっそり掲載している文章をこっちに持ってきました。
元は大学で課題として出したお話でブログでも連載しようかと思ったのですが、ブログのカラーが全く違ってきてしまったのでこちらで続きを書ければ・・・と。でも書けるかわかりません(笑)