78・こんな筈じゃなかった(カルミア視点)
◆◆◆
雷魔法は他の魔法に比べて最強である。
そう断言できる理由は、私が発明した雷魔法の最強技『ハッキング』だ。
ハッキングとは、雷魔法で人の脳から出る電気信号を意のままに操ると言う技である。
それを使って、私は敵兵の脳を操り仲間同士で殺し合わせた。
その応用で、敵国の機械兵器すら操ってみせた。
私一人で、敵国の部隊を皆殺しにすることを成功させた。
このハッキングを我軍の雷魔法部隊全員が使えるようになったら、禁断の魔道具莠コ蟾・逕溷多菴薙�繝�繝ウ繧ッ繝ォ繧ケ繧堤函謌舌☆繧�の開発が間に合わなくても、敵兵を屠ることに罪悪感を覚えるユーフォルビアの心理的負担も減るだろう。
そう思い、雷魔法部隊にハッキングを教えたのだが。
私以外の雷魔法使いは雷の制御すら困難なようで、捕虜相手に訓練させても雷の力加減が出来ず、捕虜の頭部を消し炭にするだけだった。
やはり、禁断の魔道具莠コ蟾・逕溷多菴薙�繝�繝ウ繧ッ繝ォ繧ケ繧堤函謌舌☆繧�を製造するしか無いのだろう。
ああ、今夜も眠れない。
文責、ドクトル・繝輔ぃ繧ヲ繧ケ繝�
◇◇◇
「ロスベール様ってばモクリエールアレンを逮捕したんですか!?」
お昼が終わり、午後のおやつの時間となった今。
あたし――カルミアは、やっぱ詐欺師よりあたしだけを溺愛してくれる誠実なロスベール様だよね♡ と気を取り直し、彼の屋敷へ向かったの。
だけど、ポーラリス公爵家のメイドが言うにロスベール様は王城にある彼の部屋にいるそうで、えー面倒くさっ! って思いながら馬車で移動した。
王城に着きロスベール様の部屋へ行くと、彼は豪華なお部屋に似合う大きなソファーに座って、長い脚を組んでいる。
そんなロスベール様へ抱き付くと、彼は分厚い身体であたしを抱き止めて、あの白い悪魔を逮捕したと言ったのだ!
も、もしかして⋯⋯白い悪魔に騙されたあたしのため?
やーん♡ あたしってやっぱり溺愛されてるよね! ⋯⋯そう、だよね?
ざわつく本心を見ないふりして、与えられる幸せを噛み締めながら、豪華なソファーに座るロスベール様の膝に座った。
「ねえ、ロスベール様っ! アイツの釈放っていつ頃ですか? 豚箱にいる間に『ざまぁ詐欺師、このクソホスト』って言ってやりたくて♡」
「釈放なんて無い」
「え?」
ロスベール様はあたしを見ながら、「お前は運命の番だ」と言ってあたしの髪に口付ける。
運命の番? それってロマンス小説で今流行ってるヤツ?
そんなこと今まで言われたこと無いし、そもそも運命の番って何?
⋯⋯ほんの一瞬、ロスベール様が怖――
い、いや、彼は天然さんなだけで。だから。
ていうか、釈放なんて無いって、何?
「アイツは殺す」
「え?」
「最初から、殺せば良かったんだ」
「え、え?」
ロスベール様はあたしを見ているはずなのに、心ここに非ずと言った様子⋯⋯⋯⋯ん?
ロスベール様の、心?
そんなの、気にしたこと無かった。
ロスベール様だって人なんだもん。心くらいあるよね。
何で、今になってそんな当たり前のことに気付いたんだろう。
「殺すってロスベール様⋯⋯じょ、冗談⋯⋯ですよね?」
そりゃ、ロスベール様の作戦で結界を張ってない貧民街の近くにわざと魔獣を呼びせる作戦はしたけれど。
でも、あれは七号が呪いで魔獣を呼び寄せてるって思ってたから、七号を捕まえるための罠ってだったわけで。
それに、あの付近には聖騎士団とヒーラー隊がたくさんいたし、そもそも七号は魔獣をすぐにやっつけるから、死人どころか怪我人一人も出さないつもりだった。
だから良いと思った。
そりゃ、貧民街の家がちょっと壊れるかもとは思ったけど、元々あそこは福祉として建物を建て替える予定だったし。
その予定を利用して、魔獣のせいで壊れた家々を浄化の聖女の優しい願いで全て綺麗に建て替えてあたしの支持率上昇♡ っていう筋書きだった。
結局は白い悪魔のせいで全部滅茶苦茶になったけど、でも、死人はぜっったいに出さないつもりだった。
だけど。
ロスベール様がマジで人を殺すなんて、そんなの聞いてないんですけど!?
「ね、ねえロスベール様⋯⋯あ、あの、アイツを殺すって、じょ、冗談⋯⋯ですよね?」
「⋯⋯そうだカルミア。我が運命の番である花嫁のお前に、指輪を送らねばな」
「きゅ、急になんですか?」
ロスベール様の言ってることが何一つ分からず、あたしは怖くなって彼の膝から降りて、隣に座った。
いつもより重い気がするあたしの体重で、ソファーのクッションが沈む。
一方、ロスベール様はいつものようにあたしの髪を一房取って口付けてから、いつものようにいつものように
「美しい天使カルミア、お前は私のものだ」
と溺愛するような事を言ってくれる。
今まで、ロスベール様から『お前は私のものだ』と言われるたび、『国一番の優良物件から溺愛されるなんて幸せ♡』ってなってた。
あたしの幸せは全部ロスベール様がくれる。
ロスベール様があたしを幸せにしてくれる。そう思ってた。
でも、何故だろう。
出稼ぎ修行先で出会った村の女の子から作ってもらったビーズの指輪が気になる。
ビーズの指輪を嵌めた感触が、やけに気にな――
「カルミア? 何だこの安物の粗悪品は。お前のガラス細工の如き美しい指に、この様なゴミは似合わない」
「え」
ロスベール様は、王子様みたいにあたしの手を優しく取って。
あたしの手からビーズの指輪を抜き取ってから、ゴミみたいに床へ捨てた。
そして、手にしたケースから美しいサファイアの指輪を取り出す。
「私の瞳を模した、国一番の宝石を使った指輪だ。これをお前に贈ろう。そうして、真実の愛を誓ってみせよう」
「⋯⋯」
「カルミア?」
何でだろう?
出稼ぎ修行先で出会ったあの女の子の『ありがとう』が耳から離れない。
初めて頑張ったことで貰えた『ありがとう』の言葉が、どうにも耳から離れない。
「返して」ロスベール様っ♡ あたし、貴方のものになれて幸せですぅ♡
「は?」
「え、あれ?」
あれ? 本心と違う言葉が出た。
違う違う違う違う違う。言うべき言葉はそうじゃないと思うのに、あの女の子から言われた『ありがとう』の言葉が心に刺さって取れやしない。
「カルミア!? お前、一体何を」
気が付くと、ソファーから降りてロスベール様に放り捨てられたビーズの指輪を拾い上げていた。
良かった。壊れてない。
一安心すると同時に、あたしのものを勝手に捨てたロスベール様へ怒りが湧いてきた。
「何で、こんな事するんですか!?」
「? お前は私のものだろう? だから幸せにしてやると言っているのだ」
お前は私のもの。
そう言われて、大事なビーズの指輪を勝手に外されゴミのように捨てられた瞬間を思い出す。
あたしの頑張った証を、彼はゴミみたいに捨てたんだ。
この時、『お前は私のものだ』と言う言葉の恐ろしさにやっと気付いた。
だって、あたしがロスベール様のものなら、こう言ったことはこれから何度も起きるということだから。
誰かのものになるってことは、こういうこと。
相手にとって、あたしの心とか大事にしてることが透明になるってこと。
まるで溺愛されるも捨てられるも持ち主次第のお人形って感じ。
⋯⋯これが、幸せなの?
「違う⋯⋯あたしは。⋯⋯ものじゃない」
「言っている意味が分からない。どういう事だ? お前は人だろう」
「そうだけど、でも、違う。あたしは、ものじゃないんです」
やっぱり、ロスベール様とは会話が出来ない。
と言うか、元から会話出来てたんだろうか。
分からない。ロスベール様が分からない。
この人、今までずっと何を思ってたんだろう⋯⋯と考えていると、突然ロスベール様がソファーから立ち上がった。
怒ったかな。どうしよう。心臓がバクバクしている。
思えば、誰かに逆らったのはこれが初めてじゃん、あたし。
緊張しながらロスベール様を見ていると、彼は思いも寄らない行動を取ったのだった。
「学習不足か」
ロスベール様は表情を変えずに言うと、踵を返してどこかへ行ってしまったのだ。
喧嘩になるかな? と緊張していた身体がふらふらと揺らぐ。
「⋯⋯マジでロスベール様はモクレンを殺す気なの? どうしよう。さすがに浄化の聖女の権力を使っても、逮捕された人を逃がすことなんか出来ないし⋯⋯」
浄化の聖女は貴族よりも強い権力を持つけど、それは万能じゃない。
現に、あたしより公爵のロスベール様の方が偉いから。
それに、モクレンに印刷所を奪われたせいで、浄化の聖女に関する出版物はどんどん打ち切られたから、あたしの人気は落ち続けている。
こんな状況で、あたし一人じゃどうにもならない。
考えろ、誰の力を借りれば死人が出そうなこの状況を止められる?
「⋯⋯ファウスト枢機卿長」
彼はプルトハデス教の偉い人達の中でも頂点なのだ。
そうだ。彼にロスベール様を止めてもらおう。
でも、あたし一人の意見を聞いてくれるだろうか。
あたしの人気は落ちている。それはこの国だと権力が無くなっていることを意味するんだから。
ファウスト枢機卿に相談したい。でも、人気が落ちたあたし一人じゃどうにもならない。
人気と権威があって、話し合いの場に強い人物。
誰かいないかな。
ファウスト枢機卿長も無視出来ないような、今最も人気があって圧がある人は――――
「あのハイエルフの歌姫とか呼ばれてる⋯⋯サラサ、だっけ」
ハイエルフなら、ファウスト枢機卿長も無視出来ないだろう。
それに、サラサはハイエルフの歌姫として人気があるって新聞にも出てたし、なんか絶妙に偉そうで圧もある。
サラサだって、モクレンがパクられて心配してるに違いない。
「⋯⋯サラサに会いに⋯⋯マグノリア地方に、行かなきゃ」
こんな筈じゃなかった。
まさか死人沙汰になるなんて、思ってなかった。
このままじゃモクレンは、ロスベール様に殺される!!
そうなると、あたしも人殺しの妻に⋯⋯共犯になるじゃん!!!
嫌だ! そんな責任負いたくない!!!
あたしは王城から飛び出し、護衛の聖騎士を付けるのも忘れ、馬車を捕まえて運転手に大金を握らせて急いでくれと頼む。
そして、急ぐ馬車に揺られながら、人殺しの共犯と言う恐怖と責任から逃れるため、あたしは死ぬ気で行動した。
⋯⋯だけど。
◇◇◇
「え⋯⋯喉から血を流して声が出せないどころか全身に毒が回って死にかけたサラサを、レンゲ様がホオノキ様のとこへ連れてったぁぁあああああ!?」
マグノリア地方にあるモクレン様の屋敷行っても誰もいなくて、手掛かりを探すために近所にあるマグノリア騎士団の砦に行ったら、忙しそうにしてる騎士から『北東の森に魔獣が出た』『自分達は近隣住民を避難させるために動いてる』って言われたの。
だから、サラサを探しに北東の森に行ったのに、そこにいたのは、大量の羆魔獣の死骸とボロボロの騎士達と涼しい顔をしている七号だけで。
サラサはどこって七号に聞いたら、あたしが来る前にサラサとレンゲ様はホオノキ様の元へ行ったって返ってきた。
「⋯⋯あたしがもう少し早く来てれば、サラサを治せたのに⋯⋯。ご都合主義の反対って感じ」
あたしはがっくりと肩を落とす。
だけど、そんな場合じゃない。早くしないとあたしは人殺しの妻になっちゃう! そんなの嫌だ!
人殺しの共犯なんて責任の負いたくない!!!!!!
「七号、あんたでいいや。一緒にファウスト枢機卿長に頼んで、ロスベール様を止めて欲しいの!!」
◇◇◇
良い感じにお付き合いありがとうございます!
ちょっとでも
「面白い!」
「先が気になる!」
「カルミア、お前結局そうなんかい!!!」
「やっぱこいつ痛い目見ろや!!!」と
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