14・戦いの講義をいたしました
「只今、魔獣を三体駆除致しました。それでは、引き継ぎを願います」
レンゲ様お手製のドレスを頂いた翌日の早朝。
モクレン様の屋敷にある電話へ、マグノリア騎士団から『巡回中の夜勤部隊が牧場を狙う狼型の魔獣四体と交戦し、一体は倒せたものの、魔獣の猛攻により部隊が壊滅した』と言う連絡を受け、私とモクレン様はレンゲ様を叩き起こしてすぐに現場へ向かったのだ。
そして、モクレン様とレンゲ様は大怪我を負って壊滅状態の夜勤部隊の手当てに付き、ホオノキ様に連絡を取っている。
一方私は、仲間を一匹殺られたことで警戒しているのか、牧場周辺をぐるぐるとうろいている狼型の巨大な魔獣を三体斬首した後、モクレン様に引き継ぎを頼んだ。
「モクレン様。魔獣の死骸の処理と浄化、そして牧場主様へのご対応の引き継ぎを願います。⋯⋯私は、この魔獣の出どころを突き止めるため、死毒の森へ向かいます」
「⋯⋯分かった。ツミキちゃん、君一人に戦わせて申し訳ないけど、俺らが死毒の森に入ると秒で毒にやられて死んじゃうから⋯⋯だから、そっちは任せたよ」
負傷した騎士の手当てをしているモクレン様は、私の目をまっすぐ見ながらそう言った。
大怪我を負った騎士達は、モクレン様とレンゲ様とこれから駆け付けるホオノキ様達ヒーラー部隊がいれば問題ないだろう。
私が対応すべき問題は、魔獣だ。
魔獣は、動物と同じ生態をしているため、ある程度の行動の予想はつく。
魔獣は狼型だ。
狼は群れを形成する生き物であるゆえ、駆除した以外の個体が存在するだろう。
私が駆除した魔獣達は、家畜の牛を狩って群れへと持ち帰ろうとしたのだ。
ならば、群れごと駆除しなければ、牧場に安寧は無い。
私はモクレン様に許可を頂いてから、魔獣がやって来た樹海へ入る。
深い緑が覆う樹海を駆け抜けると、徐々に毒の気配を感じた。
そろそろ死毒の森へ入るのだろう。
◇◇◇
「予想的中。只今をもって魔獣の群れを殲滅いたします」
私は大鎌を手に、こちらを食らおうと襲いかかる狼魔獣の群れを撹乱するため、毒に汚染され異様な伸び方をしている赤黒い木に素早く登り、他の木々に飛び移りながら群れの動きを分散した。
そして、統率を崩した狼魔獣へ、奇襲をかけるように木から飛び降り大鎌を首めがけて振り下ろし、斬首。
その次に、真正面から飛びかかろうとした狼魔獣を下から斬り上げる逆袈裟斬りで斬首すると、背面に跳躍し手近な木々に飛び乗った。
後は同じ要領である。
地を駆ける狼魔獣は空からの奇襲に弱いため、分断して空撃すれば殲滅するに一分もかからない。
狼魔獣を殲滅し、魔獣を吐き出す死毒の根へと向かった。
赤黒い巨大な丸い節を切除しようと近付けば、その木の根元には狼魔獣の幼体と思われる個体こちらを見上げていた。
「魔獣は全て駆除いたします」
大鎌を振るい、一撃で魔獣の幼体を冥界に送り返して、死毒の根を水平に一刀両断する。
死毒の根を切除し、周辺に生えていた赤黒い木々や青い草花が炭のように枯れて出したのを見て、この地域の空気から毒が消えたと感知した。
◇◇◇
「ツミキちゃん大丈夫!? 怪我は無い!?」
死毒の森から大地を奪還したとお伝えするためモクレン様の元へ戻ったら、彼の第一声は私の身を案じるものだった。
驚いてしまい、言葉が出ない。
「⋯⋯⋯⋯ご安心ください、私に一切の負傷は無く無傷です。なので、今後の魔獣の駆除に支障は無く、引き続きご使用頂けま」
「っ、⋯⋯違うよ⋯⋯」
モクレン様は泣く寸前のような顔をした。
「ごめん、遮って。⋯⋯君の力を借りてる俺がこんなこと言うのもアレなんだけど、でも⋯⋯俺は、ツミキちゃんが怪我をしたら悲しいよ。だから、これだけは⋯⋯分かってくれるかな」
そう言って、モクレン様は白いハンカチで私の顔にかかった返り血を拭いてくれた。
返り血を浴びた姿を穢らわしいと石を投げられることはあれど、怪我をしたら悲しいと言われ返り血を拭われたのは、初めてだ。
モクレン様がなぜこのような言動を取るのか何一つわからない。
お気遣いを頂かなくとも、私は魔獣を殺すために生まれたのだから、返り血を浴びて負傷するのは日常なのに。
不思議な方だなあと思った、その時だ。
「ツミキ様⋯⋯頼みがあります!!」
包帯まみれの騎士達が、真剣な顔で私へ話しかけてきた。
「我々に、貴女の規格外の強さを教えてください!!!!」
◇◇◇
「それではまず、体の使い方からご説明いたします」
マグノリア騎士団の基地である砦にて。
屋外の広い訓練場の壇上に立つ私は、レンゲ様が開発した拡声器型魔道具であるマイクと言う丸い頭が付いた棒を握りながら、整列される騎士団の方々へ講義を開始した。
夜勤部隊の皆様に戦いの講義を頼まれ、私は僭越ながらお話を聞かせる運びとなったのだ。
騎士達がユーフォルビア一族の私の話を聞いてくれるのか? と王都での日々を思い出したが、マグノリア騎士団の皆様は、
「あの女性が……魔獣を瞬殺してモクレン様や夜勤部隊をお助け下さったのか」
とざわざわするどころか、
「あのすっげえ美女が大鎌を振るって魔獣の首を刈ったのか……。俺、死ぬ時はツミキ様に首を刈って頂きたい」
とまで仰る方もいた。
そんな方にモクレン様は
「どんどんツミキちゃんを褒めてやってくれ〜!!」
と笑顔で場を盛り上げるようなことを言う。
やはり、マグノリア地方の方々は不思議である。
不思議で、愉快で、暖かい。
私は場が静まった瞬間を狙って、マイクを手に話を始めた。
「例えば。通常、私達は歩く時に右手と左足を交互に出します。そして、それは剣を振るったり拳を振り抜いたりする時もそう。……ですが」
私は正面を向いたまま、木槍を右手に持つ。
そして、左足を前に踏み出したあと、身体を捻った勢いで右手に持つ木槍を突き出す。
「これだと、手と足が無駄に捻じれ内臓が圧迫されるだけでなく、手と足の動作に若干の遅れが生じます。……これが、『隙』に繋がる恐れがあると、私は先代から教わって来ました。……なので」
今度は、左足を前にして、体を斜めに向けて半身の姿勢を取ったあと、『木槍を持つ右手と右足を同時に前へ』突き出す。
すると、ビュンッと言う風を切る音が聞こえ、先ほどの動作より速さも勢いも増した突き攻撃を繰り出せた。
「同じ側の手と足の動きを連動させれば、左右で異なる手足を繰り出すより体を捻る手順が減るので、その分勢いが増して素早い攻撃に繋がります」
そう説明したあと、
「また、半身の姿勢は正面を向く姿勢よりも手足の動きが読まれにくいうえ、身体の急所を逸らすことができます。なので、対人の格闘においてはとても有効な姿勢であると言えるでしょう」
と補足した。そして、
「何かご質問はありますか?」
とお聞きしたら、溌剌とした雰囲気の騎士様が挙手をして下さった。
「質問です! ツミキ様はモクレン団長を救う際、魔獣三体を瞬殺されたと聞いておりますが、その際はどのような動きをされたのですか?」
「まず、大鎌を手に助走をつけて跳躍したあと、近場の木を足場に上空へ駆け上って魔獣の背後を取り、急降下する最中に身を翻し、回転の威力を持って大鎌を振るい魔獣を斬首いたしました。……次にその魔獣の亡骸を蹴って跳躍し」
「ごめんなさい、やっぱり良いです。すみませんでした」
質問者の騎士様は苦笑いしながら着席された。
「……私は何かおかしな事を申し上げてしまったのでしょうか」
そう呟くと、レンゲ様が
「最近流行りの小説投稿雑誌『小説家になろうよ』で流行ってるチート主人公って、実際にいたらこんな感じだと思われ」
と呟いた。
どんよりとした空気が漂う中、モクレン様が
「はいはいチート主人公を前にしょげないしょげない! 俺なんかチートは無えし剣どころか他の武器の才能も無ぇし、魔法も使えないけど立派に生きてるからな! と言うわけで、俺相手にツミキちゃんから習ったことを実践してみたい人ー!! 挙手!!!」
と手を叩きながら明るい声を出した。
すると、騎士団の皆様は
「まあモクレン団長でも元気に生きてるからな」
と呟いたあと、元の明るい表情で元気に挙手をする。
私がどんよりとさせてしまった空気を、モクレン様は一瞬で明るい空気に変えてしまった。
やはり、この方は魔法使いなのでは? と思わざるを得ない。
◇◇◇
講義後。
モクレン様と騎士団の皆様は、私がお伝えした戦闘術の実戦稽古を始めたので、私はレンゲ様のお仕事をお手伝いするべく副団長の部屋へと向かった。
レンゲ様の部屋は魔道具の部品や工具やよくわからない書類で埋め尽くされており、床が見えない。
しかし、レンゲ様はふにゃっとした笑顔を浮かべて
「三日前片付けたからいつもより綺麗なんだよ」
と仰るので、私から申し上げることは何も無かった。
「ツミキ氏、そこのソファー座って。上のものは適当にアレしてくれたら良いから」
「適当に……アレ、ですか?」
「ああ、ごめん。まあ、どっか置いてくれたら良いよ」
レンゲ様の指示に従い、ソファーの上の魔道具の部品や工具や資料などを適当にアレした。
そして、開いた位置に腰を下ろして
「私は何をお手伝いしたらよろしいでしょうか? 私には、絵本を読破する程度の識字力があります。お力になれることがあれば嬉しいのですが」
と次の指示を待つ。
すると、レンゲ様は
「そんならこの領収書の山を、月毎……数字ごとに仕分けてくれる? ボク、騎士団の経理担当だけど、領収書の仕分けとか出来ないから、いつもモクレン氏を手伝わせてたんだぁ。……モクレン氏、よく怒らないよね」
と言って、箱を十二個用意された。
つまり、一の月の領収書は一と書いてある箱に入れれば良いのだろう。
数字は読めるので、これならばお力になれそうだ。
「レンゲ様は経理をご担当なのですか……。魔道具開発と言いドレスのデザインと言い理容外科医としての腕前と言い……とても多才でいらっしゃいますね」
「ありがと。まあ、魔道具開発はぶっちゃけ魔法科学の領域だし、デザインと理容外科医は実家が実家だけに身に付いたことだからさ。……それに、ツミキ氏は多才って褒めてくれたけど、ボク、出来ないこともめちゃ多いから」
確かに、レンゲ様は朝起きられず、今朝もモクレン様に叩き起こされていた。
それに、この部屋の有様や、経理担当なのに領収書の整理が出来ないところを見るに、彼の仰る通りなのだろう。
そんなレンゲ様は、書類の束へ素早い速度で目を走らせながら数字をブツブツ呟きつつ、何かを記入している。
まさか、暗算で全て計算をされているのか。
マグノリア地方の人々には不思議が多いが、レンゲ様も不思議だらけだ。
そして、数分後。
「……ふう。計算お〜わり。マグノリア騎士団の働きで、今年はほんの少し黒字ってとこかな。……でも、モクレン氏がぶっ込んだ私財を考えると、まだまだ赤字だと思われ」
「そうですか⋯⋯。浄化の聖女の結界無きマグノリア地方にとって、魔獣対策の防衛費は莫大な額になるでしょう。」
「あー⋯⋯それも、あるんだけど⋯⋯。モクレン氏が素寒貧になるほど私財をぶっ込んだ理由は、他にあってさ」
「他⋯⋯ですか?」
思わずそう聞き返すと、レンゲ様は
「マグノリア騎士団のみんなはさ、一度身も心もボロボロにぶっ壊れたんだよね……ロスベールのせいでさ」
と答えたのだった。
◇◇◇
良い感じにお付き合いありがとうございます!
ちょっとでも
「面白い!」
「先が気になる!」
「戦いの講義、結構ガチだな」
「マグノリア騎士団、あったかいね」と
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