73話 公園のすべり台
「子どもが消えかけた、ってどういうことだ?」
西条が報告書から顔を上げた。
「市内北部の総合公園です。大型遊具のすべり台で、滑ってきた子どもの姿が途中で見えなくなったって」
小野寺が状況を説明する。
「え、消えた!?それもう怪談じゃないですか」
斉藤が思わず声を上げる。
「幸い、完全に消失したわけではありません。すべり台の途中で突然減速し、下に出てくるまで異様に時間がかかったそうです」
芦田が補足する。
「……内部空間が歪められてる可能性があるな」
真壁が低く言った。
「公園は人が多い。特に休日だ。急ぐぞ」
西条の一声で、防衛課はすぐに出動した。
現場の公園は、普段どおりの賑わいに見えた。
だが、問題の大型遊具の周囲だけは、立入禁止のテープが張られている。
「これか……普通のすべり台にしか見えないけどな」
斉藤が首をかしげる。
「表面温度、異常なし。でも内部……中が“長い”です」
芦田がスキャナーを操作し、眉をひそめた。
「長い?」
小野寺が聞き返す。
「構造上は6メートルのはずなのに、内部反応が15メートル以上あります。空間拡張型の怪獣か、遊具に擬態してる可能性があります」
「子どもが中に閉じ込められたら洒落にならん」
真壁が装備を確認する。
「まずは完全封鎖。斉藤、小野寺、周囲の親子を遠ざけろ」
西条が指示を出す。
遊具が封鎖されると、公園は一気に静かになった。
「お兄ちゃん、すべり台使えないの?」
泣きそうな子どもに、斉藤がしゃがんで目線を合わせる。
「ごめんな、今ちょっと点検中なんだ。またすぐ遊べるようにするからさ」
「……こういうの、地味に心が痛いですよね」
小野寺が小さく言う。
「だからこそ、さっさと終わらせる」
西条はすべり台を見据えた。
「怪獣、出てこさせるしかないですね」
芦田が言う。
「どうやって?」
斉藤が聞く。
「中に熱源を流します。人が入ったと誤認させれば、反応するはずです」
「俺がやる」
真壁が一歩前に出る。
小型の発熱装置が、すべり台の上部から投入された。
数秒後――
すべり台全体が、わずかに“うねった”。
「……動いた」
小野寺が息をのむ。
次の瞬間、すべり台の内壁が歪み、粘土のように変形した。
「出てきたぞ!」
斉藤が叫ぶ。
すべり台の出口から、半透明の生物がずるりと姿を現した。
全体は筒状で、内側に吸盤のような器官が無数に並んでいる。
「仮称“スベリムシ”。人工構造物に擬態し、人を内部に取り込むタイプです」
芦田が即座に分析する。
「よりにもよって遊具かよ……」
斉藤が顔をしかめた。
「攻撃は最小限に。公園を壊すわけにはいかない」
西条が言う。
「なら、内部から固める」
真壁が装置を構える。
「斉藤、注意引ける?」
「お安い御用……じゃないけど、やるしかないか!」
斉藤が音響装置を鳴らすと、スベリムシが反応し、体を大きく伸ばした。
「今よ!」
小野寺の声と同時に、真壁が封印剤を噴射。
スベリムシの体が急速に硬化し、動きが止まる。
「内部空間、収縮しています!」
芦田が叫ぶ。
やがて、怪獣は元のすべり台のサイズまで縮み、完全に活動を停止した。
封印処理が終わり、公園には再び人の声が戻ってきた。
「……これ、もう使えないわよね」
小野寺が遊具を見て言う。
「構造的にアウトだな。撤去だ」
西条が答える。
「でも、誰も怪我しなかった。それで十分です」
芦田が静かに言った。
「だな。遊具一つで済んだなら、安いもんだ」
斉藤がうなずく。
真壁は、硬化したスベリムシを収容しながらぽつりと言った。
「次は……ブランコかもしれんな」
「やめてください、想像したくない」
小野寺が即座に返す。
公園のすべり台は、その日のうちに立ち入り禁止となった。
だが、子どもたちの笑い声は、すぐに別の場所で戻ってきた。
拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。




