72話 夜影の跳躍者
「最近、この辺りで“黒い影が飛び回っている”という通報が続いています」
小野寺がタブレットを置き、全員に資料を配った。
「黒い影? 鳥じゃなくて?」
斉藤が首をひねる。
「鳥よりも速く、しかも建物の壁に張り付いたり、音を立てずに移動したりするらしいです」
芦田が補足する。
「……忍者か?」
斉藤の冗談に、西条は静かにうなずいた。
「忍者のような動きだという証言が複数出ている。人影のようだが、人ではない。怪獣の可能性が高い」
「忍者怪獣……怖いのか怖くないのかわからんな」斉藤が肩をすくめる。
「怖いに決まってるでしょう。静かに近づいてくるなら、避難誘導が追いつかない」
小野寺は資料を閉じた。
「真壁、暗所用装備を。芦田、影の軌道予測ができるか?」
「可能です。移動速度は時速40キロ前後、人間より速いですが、怪獣としては低速。ただし“音を立てない”のが脅威です」
「姿なき脅威か……現場へ向かうぞ」
西条が立ち上がり、防衛課は夕暮れの街へ出動した。
現場は、市内西部の古い商店街。
街灯はまだ点き始めたばかりで、影が長く伸びている。
「みんな、上を見て!」
芦田が叫んだ。
ビルとビルの隙間を、黒い影が高速で横切った。
「いたな……! あの速度、普通じゃないぞ!」
斉藤が身構える。
影は、手裏剣のように鋭い形状で、壁に吸い付くと人型のシルエットへと変化した。
「仮称“ヤトカゲ”。影を使って移動し、光が当たると形が変わるタイプです」芦田が冷静に分析する。
「忍者っていうより……影法師だな」小野寺が低く言う。
「来るぞ!」
西条の声と同時に、ヤトカゲが跳躍し、防衛課の方へ迫った。
「真壁、光源!」
「了解」
真壁が高出力ライトを点灯すると、ヤトカゲの影形態が揺らぎ、人形のような形に戻った。
「光に弱いタイプだな」斉藤がにやりとするが、すぐにヤトカゲが飛びかかる。
「うわっ!早っ!」
斉藤がバックステップで避ける。
「攻撃性あり!直接触れられたら危険です!」
芦田が叫ぶ。
ヤトカゲの腕は刃物のように鋭く、斉藤の袖をかすめただけで布地が裂けた。
「怖ぇ! マジで忍者だこれ!」
斉藤が悲鳴を上げる。
「影に潜られる前に囲い込む!」
西条の指示で、真壁と斉藤が左右からライトを照射し、小野寺が逃げ道を封鎖テープで囲む。
ヤトカゲは光を嫌い、ビルの裏へ逃げようとするが――
「芦田、あそこ!」
小野寺が叫ぶ。
「はい!影の流れを予測して、出口を指定します!」
芦田が指差したのは、商店街の古い看板の下。
ヤトカゲの影が濃くなり、そこから逃げようとする。
「照射!」
西条の合図で、三方向から光が集中した。
「ギャッ――」
影が灼けるような音がし、ヤトカゲが苦しげにもがく。
「今だ、封印スプレーを!」
斉藤と小野寺が両側からスプレーを噴射した。
ヤトカゲは煙の中で崩れ落ち、影が薄れていく。
完全に姿を失ったあと、地面には黒い粉末だけが残った。
「活動反応ゼロ。消失しました……」
芦田がタブレットを見つめ、続ける。
「どうやら影そのものを媒体にしていた“半存在型怪獣”のようです。光で媒体を失い、消滅したと推測されます」
封印後、商店街の空気は落ち着きを取り戻した。
「まさか影が怪獣になるとは……油断ならないな」
斉藤が破れた袖を見てため息をつく。
「影はどこにでもある。潜める場所が無限なのが厄介だ」
真壁が片づけながら言う。
「でも、弱点もはっきりしてた。光があれば、私たちは負けない」
小野寺が明るく言った。
「芦田、よく動線を読んでくれた」
西条が声をかける。
「いえ……影の動きには、ある程度“規則”があります。次に同型が出ても、対応できます」
「よし。今日も街を守れたな」
防衛課の5人は商店街を後にし、夜風の中を帰っていった。
拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。




