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70話 潜熱の残滓

「今日はちょっと気をつけてくれ」

朝の防衛課。西条係長の一言で、いつもの空気がわずかに引き締まる。


「なんかあったんですか?」斉藤がコーヒーを口に運びながら首をかしげる。


「昨日の夕方、下水道の温度が一部だけ急上昇した。場所は駅の南口――地上では異常なし。地下だけが妙に熱い」


「地熱ですか?」芦田が手元のタブレットを操作しつつ聞いた。


「それなら下水道全域が変化するはずです」芦田は即答する。「局地的な温度上昇、そして熱波の波形が異様に安定している。生体反応の可能性が高いです」


「つまり……怪獣?」小野寺の目つきが鋭くなる。


「正体不明の熱源体ってとこだな。放っておいて自然に消えるもんじゃなさそうだ」真壁がすでに装備ケースを開いていた。


「全員で現場へ。地下ルートでの進入になる。暑さ対策は万全に」西条が言うと、メンバー全員がすぐに動き出した。


駅の南口。人通りは多いが、どこか空気がこもっていた。


「気のせいか、地面がじんわり熱いな」斉藤が顔をしかめる。


「地下三層、旧設備管理通路。市の資料によれば、老朽化で封鎖されているはずだけど、通気孔に熱が集中してるわ」小野寺が案内図を指差す。


「この温度……生きてるかのようです。熱の“脈動”がある。心拍に似たリズムです」芦田が記録をタブレットに保存する。


「心臓のある怪獣、ってわけじゃなさそうだが……一応武装は最大出力で」真壁が背の銃器を点検する。


「現場、潜入開始」西条の合図で、一行は暗い地下通路へと足を踏み入れた。


かつてメンテナンス用に使われていた通路は、すでに錆と苔にまみれ、ところどころ天井が崩れていた。


「温度は上昇中。三層目の奥から……」芦田が言いかけた瞬間、通路の向こうがぼうっと光った。


「照明じゃない……!自然発光だ!」小野寺が声を上げる。


現れたのは、光と熱を帯びた球体のような物体。下水の壁を溶かしながら、ゆっくりと移動している。


「熱源体“フュザイト”と呼称します。自己燃焼型で液体状、触れた構造物を溶解。外殻は半透明で内部に核を確認」芦田が即時に分析を始める。


「核狙いでいいのか?」真壁が武器を構える。


「駄目、外殻がバリアになっています。熱を吸収して拡大する性質がある……むしろ攻撃すると巨大化する可能性が」芦田が制止する。


「じゃあ、どうやって止めんだこれ」斉藤が肩をすくめる。


「逆に熱を奪う手を使いましょう。冷却薬剤と反応弾、同時に使って核の活動を一時停止させます」芦田の指示に、西条が頷いた。


冷却剤を散布しながら接近する真壁と小野寺。

「表層、凍結開始。いまだ!」西条の合図で、斉藤が反応弾を撃ち込む。


弾はフュザイトの内部に突き刺さり、青白い閃光とともに凍結が拡がっていく。


「核の温度、低下中。活動レベルも下がっています」芦田の声が冷静に響く。


「……これで封印完了か?」斉藤が息をつきながら言うと、突如フュザイトの体内から“音”がした。


「……鳴いてる?」小野寺が、わずかに目を見開く。


「いや……これは……断熱層が壊れたことで音波が漏れてるだけです」芦田が即座に否定したが、その表情にわずかな困惑が浮かぶ。


「……心音のような熱波、自己燃焼……これ、生物というより“現象”に近いわね」小野寺がつぶやく。


「現象、か。怪獣ってやっぱり生き物じゃないこともあるんだな」斉藤が乾いた笑いを漏らす。


「でも……じゃあ、なぜ地下にだけ現れたのか。何が“呼んだ”のか」真壁が冷静に言う。


「それが分かれば、俺たちの仕事は半分くらい減る」西城が言う。


封印装置が作動し、フュザイトは凍結保存された状態で防衛課の収容コンテナに引き渡された。


地上に戻ると、日差しが照り返す舗道が心地よく感じられた。


「さーて、昼メシ、何にする?」斉藤が軽く背伸びをする。


「冷やし中華がいい。今日は暑すぎたわ」小野寺がうなずく。


「怪獣が熱源なら、対策も冷やすだけ……って簡単ならいいんだけどな」真壁が小さくつぶやく。


「怪獣は現象そのものです。完全に消すことはできません。……でも、抑えることはできる」芦田が言ったその言葉に、誰もが静かにうなずいた。

拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。

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