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7話 駅前ロータリー、大混乱

 土曜の朝。市役所の勤務は原則お休みだが、防衛課には「交代制の当番」がある。

 そして今日は、俺――西条修一が当番だった。


「いやー、平和だな……」


 そうつぶやきながら、市役所3階の防災センターで書類の整理をしていた午前10時8分。

 市の西部にある青柳中央駅の駅前ロータリーで、最初の通報が入った。


「道路の真ん中に“牛みたいなでかいやつ”が立っていて、動きません!」

「さっきからトラックを追いかけ回してる!」

「あ、クレーン車に突っ込んだ! フロントが……!」


 警察、消防、交通管理課……そして我々、防衛課に一斉連絡が入った。


「純粋に暴れてるタイプ……来たか」



 現場に急行すると、駅前はすでに封鎖されていた。

 歩行者も車両も遮断。駅の構内放送が「ただいま駅前広場で一部安全確認を行っております」と言っているが、あれは完全にごまかしだ。


 そして、いた。


 駅前ロータリーの真ん中。タクシーの乗り場をなぎ倒し、横断歩道の白線を踏みつぶしているのは、全長約9メートル、ずんぐりした四つ足の“塊”。


「……見た目、トドみたいだな。ゴムっぽい皮膚で、腹が異様にでかい」


「動きは鈍いですが、突進力がすごいですね。車を3台吹っ飛ばしてます」


「仮称“バウラ”とする。特徴:衝動的、反復行動、周囲構造への強い反応」


 無口な分析官・真壁が、淡々と名付けた。


 バウラは、駅前のロータリーの円形をぐるぐると周回している。すでに3周目。どこかで見たようなと思えば、あれはきっと「大きな犬が散歩ルートを覚えた状態」に近い。


「なんでこんな場所に出る……よりによって駅前……」


「考えるだけムダっすよ。たぶん、舗装の匂いが好きとか、そんな理由だ」


 技術担当の大村がうんざりしたように言った。


「周囲のビルガラスはまだ無事。やるなら、今のうちに」


「了解。まずは動きを止める。大型車両で進路封鎖、タイヤストッパーで囲む。車道誘導班は外周に回って」


「誘導車両は西口へ。迂回ルート確保済みです」


 すでに連携は完璧だ。防衛課と交通管理課、警察の連携でバウラの動線は限定され、包囲されていく。


 問題は――こいつの“突進癖”。


「斉藤、正面に立つなよ。あいつ、前方に動くと止まらんぞ」


「わかってます!」


 だが次の瞬間、バウラが突如方向転換し、南口バス停の方へ突進を始めた。


「まずい、あそこには……!」


 大型バスが停車している。まだ乗客が一部残っていた。


「急行停止指令! 発煙弾!」


 斉藤が腰のホルダーから発煙筒を取り出し、進行方向に向けて投げる。白い煙が広がり、バウラの目を遮った。


 その瞬間――バウラが足を止めた。


「止まった……?」


「煙に弱い? 視界が遮られると、行動を中断する?」


「可能性あり。つまり、こいつ“まっすぐ歩くしかできないタイプ”だ」


「じゃあ、目隠しして閉じ込めれば……!」



 視界を遮断するため、防衛課は市の舞台備品庫から“黒幕”を持ち出し、ロータリー全体をぐるりと囲う。

 舞台用の遮光シートでバウラの視界を塞ぐと、やつはじっと止まり、動かなくなった。


 ……しばらくして、音もなく、その場に崩れ落ちた。


「体温低下。活動終了と判断」


「え、あれで?」


「突進による興奮状態が維持できなかった。言ってみれば……子どもが遊んでて、急に電池切れた感じです」


 真壁の冷静な口調に、俺はようやく息を吐いた。


「駅前で突進型とか、悪夢だぞ……」


「でも、ガラス割られなかっただけマシじゃないですか?」


「それは確かに」



 午後2時、駅前ロータリーの復旧作業が始まった。タクシー乗り場は仮設に、破損した花壇は市緑化課の手で修復予定。市民への公表は「野生動物によるトラブル」として処理。


「また報告書、盛りだくさんだな……」


 事務所に戻った俺は、ぐったりと椅子に沈む。

 斉藤がコンビニのカフェオレを差し出しながら言った。


「でも、たまにはこういう“シンプルに暴れる系”のほうが、分かりやすくていいっすね」


「……もう少し、分かりやすくない暴れ方をしてほしいけどな」


 窓の外では、静かな土曜の午後が戻っていた。

 だが――交番のパトカーが、また何かを追って出動する音がした。


「……まさか、続きってことはないよな?」


 俺はカフェオレを一気に飲み干した。

拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。

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