69話 歩道橋の静寂
「今朝から通学路の歩道橋が揺れるって通報が来てる。橋脚も異常に熱を持ってるそうだ」
西条係長が出勤してきた5人を集めて言った。
「地震じゃないんですか?」斉藤が聞く。
「震度はゼロ。しかもピンポイント。歩道橋だけが揺れてる」
「怪獣反応?」芦田がタブレットをのぞき込む。「……反応あり。微弱ですが、熱源が地中に存在しています。おそらく固定型です」
「地中に埋まってる怪獣ってことか……これはまた厄介ね」小野寺が眉をひそめた。
「現場に行って確認しよう。通学の時間帯に動くようなら早急に対処が必要だ」真壁が背中に装備を背負う。
現場に到着すると、歩道橋のたもとにすでに警察がテープを張っていた。近隣の小学校では集団登校の引率教師が保護者と何か話している。
「防衛課の者です。地下に熱源がある可能性があるため調査に入ります」西条が警官に声をかける。
「こちらでも応援します。最近ずっと橋脚から奇妙な音がするって苦情が入ってたんです」警官は緊張の面持ちだった。
「これ、歩道橋の構造図」芦田が市のインフラデータベースから抜き出した図面を全員に送る。
「地中には基礎杭が数本打ってあるな……問題はその杭の周囲。熱源は直下、つまり杭の根本付近に存在してる」真壁が解説する。
「よし、現地地下をサーモで照射してみる。芦田、地熱センサー」
西条の指示に、芦田がタブレットを操作し始めた。
地中の熱源は徐々に移動を始めていた。杭の周囲をくるくると回るような、不気味な動き。
「これ……螺旋運動?まるで杭に巻きついてるような……」芦田がつぶやく。
「杭を削ってる可能性があるわ。下手すると倒壊する」小野寺が鋭く言う。
「仮称“バインドラ”。土中巻きつき型の静音怪獣だな」斉藤が適当につける。
「ネーミングセンスはともかく、時間がない。杭の補強と同時に、怪獣の動きを封じ込める必要がある」西条の声がやや厳しくなる。
「杭の下に薬剤を流し込んで反応を促す。構造破壊を防ぎつつ、熱源を一定位置に固定する。そこを狙う」真壁が手早く装備を準備する。
作業は迅速だった。
地中に穴を掘り、特殊な耐震薬剤を注入。
芦田が熱源の動きを監視し、真壁が薬剤の流れを調整する。
「反応開始……温度上昇、そして停止!」芦田が叫ぶ。
「今だ!」西条の指示で、真壁が杭の中心に向けて貫通弾を打ち込んだ。
爆裂音とともに地中から黒い液体が噴き出す。バインドラの体液だった。
「ヒット確認!活動停止!」小野寺が叫ぶ。
歩道橋はわずかに軋んだが、倒壊には至らなかった。
「杭の根本に自分の体を巻きつけて……支柱ごと侵食するタイプ。狙いが地味に陰湿だな」斉藤が冷や汗を拭う。
「でもそれが逆に静かに拡がるから厄介なんだよね」小野寺が同意する。
封印後、現場の歩道橋は閉鎖の上で補強工事に入った。市役所の土木課と合同対応となる。
「怪獣の残骸は地下から吸引。杭と巻きつき部を解体して運搬する必要があります」芦田がメモを取りながら言った。
「こういう目立たないタイプが一番怖い。インフラに擬態されると、事故との区別がつかん」西条が低くつぶやく。
「いやぁ、でもなんとか間に合ってよかったよ。あのまま登校時間になってたら大惨事だった」斉藤がホッと息をつく。
「ところでさ……このバインドラ、もし地下鉄の支柱にでも張りついてたらと思うと……」小野寺が言いかけて、皆が同時に黙った。
「……その前に気づけるよう、監視強化だな」
真壁の一言に、全員がうなずいた。
拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。




