68話 地響きの記録
「中央通りの地下で異音?また地盤沈下か?」
斉藤がモニターをのぞき込みながらつぶやいた。
「いえ……異常震動です。地震とは別の周波数で継続的に振動が記録されています」
芦田が真顔で補足した。
「継続してるのが気になりますね。どのくらいの範囲?」小野寺が尋ねる。
「直径約150メートル圏内。特定の地下空間から周期的に地響きが……」
芦田の声に、西条が椅子から立ち上がった。
「それ、下水道か地下通路か……行くぞ。現場調査だ」
現地は、市の中心街にある「中央地下連絡道」だった。バスターミナルと駅ビルを結ぶ長い通路の真下。
「人通りも多い場所だ。崩落が起きたら大惨事だぞ」真壁が鋭く言った。
「今日の午前中、震動で地面が1センチ沈んだらしい。地下の舗装にヒビも入ってるってさ」斉藤がスマホを見ながら答える。
「警察が封鎖に入ってます。地下の各区画の排気も停止済み」小野寺が整理をつける。
「地下で怪獣がうごめいてるとしたら、放置はできん」西条はすでに防災ベストに着替えながら、階段を降りていく。
連絡道の地下に到達した防衛課メンバーの前に、重たい空気が広がっていた。
「……妙に湿ってる。空気が澱んでるな」真壁がマスクを装着する。
「地熱と怪獣由来の揮発成分かも」芦田が携帯検知器で熱分布をチェックする。
「なんかこう……嫌な音がしない?」斉藤が耳をすませた瞬間、地面がわずかに揺れた。
「今のだ!」芦田が即座に指差したのは、連絡道脇の古い配管から続く通気口だった。
ごうん、という鈍い音。次の瞬間、通気口の奥から巨大な触腕のようなものが、にゅるりと現れた。
「接触体、確認!怪獣出現!」小野寺が叫ぶ。
「地中潜行型か……仮称“クネリオ”でいいな」西条が短く判断を下す。
クネリオは、巨大なミミズに似た姿をしていた。体長10メートル以上、直径は1メートル近くある。
「熱センサーによると、頭部は高温、尻尾は冷却傾向。熱を媒介して動くタイプかも」芦田が指示を出す。
「地面を削って逃げようとしてるな。ここで逃がしたら、地盤そのものが崩れる!」斉藤が叫ぶ。
「真壁、圧着爆薬と誘導針用意しろ。封鎖して誘導する」
「了解。目標、地下通路の中央に誘導」真壁が無表情で動き出す。
「逃げ道、封じました!いけます!」小野寺の報告と同時に、真壁の撃った針がクネリオの熱源部に刺さる。
「動きが鈍った……!いまだ!」
斉藤が第二の誘導弾を投げ込み、怪獣の進路を制限する。
「このまま逃がさず、崩落地点まで封じる!」西条の指示が飛ぶ。
芦田はタブレットで連動した麻痺装置を起動。クネリオの体表にピリピリとした火花が走る。
やがて、クネリオはうねるように体を揺らしながら、その場に沈んでいった。
作戦完了後、現場に冷気が満ちた。
「麻痺成功。生体反応、ほぼ停止。仮封印状態です」芦田が静かに報告する。
「搬送が可能か調査を進めておきます。地下施設の再点検も要請します」小野寺がチェックリストを確認。
「……ちょっと動きが気持ち悪すぎたな、今回の」斉藤が首を振る。
「でも、都市下層部でこういうのがうごめいてると思うと……」小野寺がぽつりとつぶやいた。
西条は、静かな地下の空間を見回しながら言った。
「怪獣は地上だけの脅威じゃない。こういうのが増えないことを祈る」
その声は、密閉された地下の空気にゆっくりと吸い込まれていった。
拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。




