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65話 光点は語らず

「課内連絡。昨夜、市内北部で“空に浮かぶ光”の目撃報告が多数寄せられました」


午前8時、防衛課の会議室では芦田がタブレットを操作しながら説明していた。

「同じ時間帯に送電系統の一時的な低下、気象レーダーへの干渉、野鳥の飛行異常などが記録されています。

特に、上空に滞空する不明光源の目撃が100件を超えました」


「気球かドローンじゃないのか?」


斉藤が言う。


「それにしては発光が強すぎる。移動速度が一定せず、数値的にも……あれは“浮かんでる”んじゃなく、“そこにいる”」


「つまり、光ってるけど物体……ってことか」


西条がまとめるように言った。


「今も出ている?」


「はい。日の出直前の時間帯に最も明るくなります。今夜も確認の予定」


午後11時。防衛課の観測班は市北部の高台へと車を走らせていた。

空は晴れており、無数の星が瞬いていた──その中に、“星とは違うもの”があった。


「……あれだ」


芦田が指をさす。

星より少しだけ大きく、瞬かず、位置が少しずつ変化している光点。


「ズーム倍率……光源直径、約5メートル。高度600メートル。赤外線反応、弱いが生体パターンに近い」


仮称:「ルミュエール」。

高高度浮遊型怪獣。

夜間に空中で滞空し、周囲の磁場や通信網に微細な干渉を起こす。

発光するが自らの姿を明確には見せず、接近・干渉に反応し姿勢を変える。


「対話的な反応は……ありません。無言で浮いてるだけです」


「だが“何か”やってる。磁場が乱れてる。これが続けば、航空・通信に大きな支障が出る」


「地上の生活には支障があるのに、空のやつは何も言わない……」


真壁の言葉に、芦田が呟く。


「それが“怪獣”の怖さなんです。悪意もなければ、善意もない。ただ、いるだけ」


作戦は、「指定周波数による反射波干渉を使い、“居場所”を攪乱して高度を下げさせる」こと。

通信防衛課の協力で、旧気象研究施設の大型送信アンテナを使用することになった。


「上空300メートル以内に落とせれば、電磁遮蔽フィールドで捕捉できます」


「夜が明ける前に終わらせろ。日の出後は“星”と見分けがつかなくなる」


午前3時20分。送信アンテナから指向性の高いパルス波が発射された。

同時に、ルミュエールの周囲に微弱な“ゆらぎ”が生まれる。


「反応あり……高度、降下開始」


「音は……なし」


「ずっと無言だな……」


斉藤が呟いたとき、ルミュエールの発光がふっと消えた。


「……?」


だが、センサー上にはまだ反応がある。

可視光だけが途切れ、姿を“隠した”だけだ。


「捕捉範囲内、遮蔽フィールド展開!」


高度280メートル。防御網に捉えられた光なき怪獣は、そのままゆっくりと収束されていった。


「……沈静化、完了」


午前5時、戻る車の中で芦田が呟いた。


「……話しかけても、何も返ってこなかったですね」


「そもそも、こっちが言葉を持ってると思ってないのかもな」


斉藤がつぶやく。


「街に落ちてきた星は、静かに眠っただけだ。

それ以上でも、それ以下でもない」


西条の言葉が、静かな夜明けの空に響いた。


誰もが見上げる“星”の一つが、もうそこにいないことを、人々は知らない。

拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。

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