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63話 屋上のかげろう

「課内連絡。市内の学校施設にて“熱だまり”の異常発生。温度計が故障したかのような読みに」


午前10時、防衛課のモニター室にアラートが届いた。

施設名は、市立北中学校。異常の検知場所は屋上。


「今、5月なのに、屋上温度が48度超えてます。風もあるのに、範囲が狭すぎる」


「……つまり、“発熱源”がいるってことか」


斉藤がタブレットを操作しながら口を開いた。


「映像あります。これです」


校舎の屋上、防球ネットの奥にある空調ユニット周辺で、空気が“揺れて”いた。

まるでそこだけ真夏の蜃気楼のように、空間がゆらゆらと波打っている。


「……何か、見えるな」


「熱波かと思いましたが、動きがあまりにも“意図的”です」


真壁の言葉に、誰もが頷いた。


「現地確認だ。施設課にも通知して、屋上封鎖してもらえ」


西条係長の指示で、一同は現場へ向かった。


市立北中学校の屋上。

日差しは強いが、通常の5月の気温。だがその一角だけ、空気が異様に“重い”。


「センサー反応、あり。範囲は直径約3メートル」


芦田が読み取った数値に、真壁が補足する。


「そこ……“空間密度”が高い。熱だけじゃない。何か、圧縮されてる」


そのとき、フェンス際の空間が、ひゅっと縦に揺れた。

そして、ぼやけたままの“何か”が姿を現す。


仮称:「ケイローレ」。

光熱屈折型怪獣。

空気中の温度差を利用して光を曲げ、周囲の視覚と熱感知をかく乱する。

通常は発見困難だが、高熱を放ちすぎると自律性を失い姿を現す。


「発見と同時に、校内の空調に影響が……温度が急上昇中!」


「校舎内へ熱が回り始めてる!」


斉藤が声を上げる。


「今のうちに、校舎に降りられたら被害が拡大する。ここで止めるぞ」


作戦は、ケイローレを“見える形”に変化させ、捕獲ネットで拘束すること。

ただし、周囲に人がいるため、極端な冷却・焼却処置は避けねばならない。


「紫外線照射器、持ってきてます。屈折の位相が見えれば、動きが読めるかも」


芦田が装置を展開する。


「照射範囲、5メートル。熱感知にバイアスかけて、像を浮かび上がらせる!」


フェンス側の空気がバチバチと音を立て、そこにようやく“輪郭”が現れた。

ケイローレは蛇のように細長く、くねくねと空中を泳ぐように移動していた。


「今だ、ネット投下!」


斉藤が合図し、空気中に展開された捕獲ネットがケイローレを包み込む。

一瞬、蒸気のようなものが舞い上がり、音もなく熱波が静まった。


「……沈静化、完了です」


午後2時。防衛課に戻った一同は、冷えた麦茶を飲みながら書類作業に追われていた。


「見えないって、やっぱり厄介だな」


「熱と光が相手じゃ、目と感覚が頼りにならん」


「それでも、痕跡があれば気づける。そういう目を持つのが、俺たちだ」


西条が呟いた言葉に、皆がうなずいた。


見えなくても、存在する脅威。

だが、そこに確かに“いた”のだ。

拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。

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