61話 路地裏のたんこぶ
防衛課に、珍しく清掃課の職員が駆け込んできた。
「すみません! すっごい変な“コブ”が……動いてるんです、路地裏で!」
「……コブ?」
小野寺が聞き返すと、男は真剣な顔でうなずいた。
「はい。ゴミ集積所の壁に出来てる“膨らみ”みたいなやつで、朝からじわじわ移動してるんです。で、なんか……うなってるような音も……」
「それ、普通じゃないな」
真壁がすぐにモニターで現場周辺の監視カメラ映像を探しはじめる。
そこには、確かにゴミ集積所の脇に膨らんだ“こぶ”のようなものが映っていた。
膨張・収縮を繰り返しており、内部には不明な陰影が確認できた。
「……呼吸してる?」
「おそらく、構造物に寄生・融合するタイプかと」
「現地確認。移動班、出るぞ」
西条係長の声で、即座に現場へ向かう体制が整えられた。
現場は、商店街の裏通りにあるごみ収集所。
コンクリ壁の一部が不自然に盛り上がっており、確かに“うねるような”低音が響いていた。
「生命反応、あり」
芦田がセンサーを確認する。
「でも、生物というより……腫瘍に近い動き」
そのとき、小さく“プシュ”という音がして、壁の膨らみの一部から透明な液体が漏れ出した。
「体液……しかも腐食性!」
コンクリが音を立てて溶け始める。
仮称:「バルギノマ」。
構造物寄生型怪獣。
無機物と結合し“ふくらみ”として潜伏、内部から分泌液を放出し都市構造を腐蝕させる。
成長後は自重で崩壊・拡散するため、初期段階での対処が必須。
「やばい、このままだと壁どころか建物ごとやられる!」
「物理的な除去は無理。外殻が構造材と一体化してる」
「なら、中身だけ狙うしかない」
作戦は、「局所冷却によって活動を鈍らせ、内圧で自己破裂させる」もの。
ただし失敗すれば構造物全体を破壊するリスクもある。
「ドローンで中空部を狙える位置に冷却弾を設置します」
芦田がタブレットでドローンの経路を描きながら言う。
「射出カウント、3、2、1……発射」
冷却弾が内部に達した瞬間、“ぷしゅううっ!”という破裂音が鳴り響き、
バルギノマの中心が“しぼむ”ように萎んでいった。
液体は止まり、構造物との融合も解けていく。
「生体反応……ゼロ。封じ込め完了」
斉藤が宣言した。
市役所に戻ると、清掃課の職員が頭を下げてきた。
「ほんと助かりました……もし放置してたら、アパートの壁全部ダメになるところでした……」
「異常があったら、またすぐ連絡ください。こういうの、早期対応が命です」
芦田が笑顔で言うと、相手はホッとした表情を浮かべた。
「……にしても、“たんこぶが暴れる”なんて、聞いたことないよね」
小野寺がぽつりと漏らす。
「街ってのは、こういう“ちょっと変”の中に、でかい危険が潜んでるのさ」
斉藤が言い、西条が締めくくった。
「だからこそ、日々の“異変”に耳を澄ませ。
派手じゃなくても、確かに守ってるんだ。俺たちは」
誰かが気づかなければ、ただの“たんこぶ”として処理されていたかもしれない。
その膨らみの裏に、都市を喰うものがいたとしても。
拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。




