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59話 地下道を走る影

午後3時、防衛課の内線が鳴った。

相手は都市整備課。内容は「中央地下道でのドローン消失」だった。


「点検用の自動走行機が、北東分岐で突如通信断。現場の気圧も一時的に乱れていました」


現場となった地下道は、上下水道や電気ケーブルなど、都市機能の根幹が通る重要な区域。

そこに異常が起きたとなれば、被害は市内全域に及ぶ可能性がある。


「動画、残ってますか?」


芦田が尋ねると、整備課の職員はタブレットを差し出した。

最後のフレームに、ドローンの視界を一瞬よぎった黒い円形の影が映っていた。


「……何か、転がってませんか、これ?」


「回転してるな。ホイールみたいな……“車輪”か?」


斉藤が呟く。


西条係長が口を開いた。


「現地確認。念のため、市の下水課にも応援を依頼しておけ。万一流入したら、捕捉困難になる」



現場となった中央地下道は、コンクリートむき出しの無機質な空間だった。

人工照明の明滅がわずかに辺りを照らし、湿った空気に足音が反響する。


「ドローンの消失地点、ここです」


芦田がモニターを指差す。


「気温……低下中。空気の流れが一方向に偏ってます」


「……来るぞ」


西条の声とほぼ同時に、それは現れた。


地下道の奥から、ゴウン……ゴウン……という地響きと共に、巨大な車輪状の生物が姿を現す。


直径およそ2メートル、中心に核のような構造があり、左右に回転用の節が伸びている。

回転しながら高速で突進し、その外皮は硬質な樹脂と筋肉の混合体。


仮称:「グルンター」。

地下道高速移動型怪獣。

人工構造物内での活動に特化しており、機械音を模倣して潜伏、追跡を困難にする擬態性を持つ。


「速度、時速約60キロ!」


真壁が叫ぶ。


「排水本管に接触されたら、流域全体に拡散するぞ!」


小野寺が地図を広げ、通路の構造を指差す。


「ここ、“圧力遮断弁”を使えば封鎖できる。時間稼ぎが必要だけど」



作戦は、「対象を誘導し、指定区域で弁を作動させて閉じ込める」というもの。


「弁設置チーム、急行! 芦田、誘導ルートの変圧マップ頼む!」


「はい、ルート上の換気ファンを逆回転にすれば、気流でルアーになります!」


グルンターが接近する中、防衛課は即席の誘導システムを組み上げる。


「誘導開始……反応あり、グルンターが進路変更!」


点検通路を軋ませながら、グルンターが突進してくる。


「遮断ポイントまであと30メートル……20……10……!」


「スイッチオン!」


遮断弁が作動、鋼鉄の扉がトンネルを封じる。


グルンターは回避しようとブレーキをかけたが、質量と慣性に抗えず、凄まじい音を立てて扉に激突した。


「捕獲網投入!」


重装ネットが通風孔から発射され、動けなくなった怪獣の動きを封じた。


「……封じ込め完了!」


斉藤が息をついた。



市役所に戻る車内で、芦田が静かに言った。


「車の音って、いつも聞いてるはずなのに……今日はずっと不安でした」


「音に“まぎれる”ってのはな。姿を見せない連中の常套手段だ」


真壁が窓の外を見ながら答える。


「でも、聞き逃さなかった。だから止められた」


西条が短く言う。


「静かに忍び寄るやつほど……最も暴れやすい。だが我々がいる限り、この地下は“沈黙”させない」


車は地上へと戻り、柔らかな夕陽に包まれていった。

拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。

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