57話 まちの灯を守れ
夕方、商業課の職員から防衛課に内線が入った。
「本町通りのアーケードで……街灯が、勝手に“点滅”してるんです。どうやら、全部です」
斉藤が受話器を肩で挟んだまま、口をとがらせる。
「一斉点滅? 電気系統の誤作動か?」
「いえ、設備保守の電気業者が調べたら、配線は異常なし。ただ……光源の“奥”が妙に熱を持ってるって」
西条係長が立ち上がる。
「妙な光と熱、両方を出すなら……“発光型の怪獣”の可能性がある。現地確認するぞ」
日が落ちかけた午後6時、防衛課の面々は現場のアーケード街に到着した。
普段は買い物客でにぎわう通りだが、この日は異様に静まり返っている。
「……全部、点滅してますね。規則正しくじゃなくて、バラバラ。しかも早すぎる」
真壁が観察用ゴーグルをかける。
「可視光だけじゃない。赤外線、紫外線……あらゆる波長で点滅してる」
芦田が言った。
「まるで、“何かを送信”してるみたい……」
そのとき、アーケードの天井にある街灯のひとつが、「パッ」と明滅した。
中から“ぬるり”と黒い影が這い出す。
「上だ!」
その黒影は、光源の内部に身を潜め、そこからまばゆい発光を行っていた。
仮称:「ルミネストロ」。
光共生型怪獣。
人工光を吸収し、それを「点滅信号」として外部に放出する。
信号の目的は不明だが、周囲の生物に“異常な神経興奮”を引き起こす可能性がある。
「これ、何かを呼んでる可能性ありますよ」
「もしくは、“群れ”の存在か」
西条は周囲を見渡す。
「アーケード街全体が“共鳴器”になってる。これ以上放っておくと、街ごと光で汚染される」
作戦は、「光源を遮断し、対象を光のない場所へ誘導・拘束する」というもの。
だが、アーケードの街灯は旧型で、個別に電源を切れない。
「逆に“異常な波長”を出せば、あっちから逃げるかも?」
芦田が提案する。
「ちょうどLED試験灯がある。波長設定を“逆位相”にすれば干渉できるかもしれない」
真壁が即座にセッティングを始めた。
「セット完了。3、2、1……点灯!」
街灯とは逆の紫緑色の光が放たれた瞬間、ルミネストロの体がビクッと震えた。
次の瞬間、影が光源から飛び出し、道路へと這い降りてくる。
「今だ、斉藤!」
「捕獲網、投下!」
網が光を乱反射する特殊繊維で織られており、ルミネストロの感覚をかく乱する。
一度捕まると、自ら発光をやめて大人しくなった。
「封じ込め、完了」
翌日。
「このまま回収して研究所送りですね」
芦田が報告書を書きながら呟く。
「光を“送る”怪獣って……通信してたんですかね」
「何かを探してたのかもな。仲間とか、親とか」
斉藤が言うと、小野寺はカップを置いて、
「でも、アーケードの灯りって、街の安心の象徴でしょ。
それを使われるのは、ちょっと嫌な感じ」
西条が静かに言った。
「だからこそ、守るんだ。我々の光を」
その言葉に、誰も返さなかった。
街の灯りがまた、穏やかに瞬いていた。
拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。




