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56話 塔の下に潜むもの

午前10時、防衛課に1本の連絡が入った。

市内中央にある旧電波塔、通称「中乃瀬タワー」の土台で、“謎の振動”が観測されたという。


「このところ、観測装置が微妙に揺れるんです。地震計と違う周期で、しかも決まった時間にだけ動く。夜中の2時です」


真壁が首をかしげる。


「人工振動って可能性は?」


「周辺施設の使用状況、調査済み。該当なしです。塔の真下、“地下基礎”から振動が起きてるらしい」


小野寺が手を挙げる。


「怪獣が“建物に棲みついてる”パターンは初じゃない? 塔の足元ってのもイヤな感じだし」


西条係長が短く言った。


「現地確認。芦田、今回も同行な」


「はいっ!」



中乃瀬タワーは、高さ約70メートルの旧型鉄塔。

現在は使われていないが、構造上は解体されずに市の管理下に置かれている。


現場に立った防衛課の面々は、塔の根元をじっと見つめた。


「なんか、鉄骨……濡れてません?」


斉藤が指差した部分には、うっすらと“湿った跡”があった。


「夜間にだけ活動してるってことは、光か熱を嫌うタイプか。

 夜行性、もしくは影に潜む種かもな」


真壁が塔の周囲を計測しながら言う。


「基礎の点検口がある。そこから地下に入れる」



点検口の先は、狭いコンクリートの通路。

湿気が強く、壁の一部には苔のような緑色の膜が貼りついている。


そして――


「いる……音がする!」


芦田が指差した先、通路の奥から、微かな“カチカチ”という音が聞こえてきた。


「警戒音……いや、足音か?」


ライトを当てた先に、何かがゆっくりと現れた。


球体の胴体に、無数の節足状の脚。

胴体は光沢のない“煤けた黒”で、表面は金属のように硬質。

まるで、巨大な蜘蛛とフナムシを足して2で割ったような、異様な姿だった。


仮称:「タワーノイド」。

鉄塔基礎寄生型怪獣。

金属振動を感知して活動し、構造物の隙間を移動しながら“塔に同化”しようとする性質を持つ。


「おい、動き始めた!」


タワーノイドは素早く通路を駆け、鉄骨の隙間をすり抜けて地上へ向かっていく。


「まずい、塔に登られる!」



タワーノイドの最大の武器は、“塔と同化することで姿を隠せる”点にあった。

外部から見れば、まるで鉄骨の一部。だが実際は“中で蠢いている”。


「構造物と共鳴するタイプだ。高周波で塔ごと共振させて、奴の居場所をあぶり出す」


真壁の提案で、旧塔に非常用の音響システムが取り付けられた。


「周波数セット完了。反応……出た!」


塔の上部、避雷針付近が振動していた。

タワーノイドはそこに身を寄せ、鉄骨に偽装していたのだ。


「塔の構造上、物理的な攻撃は難しい。なら――」


斉藤がスピーカーにもう一つの音波装置を接続する。


「塔全体に“嫌な音”を流すぞ。あれが耐えられなくなるような」


ピー……


耳を塞ぎたくなるような高周波が、塔全体に走る。


そして数秒後、避雷針の真下から黒い影が塔から飛び出した。


「今だ、捕獲網投下!」


カーボン製ネットが影を包み込み、地面に叩きつける。


もがく足音が消え、静寂が戻った。


「……封じ込め完了」



その夜、防衛課の庁舎で。


「今回は……いままでにないタイプでしたね。金属に“潜る”なんて」


芦田が疲れた顔で椅子に座り込む。


「地味だけど、ああいう奴が一番厄介なんだよ」


斉藤が言い、小野寺が続ける。


「見えないってことは、何にでも化けられるってことだからね」


西条がゆっくりとコーヒーを口にした。


「だが、我々が見つければ、“ただの鉄骨”には戻れない。

 そういう仕事だ」


庁舎の窓の外には、点検を終えた中乃瀬タワーが、静かにそびえていた。

拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。

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