表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/70

53話 茶畑の底に眠るもの

朝8時、防衛課に一本の連絡が入った。


「うちの茶畑に、でっかい穴が開いてまして……中が、なんか、動いてるような……」


通報者は郊外の茶農家。市内南部の丘陵地帯に広がる茶畑の一角に、直径6メートルほどの“陥没穴”が現れたという。


「穴の周りの地面が……ちょっと膨らんでる気がするんですよ。まるで下から息してるみたいで」


その言葉に、西条係長の表情が変わった。


「似てるな。以前の霞ヶ丘と」


真壁が端末で地図を開く。


「地質はあそこより柔らかいですね。粘土質で、水はけが悪い。ってことは、“地下で動いてるやつ”が上がってくるには最適」


斉藤が腕を組む。


「いっそ“地面ごと”飲み込んで出てきそうな予感がします」


「調査に出るぞ。念のため災害課にも連絡しておけ。今回は“地盤沈下”の顔もしてる」


西条の判断は早かった。


現地に到着したのは午前9時すぎ。丘陵に広がる茶畑の一角、整然と並ぶ茶の木の中に、ぽっかりと空いた黒い穴がひとつ。

周囲には波打つような土の盛り上がりが見える。


「……いますね。穴の中、熱感知に引っかかってます。地熱が不自然に高い」


真壁が機材越しに言う。


「動いてる。間違いない」


西条は地図を確認しながら指示を出す。


「想定よりも穴が浅い。浮上は時間の問題だ。斉藤、茶畑の所有者を避難させて。小野寺、北側の水路を閉じろ。流れ込むと、地下がもっと軟らかくなる」


10分後、地面が鳴った。

「ギィ……ギィィィ……」

土の擦れる音が、静かな丘陵に響いた。


そして――その中心から異形の頭部が、突き破るように現れる。


仮称:「チャコラマンダ」。

地中遊泳型の怪獣。

全長15メートル級。茶畑の地下を螺旋状に削りながら移動・呼吸し、地熱で地盤を軟化させて“溶かして喰らう”。


最大の特徴は、茶褐色の繊維質に覆われた体表。遠目には土の塊にしか見えない。


「……あれ全部、体じゃないか?」


斉藤の言葉に、全員が一歩後退する。


「今、完全に浮上する。体を“乾かす”ために出てくる。冷却に弱いはずだ」


西条は即断した。


「スプリンクラー装備、東側から回せ。農業用水路を活用する。冷却ミストを噴射して、活動を鈍らせる」


使用されたのは、高圧ミスト冷却システム。

農業用スプリンクラーを拡張し、茶畑全体に霧状の水を噴射する。


「よし、照準よし。真壁、出力最大!」


ミストが吹き出す。チャコラマンダの体表は湿気で縮み、動きが鈍くなる。

繊維質が水分を吸って、逆に表皮が固まっていく。


「動きが鈍い!」


「いまだ! 捕獲ネット投下!」


空から投下されたカーボン製のネットが、うねる背中を包む。周囲から杭を打ち込み、固定。

怪獣がもがいて茶の木を1本なぎ倒したが、それ以上の反撃はなかった。


「……封じ込め完了!」


午後1時、すべての装備が撤収された。


「畑の損壊範囲は約8メートル四方。所有者の方には復旧補助が出るだろう」


西条が端末を操作しながら言う。


斉藤は畑の外れで空を見上げる。


「怪獣って、なんでこんな平和な場所ばっか選ぶんですかね」


真壁がスコップを手に笑った。


「静かだから、“生き物の声”が聞こえるんじゃないか? 俺らには聞こえなくても」


小野寺は湿った土を見て、ぽつり。


「土の下に眠ってた怪獣って、なんだか少し、哀しいね」


「哀しんでる暇はないぞ。次、田んぼだ」


西条の一言で、全員の顔が軽くひきつった。


午後の陽射しが、濡れた茶の葉にきらめいていた。

拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ