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51話 空き地にて、溶ける怪獣

「なんか、ぬるぬるしてるんですよ。朝の散歩のときに犬が騒いで……あの空き地だけ、変にぬるっとしてて」


通報者は近所に住む男性。市内北部の住宅街にある小さな空き地で、地面がぬめっていると訴えてきた。

最初は悪質な不法投棄かとも思われたが、清掃局の職員が撤収して数時間後――


「ぬめりが“元に戻ってた”そうです」


その報告を聞いて、小野寺が眉をひそめた。


「それって……“ぬめり”が自己再生してるってこと?」


西条係長は、無言で図面を見ながらうなずいた。


「放置できる話じゃない。調査に行く。小規模でも、動くものなら怪獣の可能性がある」


斉藤、真壁、小野寺、西条。おなじみのメンバーで、現場へと向かった。


問題の空き地は、民家に囲まれた袋小路の先にあった。

柵などもなく、子どもたちがよく遊んでいたという場所だ。


が、その中心部――

直径2メートルほどの範囲で、土が「ゼリー状」に見える。

しかも、その中心から淡い湯気のようなものが立っていた。


「これは……泥じゃない。微生物の密集? いや、動いてる。内側から」


真壁が検査器をかざす。


「中心部、35.2度。周囲より明らかに高温……外気は18度なのに。

 それに、わずかに“蒸発”してる。地面の一部が、気化してるような挙動だ」


斉藤が現場テープを張りながら呟く。


「つまりこれ、“地面が怪獣”ってことですかね?」


西条がうなずいた。


「仮称:メルドローム。低温型自己溶解獣。

 気体状になることで移動範囲を広げ、時間とともに質量を“再構築”する。

 この空き地を母体にして、近隣の土地へ拡大する可能性がある」


「まずいですね。放っておけば住宅地が飲み込まれますよ」


小野寺の声に、全員が表情を引き締めた。


我々が選んだ対策は、“蒸発封じ”。

本体を冷却し、気化できないようにして動きを封じる作戦だ。


「ただし、急冷はNG。内部構造が暴れて噴出する可能性がある」

真壁が冷却剤の成分と分量を調整する。


「緩やかに、じっくり冷ます感じですね」

斉藤は温度センサーを準備する。


「気温上昇も要注意。日が高くなる前に終わらせよう」


西条の判断で、現場には大型の日よけシートと仮設冷風機が設置された。


冷却剤の散布は慎重に始まった。


地面から上がる蒸気がゆっくりと減っていく。

ゼリー状だった部分も、次第に“濃縮されたゼラチン”のように粘性を増す。


「変化あり。中心部の密度が上昇。活動停止の兆候あり」


真壁が声を上げる。


「このままいけそう……」


と、思った矢先。


「やばい、右側! 吸い込まれてる!」


斉藤の叫びに振り向くと、空き地の端に立っていたカラーコーンが、

“ゆっくりと地面に飲み込まれていた。”


「対象が“端から吸収”を始めてる!冷却が甘い!右側に冷風集中!」


西条の指示でドローン型冷風機が再配置され、冷却剤の噴射角度も変更された。


ようやく、吸収が止まる。


数分後。ゼリー状だった地面は、ただの湿った粘土のように“固まって”いた。


真壁が確認する。


「反応なし。蒸気の発生もゼロ。封じ込め成功……ですね」


市の特殊回収班が到着し、空き地の“粘土化した怪獣”を慎重に採取していく。

作業を見届けながら、斉藤が小さくため息をついた。


「今回は、なんか地味にヒヤヒヤしましたね……。目に見えないから余計に」


小野寺が続ける。


「住宅地って、目立たないぶん対処が難しい。被害出なくてよかった」


真壁は空き地の端に落ちたままのカラーコーンを拾いながら、ぽつり。


「“何も起きなかった”って思わせるのが、我々の仕事だからな……」


西条が、その言葉に頷いた。


「忘れられていい。怪獣のことも、防衛課のことも。

 ただ、次も“何も起きなかった”ように、やるだけだ」


空き地の上に、昼の日差しが降り注いでいた。

拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。

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