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48話 霞ヶ丘の巨影 ― 警告 ―

「最近、団地の地面が、わずかに“呼吸してる”気がするんです――」


朝9時ちょうど。

防衛課に届いた通報は、霞ヶ丘団地の自治会長からのものだった。

最初に聞いたときは、また比喩的な表現かと思った。だが、通話の向こうにいた女性の声は、真剣でどこか怯えていた。


「夜になると、床が……ごくごくわずかに上下するんです。最初は気のせいかと思ったけど、何軒も同じようなことを言い始めていて……」


西条係長はすぐに目配せし、斉藤・真壁・小野寺の3人と調査班を編成した。

霞ヶ丘団地は築40年を超える中層公営住宅で、いまでは空き部屋も多い。だが、その敷地下には都市計画の“凍結された地下連絡路”が埋まっている。


「過去に開発しかけて頓挫した地下空間、か……そこに何か潜んでいた可能性もゼロじゃないな」


西条が、地形図と空撮写真を照らし合わせながら呟いた。


現地に着いたのは午前10時15分。

団地内は静かで、ところどころに雑草が伸び、空気はどこか重たかった。

自治会長は、疲れた表情で案内してくれた。


「このあたりの棟で、一番動きが大きいみたいです」


測定器をセットした真壁が、しばらく地面を見つめてからぽつりと言った。


「……本当に動いてる。たった数ミリ、けど周期的に上下してる。これは地震じゃない、明らかに内部の“活動”だ」


「断続的な呼吸……地下に、大きな空洞があるような波形ね」

小野寺も冷静に頷く。


斉藤が建物の基礎をチェックしながら、指でコンクリの継ぎ目をなぞった。


「うーん……すでにヘアクラックがいくつか入ってるな。建物がわずかに“浮かされてる”可能性もあるぞ」


仮称すら与えられていない“存在”に、我々はまだ確信を持てなかった。

が、それでも状況は通常ではない。


西条が静かに言った。


「一度、地下空間の全域スキャンをかけろ。あと、付近の配管・送電・ガスルートもすべてチェック対象に入れる」


「……いつものパターンと違う、ってことですね?」


「そうだ。おそらく、これは“出現前”の段階。

 だが、いつ出てくるかわからない。慎重すぎるくらいがちょうどいい」


その口調に、現場全員が背筋を伸ばした。


午後2時24分。

団地南東端の古井戸跡に設置した音響センサーが、低周波ノイズを検出。


それは、鼓膜ではなく骨に響くような“うねり”だった。


「……聞こえるか? 何かが、下で鳴いてる」


真壁がそう言った瞬間、団地の最古棟・2号棟の地面がわずかに隆起した。


「地面、膨らんでる! 一時退避!」


住人をすぐに避難させ、周囲を封鎖する。が、地面は沈静化。怪獣は現れなかった。


「まだ“殻の中”にいる……」


誰かがそう呟いた。


その夜、防衛課では緊急会議が開かれた。

これまでにない規模と“潜伏時間の長さ”を持った対象に、どう対処するか。

対応指針は絞られたが、結論はこうだった。


「今はまだ、準備の段階。だが、これは明らかに“来る”怪獣だ」

「出てから対応するのでは遅い。最初の一手で制圧するための戦略が必要だ」


部屋の空気は重く、誰も冗談を言わなかった。

ただ全員が、それぞれの担当で夜遅くまで動いていた。


明日、もしかしたら“最初で最後のチャンス”が訪れるかもしれない――。

拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。

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