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47話 風に流れるもの

昼休みを目前に控えた11時47分、防衛課の電話が鳴った。


「駅前ロータリーに、“風が逆に吹いている場所”があるんですけど……」


最初は意味がわからなかった。が、通報者は複数。駅員、交番、近隣のカフェ店主まで、みな「その場所だけ風の流れが逆」と証言していた。


小野寺が呟いた。


「“風が逆”…上昇気流じゃなくて、風が吸い込まれてる?」


私はすぐに真壁と斉藤を呼び出し、装備を車に積み込んだ。


駅前ロータリーは、昼時の人通りでやや混み合っていた。

歩道の角にあるバス停の背後で、風が不自然に吹き上がっていた。


それも、何もないのに紙袋が吸い込まれるように舞い上がる。


斉藤がセンサーを展開しながら眉をひそめた。


「空気密度の異常、あり……。軽くですが、“微小な上昇渦”が局地的に形成されてます。中心は、あの換気塔の真上……」


「地中……だな」


小野寺が、駅下の配管図を開く。


「ここ、旧地下駐車場の換気用シャフトが残ってる。使われてないはずなのに、空気が出てきてる」


仮称:「トビモグラ」。

地中・気流混合型突進獣。

地下空間を広範囲に“掘り進みながら”、頭部の気嚢で空気を吸引・圧縮・放出する特性を持つ。

地上に近づくと、地下構造を圧壊し、“空気圧で人を吸い込む”事故につながる。


「……対象は、下から出てくる。いつ、どこからとは限らない」


真壁が装備ケースを開いた。


「局地音波誘導を使って、“安全な出口”を作りましょう。

 勝手に地上に出てこられては、被害が予測できません」


午後1時07分。

私たちは駅前のロータリーから50mほど離れた空き地に、“音波誘導装置”と“模擬換気塔”を設置した。

地中では、トビモグラが音に引き寄せられて移動を始めていた。


「来るぞ……」


斉藤がカウントを読み上げる。


「……7、6、5、4……上がってくる!」


地面が盛り上がり、空気の振動が強くなる。

直後、模擬換気塔の下から灰褐色の肉塊がドンと地表に現れた。


対象は全長6メートル。

柔らかい皮膚でおおわれ、無数のひれのような構造が風を撒いていた。

が、誘導は完了している。


「囲って!」


私は一声で作業班を呼び込み、あらかじめ用意していた“弾性ドーム”を一気にかぶせた。

対象は一度跳ね上がったが、ドーム内部の空気圧と逆流抑制バルブに阻まれ、“風を作る力”を使えず失速した。


15分後、酸素濃度を調整して対象は失神。処理班が無事に運搬を完了した。


現場から戻る道すがら、斉藤が言った。


「けっこう地味な見た目でしたけど……吸い込まれたらシャレにならないですね」


小野寺がメモを見ながら頷く。


「歩道が崩れて巻き込まれたら、市としてもかなり大きな事故扱いになります。早めに誘導できて正解でした」


私はフロントガラス越しに、空を見上げながら言った。


「“風”ってのはな、見えないから怖いんだ。

 でも“風の流れ”を読めれば、ちゃんと止められる」


後部座席の真壁が静かに言った。


「西条係長……名言モードですね」


斉藤が笑いながら補足した。


「名言モード、たぶん週に2回くらい発動してる気がします」


私は笑いながら、アクセルを軽く踏んだ。

拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。

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