45話 小野寺、空を読む
私の名前は小野寺貴子。
市役所の防衛課で働いている。仕事は現場調査、構造物の危険度評価、時々怪獣対応。
要するに「大騒ぎが起きたときに、冷静に動く係」だ。
今日の現場は、郊外にある巨大ショッピングモール「ラ・ユニモール」。
開店前の駐車場で、警備員が“地面が波打った”と通報してきた。
「波打った……?」
おかしな表現だけど、怪獣がらみではよくあること。
防衛課では「市民の違和感」は信じることにしている。
午前9時21分。
現地は、まだ開店前とはいえ警備や搬入車でざわついていた。
斉藤さんと真壁さんが機材を持ってきて、西条係長は現地指揮。私は案内役の警備主任と一緒に、通報現場を調べ始めた。
「こちらです。5分前に私が立ってたあたりなんですが……うまく説明できなくて」
地面は見たところ何の変哲もないアスファルトだった。だが――
「……反射が違う」
私はすぐにしゃがみ込んだ。舗装の表面、わずかに隆起し、波のようなゆらぎが見える。
「斉藤さん、熱感センサー。真壁さん、地磁気の変動もチェックして」
西条係長が後ろから声をかけた。
「気づいたか?」
「ええ、これ……地面の中、何かが“うねってる”ように反応してます」
仮称:「ウネメグリ」。
地中低速遊泳型獣。
通常は地中30〜50cmの浅層を移動し、“駐車中の車体金属”に反応して寄生。
移動することで道路や駐車場の“平面構造”を波状に歪めていく。
「地盤そのものは無事ですが、表層の舗装が連鎖的に押し上げられてる。
このままだと、駐車中の車両が“埋まりかけて持ち上がる”可能性があります」
「つまり、駐車場全部が“跳ね上がるトランポリン”みたいになるってことですね……」
対応策は、構造的に最も不安定な一角に誘導し、封じ込めること。
私はモール全体の地盤データと施工図を確認した。
「南東端、旧拡張エリア。もともと建設予定地だった場所、未舗装ゾーンあり。
そこなら波打っても損害は最小限。かつ、地中に遮蔽物も少ない」
真壁さんがそこに“音波杭”を設置、斉藤が金属板を配置し、擬似的な車両反応を演出。
対象を“そちらが駐車場だ”と思わせて誘導する。
午前10時08分。
地面のうねりがじわりと南東へ移動を始めた。
それに合わせてアスファルトの表面が「ミシ、ミシ」と波のように浮き上がる。
「今です」
私の合図で、金属板をすべて一斉加熱。
ウネメグリが感知したのは“車体のエンジン熱”と誤認し、ついに未舗装エリアへ移動――
そこで地中に仕掛けた“自己固化材”が展開。対象の動きを物理的に封じ込めた。
「反応停止。対象、完全封鎖。
地表への隆起反応なし。対応完了です」
後処理のあと、警備主任が少し青い顔で話しかけてきた。
「……駐車場の下に、あんなものがいたんですね……。怖いですけど、誰もケガせずに済んで良かったです」
私は軽く会釈して答えた。
「怪獣は、“いきなり牙をむく”とは限りません。
でも静かに、確実に、日常を変えてしまう存在ですから」
斉藤さんが横から笑って言った。
「小野寺さんの口から“日常”って言葉が出ると、なんか説得力ありますよね」
真壁さんがぼそっとつぶやいた。
「それ、皮肉じゃなくて尊敬ですからね、念のため」
私は肩をすくめて笑った。
拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。




