44話 真壁、少しばかり想定外
俺は真壁聡。防衛課の技術系職員だ。
主に装備・センサー・誘導装置の調整を任されている。
感情を挟まず、最短で収束に導くのがモットーだ。……だった。
朝10時、防衛課に一本の通報が入った。
「給食センターの機械が、勝手に動き始めて止まらないんです!
揚げ物機が空っぽなのに“何か”を揚げ続けてるんです!」
意味がわからなかった。
だが、現地は市内24校に給食を供給する中核施設。もし異常が拡大すれば、衛生・物流・教育に影響必至。
「……了解。出動します」
斉藤と小野寺、西条係長も同行。俺は装備バッグに追加の温度計を突っ込んだ。
給食センターは鉄骨平屋の機械施設。
厨房に入ると、誰も触っていないフライヤーが、ジュウジュウと油を加熱していた。
「熱反応検知。異常な“空気加熱”が一点から広がってます」
俺は即座に赤外線スコープを展開。油面に映る、“透明な歪み”が浮かび上がる。
「仮称:クキリバ。局地加熱型微振動獣。
金属製の浅槽を棲処とし、“揚げる”動作に反応し繁殖熱を出す。
制御を誤ると、施設全体が“強制調理化”する危険あり」
「調理化……?」
「簡単に言えば、“施設そのものが調理器具”になって暴走します」
問題は、対象が油の表面に棲んでいるため直接攻撃ができないこと。
高温下の油槽では薬剤も機械も無効。つまり、“油から出させる”誘導が必要。
「理屈では、低温の方が苦手なはず。
なら、隣の未使用フライヤーに冷却用金属を投下し、あえて“冷たい餌場”を作る」
小野寺が聞いた。
「冷たい揚げ物って、つまり……?」
「凍らせたコロッケ。すでに食品安全基準も通ってる冷凍食材を利用します」
斉藤が苦笑した。
「怪獣相手に、餌がコロッケって……どんな自治体だよ」
午後1時17分。作戦開始。
未使用フライヤーに冷却コロッケが投入される。
温度差を感知したクキリバが、ゆっくりと熱源から移動を開始。
「来るぞ……熱波、横移動中」
その瞬間、俺のセンサーに“想定外”が映った。
もう一体、別方向の加熱反応。
「……個体が、2体いる。最初から複数棲みついていたんだ」
油槽が急激に沸騰。熱波が天井まで届く。
瞬時に対応を判断する必要があった。
「全換気ファン、最大出力。酸素を一時的に減らして、“加熱効果”を低下させる」
西条が即応。
斉藤が補助電源を切り替え、小野寺がサブ冷却槽を再稼働。
5分後、加熱反応は急低下。
「……鎮静確認。対象2体とも、熱源から離脱。排除完了」
対応終了後、センター職員が小さく呟いた。
「……それでは、明日も給食、出せますよね?」
斉藤が即答した。
「ええ。少し焦げくさいけど、いつもどおり提供できますよ」
俺は最後に、スコープを仕舞いながらふと思った。
(完璧に理屈通り、とはいかなかった。けど、それでも――)
「……ま、想定外ってのも、仕事のうちですよね」
そう言うと、斉藤と小野寺がふっと笑った。
「珍しいな、真壁さんが“感想”言うなんて」
俺は肩をすくめた。
「たまにはね。たまには」
拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。




