43話 斉藤、ちょっとだけ迷う
俺は斉藤勇吾。市役所の防衛課に所属してる。
よく「戦う公務員って何?」って聞かれるけど、説明するとだいたい怪訝な顔をされる。
俺たちは、そう――怪獣対応をやってる。
今日の舞台は、駅前の商業複合施設「AOYAGI CUBE」。
朝イチから施設管理会社の担当者に呼び出された。
「地下3階の機械室で、“何かが這いずる音”がしてるって、作業員が……」
またですか、と思いつつ、俺は苦笑しながらメモを取った。
音がする、何かいる、でも見えない――いつものパターンだ。
小野寺さんと真壁さんは機材の準備、西条係長は車を回している。
いつもどおりのチームワーク。けど今日はちょっと違う。
俺が現場リーダーに指名されてた。
「え、俺ですか? 真壁さんの方が経験も……」
「いや、たまにはお前がやれ。下見も済んでるし、現場指示の練習だ」
西条係長に軽く言われたが、内心はドキドキだった。
指示するのって、簡単そうで、実はすげえ難しい。
午前10時40分、現場入り。
地下3階の機械室は、配管が縦横に走るやや圧迫感のある空間。
ところどころに結露が浮かび、足元は滑りやすい。
「空気が変ですね。妙に乾燥してるというか……」
真壁がセンサーを確認した瞬間、天井付近の配管が“ガタリ”と動いた。
「いた!」
俺は反射的に声をあげた。視界の端、灰色の影が配管に沿って走る。
見えたのは一瞬。だが、その“鋭く尖ったしっぽ”が記憶に残った。
仮称:「クモハネ」。
狭隘環境高速徘徊獣。
排熱や電磁ノイズに引き寄せられ、構造物の隙間を伝って高速移動する。
“静電荷を蓄える能力”があり、電気設備の誤作動やショートを誘発する。
「このままだと、ビルの通信設備やセキュリティが全停止する可能性あり」
小野寺さんが落ち着いた声で言う。
頭では分かってる。でも、俺はちょっと迷ってた。
「(どうやって動かせばいい? どこに追い込めばいい?)」
一拍遅れて、俺は言った。
「……換気ダクトを使おう。通気音で誘導して、あいつを一方向に誘導。
最終的に電気室に閉じ込めて、通電させて自壊誘導」
作戦はシンプル。
電気に集まるなら、あえてそこへ誘う。そして逆に“過電流”を与え、対象を焼き切る。
「真壁さん、電気室のスパーク誘導装置、調整お願いします。
小野寺さん、ダクト誘導用の送風機を4系統使ってください」
自分で指示を出してるのが、不思議な感覚だった。
午後12時03分。
送風機が稼働し、機械室からダクトを通じて誘導音が響く。
3分後――「来ました!」
ダクト内部のセンサーが強い静電反応を示す。
そして、配電盤の前でバチバチと火花が跳ねた。
「いまだ!」
通電開始。
0.3秒後、対象の反応が一気に消失。
「……対応完了。対象、構造的崩壊確認。絶滅」
エレベーターで地上に戻る途中、小野寺さんがぽつり。
「良かったですよ、斉藤さん。
迷ってたの、分かってましたけど……最後は、ちゃんと進みましたね」
真壁さんも苦笑する。
俺は少し照れながら言った。
「……正直、最初は“俺じゃない方がいい”って思ってたんですよ。
でもまあ、やってみるもんですね」
地上に出たとき、昼の日差しがやけに眩しく感じた。
なんだか、少しだけ“仕事した感”があった。
拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。




