42話 午後2時、駅前スクランブル
午後2時04分、市役所の災害モニター室が騒然とした。
青柳駅前のスクランブル交差点。普段は人と車が行き交う中心部。
そのど真ん中で、信号機が次々に引き抜かれ、道路にたたきつけられる映像がライブ配信されていた。
「駅前、再確認! あれは――」
「……怪獣だ。間違いない」
カメラに映ったのは、四足歩行で大型トラックほどのサイズ、鋭利な突起が背中に並ぶ怪獣。
だが、特徴的だったのは――
まるで“地形を破壊すること”そのものを目的に動いているような無差別性だった。
「仮称:バンカガリ。都市構造物攪乱型。
金属反応に過剰反応し、都市部のインフラを執拗に破壊する習性。
特に交差点、信号、街灯、ガードレールなど“都市構造の象徴”を優先的に狙う傾向あり」
斉藤が呟く。
「……めちゃくちゃ目立ちたがり屋じゃん、こいつ」
現地周辺はすでに警察によって封鎖中。
だが問題は――この怪獣が、「市内随一の公共交通結節点」に現れたということだ。
西条は現場対応マップを広げた。
「このままでは南北の交通が完全に寸断される。
道路だけじゃない、地下道、駅ビル、電気系統、どれか一つでも倒れたら数万人規模に影響が出る」
対応はただ一つ。“破壊優先対象”を操作し、無人地帯に誘導すること。
午後2時42分、防衛課が現地入り。
作戦はこうだ:
駅前交差点の信号をすべて一時消灯。
別ルートの旧高架道路に、“金属パネルを装着したダミー街路灯”を設置。
バンカガリを“構造物の音と光”でおびき出す。
「金属の破壊音に興奮する性質。逆に言えば、それがなければ周囲の興味を失う」
真壁が持ち込んだ低周波振動装置が、旧高架上の鉄骨を叩く。
同時に、無人の高架道路にわざと“反射板”や“鉄パイプ”を並べた。
破壊したくなるような“エサ場”だ。
午後3時06分。
バンカガリが一瞬立ち止まり、耳のような突起をピクリと動かした。
「来る」
一同が見守る中、怪獣は駅前の信号を蹴り倒すと、そのまま高架方向へ方向転換。
「全車両、誘導開始。対象は無人地帯へ移動中!」
バンカガリが“高架構造の中核”に侵入した瞬間、防衛課は次の手を打った。
「フェーズ2開始。構造支柱に展開型ネット展張」
金属ネットを高架内部に放出。対象の足元を絡め取り、移動速度を強制的に落とす。
直後、建設局と連携して送電塔の一部ルートを切断、ネットへの通電を開始。
「痛みじゃなく、“進行方向の遮断”が目的。奴の進行を一時的に抑え込む」
バンカガリは短く叫ぶような声を上げ、暴れるが、行動は明らかに鈍くなった。
15分後、熱源反応と振動が低下――一時的な仮死状態に移行。
午後4時11分、対応完了。
構造物は部分的に損傷したが、交差点の地下インフラは無事。
バンカガリは重機で輸送後、山間部の地層型隔離施設に収容された。
西条が、交差点を見下ろす歩道橋の上で言う。
「“中心”ってのは守るのが難しい。便利な分、壊されやすい」
斉藤が答える。
「でも、そこに怪獣が来るってことは――俺たちが便利に暮らせてる証拠なんすよね」
真壁が小さく笑った。
「その暮らしが続くように、今日も地味な作戦で対処してるわけだ」
帰りの車の中、小野寺がぽつりと。
「たまには、怪獣じゃなくて、誰かに褒められたいですね……」
静かに笑いが起きた。
だが、誰も「それは無理だ」とは言わなかった。
拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。




