40話 掘り進めた先に、異常あり
午前10時12分、青柳南部インフラ整備課から防衛課宛に緊急連絡が入った。
「市道南環状3号線の拡幅トンネル工事で、掘削中の作業員が“奇妙な震動”を感じたと報告しています。
現場の機械が微振動で停止、再稼働も不可。岩盤に“生物らしき反応”があったとのことです」
西条は素早く地図を確認した。
「現場は地層の切れ目、“青柳断層”の近くだな。あそこは過去にも構造物の陥没があった。
万が一、怪獣由来の地中拠点があるとすれば、まずい場所だ」
小野寺と真壁は現地資料と振動解析装置を準備、斉藤は土木局との連携用に設計図面を携行して、防衛課は即座に現地へ向かった。
午前11時05分、現場着。
トンネル内は一時的に作業停止、重機も待機状態。現場責任者の土木局技師が汗を拭きながら出迎えた。
「すみませんね……誰かがいたってわけじゃないんですが、作業員が“下から音がする”って。
“グオォォ”って、重機音とは明らかに違う音が数秒」
「地盤沈下やメタンガスの可能性は?」
「測定値では異常なし。ただ、岩盤内の空洞が広がってるのは間違いない」
真壁が地中探査スキャンを起動し、振動のパターンを解析した。
「地中6.3メートル、楕円形の空洞反応あり。
中心部に断続的な熱源、約38度――生物反応の可能性があります」
仮称:「ヒビシェル」。
地中空洞潜伏型獣。
動的振動に誘発されて地中をゆっくり移動し、人工構造物を“地盤の揺らぎ”で弱体化させる。
体表は鉱物質、攻撃性は低いが、構造物の維持を妨げる厄介な存在。
「ヒビシェルが存在すると、トンネルの支保工や地山の応力バランスが崩れる。
結果、構造物の“計算通りの安全”が保証されなくなる」
「……それって、“崩れる”ってことですか?」
「即崩壊はないけど、“設計外の揺らぎ”が出始める。工事は全部中断になるな」
対応策は、「騒音+地圧変化」によって、ヒビシェルを地表とは逆方向へ“誘導脱出”させること。
防衛課は、トンネル掘削機の振動パターンを反転させた“拡散波”を使って、地中の生物反応を押し出すように設計した。
「重機のエンジンは使わず、振動波だけで行こう。
地下8メートル以上まで誘導できれば、あとは自然に深層へ戻っていく」
地上では、真壁が波形調整を担当、小野寺と斉藤が誘導ポイントの地盤強度を測定。
西条は、避難範囲の最終確認をしていた。
午後1時20分、誘導振動開始。
機械からは人の耳には聞こえない超低周波が断続的に放射される。
10分後、地中探査画面に“揺れ”の反応。
ヒビシェルが緩やかに南西方向の深部へ移動を開始。
「……動いた」
30分後、対象は地下15メートルまで沈降。空洞反応も収束。
トンネルの地盤評価は「再施工可能レベル」と判断された。
「……結局、誰も見てないんですよね、その“怪獣”って」
現場を後にしながら、斉藤がぼそっと言った。
「見えないものを“怪獣”って呼ぶのは、たぶん俺たちくらいだろうけど」
「でもな」
西条は、土木局の報告書にサインしながら言った。
「“現場の人間が見えた”と感じたものが、今こうして防がれてるなら――それが事実ってことだ」
真壁が苦笑する。
「なにそれ、どこかの哲学者みたいなこと言ってる」
「俺は市役所職員だよ。たまたま、目に見えない生き物の担当してるだけさ」
防衛課の4人は、いつもどおり、書類を鞄にしまって静かに車に乗った。
そのまま、何事もなかったように、別の現場へ向かった。
拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。




