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38話 広報課・宮沢、怪獣対応に同行する

「え、俺が行くんですか?」


広報課の宮沢みやざわ つばさ、入庁3年目。

やや軽口を叩くタイプだが、真面目に仕事はこなす。

今回、広報課に回ってきたのは、「市民だより」10月号の防衛課特集ページの取材だった。


「君、ちょうど来週スケジュール空いてたでしょ? 現場に同行して、写真撮ってきてよ。

“怪獣対応課”なんて名前、どうせ実態はたいしたことしてないんだから、気楽にね」


その“どうせ”が、後悔の始まりだった。


午前10時22分。

防衛課の車両に乗せられて、現場へ向かう宮沢。

対象は、旧市街地にある再開発予定のビルで発見された“異音”。


「“配管の奥から鳴き声のようなもの”がするって連絡でした。

 ただの配管劣化かもですが、一応確認に」


斉藤職員が明るく言う。助手席の小野寺は、淡々と図面を確認中。

後部では真壁が携帯機器で温度・音波センサーの調整中。

そして、運転席の西条は……無言で缶コーヒーを開けた。


「(なんだこの空気……営業課と全然違うぞ)」


宮沢はカメラをいじるふりをして誤魔化す。


現場のビルに着くと、すでに立ち入り禁止テープが張られていた。

中に入ると――聞こえる。間違いなく“声”だ。


それも、人間のような、赤ん坊のような――だが、何かが違う。


「仮称:アエギヌル。高音反響型構造徘徊獣。

 空間の中で“声”として反響し、構造物を内側から共振させる。

 建物の老朽化が進んでいる場合、共振によって崩壊を誘発する可能性あり」


「うっそ……そんなの、建物の中に“音の姿”でいるってことですか……?」


小野寺がうなずく。


「一定以上の音量に達すると、ガラスや梁が割れます。時間との勝負です」


対応方法は、“音”そのものを吸収させる処置。

真壁が出したのは、複数の“吸音球”――野球ボール大の特殊発泡材。

これを建物の構造各所に設置し、共振帯域をずらす。


宮沢は言葉を失った。


「誰にも知られずに、誰かがこんな場所で怪獣と“静かに戦ってる”って……」


そのとき、ふと足元のコンクリが小さくひび割れた。


「来ます。全員、退避を――!」


西条が低く言うと、全員が身をかがめる。

高音が一気に室内を貫く。


ギィィィィィィィィィィィ――――


ガラスの一部がきしみ、梁がたわむ。だが、次の瞬間、吸音球が反応し始めた。

音が吸い込まれ、空気が少しずつ静まる。


そして、鳴き声は……止んだ。


対応完了は午後2時。

全員が無言のまま、片付け作業に取りかかる。

宮沢は、ただそれをシャッター越しに見つめていた。


斉藤がふと笑って言った。


「どうでした? 取材。退屈じゃなかったでしょ?」


宮沢は首を振る。


「なんか……すごかったです。

 誰も“すごい”って言ってくれない場所で、ちゃんと誰かがやってることが、」


その夜、広報課に提出された原稿の見出しはこうだった。


【特集】「市民が知らない街の戦い。防衛課、その静かな一日。」


そして写真には、西条たちが誰も見ていない廃ビルの中で、ただ無言で作業する姿が写っていた。

拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。

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