30話 わたしが見た、あのひとたち
私の名前は大泉ほのか。青柳市立第三中学校・2年生。
今日は「市民職場体験学習」という、いわば“おしごと見学”の日。市役所に行くことになったけど、正直あんまり乗り気じゃなかった。どうせ書類とか見るだけでしょ、って思ってた。
でも、私が配属されたのは――市役所の「防衛課」だった。
「防衛……って、あの防衛ですか?」
「そう、怪獣対応もしてる」
「えっ、うそ……?」
迎えてくれたのは、黒髪でちょっと目つきの鋭い男性。名前は西条さん。無愛想っぽいけど、缶コーヒーばっかり飲んでるのが面白い。
その横にいたのが斉藤さん。やさしそうで、でもちょっとテンションが高い。私と目が合うたびにニコニコしてくれる。
あと、無口だけどすごく機械に詳しい真壁さん。何か計測器をずっといじってて、私のことあまり見てこないけど、たぶん悪い人じゃない。
そして、小野寺さん。女性で、資料とか記録がすっごく詳しい。私が質問すると、ちゃんと答えてくれる。かっこよくて、ちょっと憧れた。
「今日は、“怪獣”が出なければ、たぶん安全な一日になる」
西条さんがそう言ったとき、全員がチラッとこっちを見た。あ、これ、何かあるって顔。
お昼すぎ。
観光協会の人から、「駅前のベンチに“座ってる何か”がいる」と連絡があった。
「動かないし、誰も話しかけられない。でも、駅員が見たら“どう見ても人じゃない”って……」
私も同行することになった。正直ワクワクしたけど、ちょっと怖くもあった。
駅前に着くと、いた。
ベンチに座って、足をぶらぶらさせてる――ピンク色のふわふわした、“だるま”みたいな生き物。丸い目、つぶれた鼻。頭の上に、なぜかポストカードが乗ってる。
「仮称:ポストルン。静止型拠点占拠獣。好物:ヒトの集まる場所。目的:不明」
真壁さんが言ったけど、みんなあまり焦ってない。むしろ、斉藤さんが笑ってる。
「こいつ、2年前にも出たんですよ。ちょうど七夕の日に。広場の木の下でお昼寝してました」
「人の“座る場所”が好きなんです。理由は不明だけど、暴れたことはない」
じゃあ、どうやって対応するの?
「“場所を譲ってもらう”んだよ」
斉藤さんがベンチの横に座る。すると、ポストルンはぴくっとして、カードを落とした。
小野寺さんがそれを拾って、そっと読み上げた。
「“たくさん人がいる場所は、あったかい”……なるほど」
「今回は、“人のあったかさ”が足りなかったから来たんじゃないかな。雨ばっかりだったし」
西条さんがため息をついて、駅前広場をぐるりと見渡す。
「じゃあ、体験学習の仕事だな。人を集めて、広場をにぎやかにする」
「ええっ、私がですか?」
「“あったかい場所”が好きなら、若いエネルギーが一番だろ」
言われるがままに、私は道行く人に声をかけた。
「ポストルンって知ってますか? 今、駅前にいます!」
「写真撮れます! 動かないけど、かわいいです!」
最初は誰も来なかったけど、10分後には人だかりができてた。
ポストルンはくるっと身体をまわして、ぺこりとおじぎしてから――ぴょんと跳ねて、ベンチを降りた。
そしてそのまま、広場の植え込みの隙間へ、ころころと転がって消えた。
その夜、報告書の片隅に「市民による誘導成功」と書かれたらしい。
私は知らなかったけど、市役所ではそれなりに珍しいことだったみたい。
帰り際、西条さんが言った。
「また来たいと思うか?」
「うーん……」
ちょっと考えて、私は笑った。
「静かだけど、すごく“ちゃんとしてる人たち”だと思いました。
なんていうか……“かっこいい普通”って感じです」
西条さんは少しだけ笑って、缶コーヒーを開けた。
拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。




