表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/70

28話 その脚が、市をまたぐ

午後3時24分。

都市計画課から、通常ではあり得ない緊急通報が防衛課に入った。


「ええと……ええ!? “地図に載っていない道路が、突然出現してる”!?」


斉藤の声がひっくり返った。


「位置は……第二環状線の北側。“道のようなもの”が、数キロにわたって地表に“走っている”とのことです。道路標識も信号もなく、ただの真っすぐな……“筋”」


小野寺が地図を覗き込みながら、眉をひそめた。


「衛星画像にも、数分前までは存在していません。これは……何か“動いている”可能性がある」


真壁が淡々と、しかし異常な状況を整理していく。


「熱源データからも、道路状に沿って“点在する高温部”があります。これは――“巨大な何かの脚”」


西条修一は黙って机の缶コーヒーを開けると、言った。


「でかいのが来てるってことか。“街をまたぐスケール”で」


現場に出ると、すぐに異常が目に飛び込んできた。地平線の先に、何かが“動いていた”。

それは“山”にも見えたが、時間と共にその稜線が少しずつ動く――まさしく、“脚”。


「仮称“ダイアーク”。超巨型大地生息獣。体高約130メートル、全長300メートル超。

 移動速度は遅いが、進路上の地面を押し潰すことで、道路や線路が文字通り“書き換えられる”」


「……歩くだけで“地形を新設”するってことですか」


「そうだ。しかも、気づかずに都市圏へ入ってくる」


このままだと、中心部の交通網を完全に断絶される。防衛課だけでは対応できない。だが、“市”の災害として最初に動けるのは、やはり俺たちしかいない。


「いいか、今回の作戦は“破壊ではなく、進路の転換”。奴を西の農地帯へ逸らす。

 山林地帯まで誘導できれば、損害は最小限になる」


作戦は“重低周波誘導”。

都市部に点在する防災無線用スピーカーと、古い土砂災害警報器の警報音を活用し、人工的な“鳴動帯”を形成する。


真壁は共鳴シミュレーションを組み、小野寺が地形と建物配置を見ながら「音を通す通路」を編成。斉藤が現地の警報器に直接アクセスし、手動で音を発する準備を進める。


西条は市役所屋上に立ち、全体の進路と、音響の反応を監視する。


「動きが鈍いからって、悠長に構えてたら、すぐに“街の構造ごと塗り替えられる”。タイムリミットは2時間だ」


午後4時15分。最初の警報が鳴る。

鈍重な“山”が、わずかに進行方向を変える。


「反応あり。左脚の回転軸が8度東寄りに変位。成功率52%」


「まだ足りない。次の音は、“ビル群を通して反響させろ”。“峡谷効果”を使う」


斉藤が叫ぶ。


「三丁目交差点、出力上げます!」


音が鳴る。


そして、巨体が、音の通路へと、音もなく滑るように旋回し始めた。


「……進路、変わった。逸れた……!」


全員が、無言のまま各々の機材を停止させた。


午後6時。

巨獣ダイアークは、山林地帯の奥へとその身を沈めた。


地図には、依然として“存在しない道路”が一本、斜めに走っている。それは彼が歩いた痕だ。


西条は屋上でコーヒーを一口すすり、小野寺に言った。


「都市計画図が、怪獣に“修正される”ってのは、さすがに初めてだな」


「でもそれを、もう一度“人間の手”で上書きするのが……市役所なんですよね」


「道は引き直せる。けど、奴が残した“轍”だけは消せない。ま、それも含めてうちの管轄だ」


誰にも気づかれぬうちに、街の構造は一度“踏み直された”。だが、その巨体を前にしても、市役所はいつものように黙々と処理していた。



拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ