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25話 “怪獣らしき人”がいます

午後3時2分。市民相談課の内線が防衛課へとつながった。電話の主は市内の主婦。通報内容は一風変わっていた。


「あの、近所のスーパーの裏で、変なものを見たんです」

「大きくて、黒くて、毛がもじゃもじゃで。でっかい口が開いてて……」

「……もしかして“怪獣”なんじゃないかって思って……」

「あっ、でもなんか買い物袋も持ってました!」


俺、西条修一は缶コーヒーを置いて腕を組んだ。買い物袋を持つ怪獣。なかなか味わい深い。


「どうする?」


と横から小野寺理央が聞いてくる。異動からもうすぐ二週間。判断も早くなってきた。


「見るだけ見てくる。現場、駅前スーパーの裏手だ」


現場にはすでに警察が来ていた。どうやら同様の通報が数件入り、職務質問を試みたところ、対象が走って逃げたらしい。


「対象はこの裏道に入って、現在も未確認です」


現場の警察官が言う。


「市役所さん、これってやっぱり“怪獣”なんですか?」


「怪獣だったら、買い物袋は持たないと思うがな……ただ、確認は必要だ」


路地の先に進むと、そこは小さな古アパートの脇。雑草が伸び、ゴミが風で集まっている。ふと物陰で何かが動いた。大きな黒い影――全身が長い毛に覆われ、四つん這いに近い体勢。が、ゆっくりと、俺たちの方を向いた。


「おい、あれ……」


「人、ですよね? 多分」


確かに形は人間。だが、異様な衣服――毛皮のような服を全身にまとい、頭には被り物。顔もほとんど見えない。


「市役所の者です。お怪我ありませんか?」


声をかけると、彼(らしき人物)は数秒の沈黙のあと、ぼそりと答えた。


「……騒がれてるとは、思ってました」


聞けばその人物は、かつて街のイベントで“怪獣をテーマにした着ぐるみショー”をしていた元パフォーマー。着ぐるみは自作。今は定職を持たず、近所の空き部屋に居候しながらリサイクル活動をしているという。


「……バイト帰りに安売り寄って、袋が裂けて直してたら、通報されまして……もう慣れました」


小野寺がそっと俺の横に来て囁いた。


「怪獣じゃなくて、“怪獣のように見える人間”……でも、市民には区別がつかない」


「逆に言えば、それだけ“怪獣という言葉が市民の中に根付いてる”ってことだな」


俺たちは一通り状況を確認し、怪獣ではないことを現場の警官たちと共有しつつ、彼には一部注意を促した。


「夜道に出る時は反射板でもつけてください。“市民に見える工夫”も、怪獣対応の一部だと思ってくれ」


帰り際、小野寺がポツリと呟いた。


「……でもなんか、あの人の姿、ちょっと寂しかったですね」


「なりたくてなった姿じゃないのかもな。でも怪獣も人も、誰かに“見られて初めて認識される”って意味じゃ似てるのかもしれん」


庁舎に戻ると、午後の残りは静かだった。机に座って缶コーヒーを開ける。外は風もなく、怪獣も、元怪獣も、きっと今日は休んでいるだろう。

拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。

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