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22話 海鳴りは二度、岸に寄せて

 午前10時21分。

 青柳市防衛課に、観光課経由で通報が入った。


「海岸清掃ボランティアから、“防潮堤の先に何か大きな黒いものが打ち上がっている”との通報です」

「最初はクジラかと思ったが、近づいた人が全員、軽い吐き気やめまいを訴えており、“音がした”と」


 俺、西条修一。

 怪獣の匂いを感じ取るのは、もう反射だ。


「クジラで音は出ないし、めまいも起こさんな……。間違いなく、“うちの管轄”だ」


「現場、潮浜海岸。防潮堤から東50メートル地点です。潮、引きっぱなし。人は少なめ」


「今のうちに確認して、何かあるなら“戻らせる”しかないな」



 潮浜海岸。夏の観光地として賑わうが、春先はほぼ無人。

 俺たちは軽トラで現場へ向かい、白砂の上にそれはいた。


 黒く、ぬるりと光る巨大な“貝殻”のような物体。

 だがよく見ると、規則的な亀裂が複数あり、“開く”構造になっている。


「……これは、“シェル型”の構造だな。問題は、開いたときだ」


 その瞬間、微かに地面が震えた。

 まるで、地中深くから**重低音のような“海鳴り”**が届いてきたかのような感覚。


「仮称“ウツロガイ”。海岸打ち上げ型共振獣。

 特性:水中で漂流し、定期的に岸へ出現。静止中は無害だが、周期的に“開き”、音波振動を周囲に放つ」


「……これ、もし観光客の多い夏に出てたら、パニックでしたね」


「しかも、あの音波……おそらく“共鳴対象”を探してる。

 下手すれば、近くにある構造物――防潮堤や漁港の支柱を“割る”ぞ」


「どうします?」


「海に戻す。それがいちばん早くて、傷もつけない方法だ」



 作戦は、単純明快だが難易度が高い。

 “動かない巨大貝を、壊さずに海へ押し戻す”。


 建設課と土木課から砂利移動機とショベルカーを要請。

 クレーンを使うには大型車両が必要だが、海岸は不整地のため**“地形ごと動かす”方式**を取る。


「防潮堤からスロープ掘る。貝の下にロープを通して、じわじわ引く」


「え、それで大丈夫ですか? “開いたとき”どうするんです?」


「……時間を読めばいい。“音波の周期”を割り出して、その合間を突く。あとは、外部に“音”を被せる」



 真壁が、波打ち際に設置したセンサーで周期を算出。


「振動周期、約7分半。音圧波は一度発したら90秒継続。

 つまり、移動は“発振終了直後から3分以内”が安全」


 そのタイミングで、市の海洋放送用スピーカーから擬似波音を流し、貝の“共鳴器官”を攪乱。

 振動波の放出を抑える仕組みだ。


「よし、次の波の直後から引き出す。ショベルは後退準備、ロープは全方向張れ!」



 午前11時51分。

 重機の合図と同時に、ウツロガイの下に通したロープがじわりと引っ張られる。


「……動いた! 少しずつ、だが確実に砂が滑ってる!」


「あと8メートル! 波が届くところまで引ければ――!」


 残り3メートル。


 その瞬間、ウツロガイの**“口”が、わずかに開いた。**


「来るぞ、振動!!」


 スピーカーから高出力の妨害音波が発射され、轟音が浜辺に響き渡る。


 直後、ガガガガ……ッッッ!


 地鳴りのような音が走ったが、音圧は相殺され、土砂の崩落も最小限。

 そして――波打ち際に達した瞬間、貝はふわりと浮き、海へと滑るように沈んでいった。



 午後12時10分。

 海は静まり、砂浜には深い轍だけが残った。


「……やっぱり戻りたかったんだろうな、あいつも」


「都市に来たわけじゃなく、潮に運ばれただけ。

 でもそれが災害になるのが、怪獣って存在なんですよね」


「……そして、それを“片付ける”のが、我々の仕事だ」



 午後1時過ぎ。

 俺たちは庁舎に戻り、昼食代わりの缶コーヒーを開けた。


「たまには海もいいな。風もあって、静かで」


「……でもあの貝、もう一回戻ってきたら?」


「そのときはまた、“静かに戻して”やるよ。海は広いし、怪獣もまた来る」

拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。

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