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12話 図書館に潜むページめくりの主

 青柳市立中央図書館――それは市民の知的活動の拠点であり、週末には子どもたちの読み聞かせ会や、地域の学生による自習など、穏やかで知的な空間だ。


 ……だった。


「えっと……“本が勝手にページをめくる”って通報が5件目ですね」


「……風じゃないのか?」


「館内、無風状態で、しかも“手を触れたわけでもないのに、パラパラパラッと全部めくられて最後のページまで行く”って」


 月曜午前、俺――西条修一(市役所防衛課・現場統括係長)は、図書館から届いた苦情と怪現象報告の束に目を通していた。


 最初はオカルト案件かと疑った。が、監視カメラの映像で、誰も触れていない本のページが、一気に最後までめくられていく様子がはっきり記録されていた。


「……怪獣、かもしれんな」


「図書館のど真ん中に?」


「前例あるだろ。住宅街にキノコが歩いて来たんだぞ」



 現地はすでに閉館措置が取られていた。

 午前10時、防衛課チームは図書館に到着。閲覧室に入った瞬間、空気の流れが異様に“薄い”と感じた。


「乾燥してる……いや、違う。紙が湿気てるはずなのに、まったく湿ってない」


「静電気濃度が高いですね。通常より3倍。紙が張り付かない程度に“浮いている”状態です」


 真壁が小型測定器をかざしながら言う。


「怪獣、いるぞ。……どこに?」


「書架と書架の間、児童書コーナーです」


 通路の奥。天井近くの監視カメラに、妙な“影”が映っていた。



 それは、ひとことで言えば“羽虫のようなもの”だった。

 全長1.2メートル。薄い透明な翅を4枚持ち、頭部は小さく、代わりに口のような器官が異様に大きい。


 そして――それが空中にとどまったまま、本棚から本棚へふわりと移動するたび、近くの本のページがパラパラパラ……とめくられていくのだった。


「仮称“リフレイ”。空中静電浮遊型。特性:紙媒体への異常反応、情報探索性あり」


「こいつ……本の中身を“読んで”る?」


「可能性はある。電子書籍や雑誌は反応なし。“物理的なページをめくること”に固執しているようです」


「目的は……何だ?」


「不明。ただし、一定時間ごとに“最初から読み返す”傾向がある」


 しかも厄介なことに、リフレイは飛行能力を持ち、音にも気流にも敏感。簡単には捕まえられない。


「静かに、そして確実に封じ込めるしかないな……」



 作戦は、“対象の興味を集中させたうえで、空気を遮断し、捕獲する”。


 使用するのは――大型絵本。

 図書館スタッフの協力で、1ページがA2サイズという巨大な“飛び出す絵本”を3冊用意し、中央閲覧スペースに配置する。


「ページの仕掛けをめくるタイミングで、天井から静音型の捕獲ネットを落とす」


「誘導役、やります!」


 斉藤が絵本のページを開き始めると、リフレイがふわりと動いた。

 翅を細かく振動させながら、まっすぐにそのページの上へ――


 バサッ。


 ネットが静かに降り、閉じ込めた。


「よし、捕獲成功!」


 収容したネットの中では、リフレイが動きを止めていた。

 刺激を与えなければ、静かに浮かんでいるだけらしい。



 回収後、リフレイは学術機関に移送された。

 本を“読む”動作の解析が進んでいるが、まだその“意図”は判明していない。

 ただ一点、興味深いことがあった。


「回収時、最後に読んでいた本、“市民生活マナーと条例”だったそうです」


「……真面目だな、あいつ」


「もしかして“市民になろうとしてた”とか?」


 俺たちは苦笑しつつ、図書館の復旧作業に立ち会った。

 館内の空気は徐々に元通りになり、読みかけの本が静かに棚へ戻されていく。


 ――が、帰り際。

 斉藤がふと足を止めて言った。


「……あれ、今、どこかで“ページをめくる音”しませんでした?」


 全員、動きを止めた。

 館内は、静かだ。職員も、利用者もいない。

 ただ、一冊の閉じられた本が――


 風もないのに、パラ……と、1ページだけめくられていた。


「……真壁。あいつ、1体だけって確認できてたか?」


「……“視認できたのは”1体、でした」


「おい、図書館にカメラ増設する予算、今から申請してこい」



拙作について小説執筆自体が初心者なため、もしよろしければ感想などをいただけると幸いです。

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