表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

恩返し大作戦

作者: 藤乃花

遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。

今年度も、沢山の作品を出していきます。




西暦2025年、1月1日、午前6時……旭ヶ丘保育園前にて、十数人の男女が集まっている。

其処に集う者たちには、これからあるミッションをクリアする目的があるのだ。


皆、高校三年生。

そして、旭ヶ丘保育園の『ドングリ組』の卒園者。


お互い顔を会わせるのは卒園式以来だが、成長を遂げながらも当時の面影が残っている為、誰が誰かは分かる。


集まる男女の中、リーダー的存在である少年が発言する。


「元『ドングリ組』全員揃ったな?

あの日の約束通り一人も欠けることなく集まれて先ずは安心……皆、この日まで辛抱したこと……マジできつかったと思う!」


「それは、ボウシも同じでしょ!

あの日、提案したの、ボウシなんだからね!」

「そうだぞ。

ボウシが俺らに話を持ちかけてくれたから、今こうして俺らは再会出来てんだからな!」

「ボウシ、我らのリーダー!」


皆は口々に彼をたたえる。

ところで彼が『ボウシ』と称されている理由は『ドングリ組』の時から皆を正しく誘導していたから、ドングリの頭に被さる帽子からきているわけだ。


「茶化すなよ……今その通り名で呼んでくんのは、腐れ縁のコカゲだけだぞ!」

『ボウシ』が一人の少年を笑いながらにらむ。

にらみ方には愛があり、良い関係性なのを示している。


「まあな……でも今となっちゃあおれは木陰じゃなく、光の中でバスケすんのが日課だ」

木陰ばかりにいた内気な『コカゲ』は、自信たっぷりに言ってくれた。


ワチャワチャと皆は当時の通り名で呼び合い、笑いながら昔を語る。


「さあ……昔ばなしに花咲かせんのは、ミッションをクリアしてからだ。

皆、行くぞ……元『ドングリ組』……ミッションスタート!」

〈おおおおお……!〉


元『ドングリ組』の皆はミッションをクリアする為に、ある場所へと向かう。


「車の手配は出来てるな?」

「三つアミ子、探偵プリンス、シーソーの兄妹やその姉弟の友人らがワゴン用意してくれてる」


同時三つ編みだった少女、謎解きが好きな少年、シーソーの順番を決めてくれていた少年、彼等は別に協力者を探していた。


話を聞いた兄妹やそれ繋がりの人たちが、賛成してくれミッションの後で必要な車を手配してくれたのだ。


「皆、歩きながらで良いからこの袋に例のヤツを入れてくれ」

ボウシが少しばかり大きめの巾着袋の口を広げ、皆に呼び掛けた。

皆の手が持っている例のヤツを巾着袋に投入していく。


一同ドキドキしている。

あの日『ボウシ』が提案した事を実行する日が来たのだ。

当時は出来るかどうか自信がなかったが全員一致で決まり、長い年月をかけて各々別の場所で準備をしてきた。


「さあ……着いたぞ。

いよいよ決行する」皆が目指していたのはとある公民館。

現在は付近で発生した大地震により、避難所としと開放されてある。

付近には手配している車が数台停まっていて、ドライバーたちが皆に手で合図を出している。


行きはエンジン音でバレ中の人が見に来る恐れがある為、車での移動は帰りのみと決まった。


「じゃあ、行くわね」

「オセロ、任せたぜ!」

ボウシとオセロがグータッチ。

例のヤツを集めた巾着袋を抱き、オセロは公民館の中へと入った。


当時のボウシは代表者をオセロに決めた。

〈オセロは見た目は地味タイプだけど、走りはチーターみたいに速いから大人が油断してくれる〉 

見た目は目立たない園児だが、行動するときには意外な姿を見せる。 

 

オセロが館内へ姿を消すと、次にパワーが動きに入る。

〈パワーは重要な役割をこなしてもらう。

館内から出てきたオセロをひき止めようとする係の人を、道を聞くふりをしてブロックしてほしい〉

役割をきちんと決めていくボウシは、やはりリーダーの中のリーダーだ。


「俺っちのブロックにはボスキャラ的な根強さがあるんだ!

大人なんて軽くブロックするぜ!」

パワーの言葉は実に頼もしい。


館内へと入ったオセロは避難している多くの人たちを見詰め、唇を噛み締めた。

(私たちがこの状況から抜け出せて差し上げます!)


公民館の係の女性が近付いてきて、オセロに声をかける。

「どうかされました?

もしかして、被災された方の御家族の方ですか?」

「!

……いえ実は私は、ニュースでこの事を知りまして……」

言いながらオセロの手が巾着袋を、係の女性の方へ差し出す。


「少しでもお力になれればと思いまして、気持ちですけどお持ちしました‼

受けとって下さい!」

台本通りの言葉を言い巾着袋を係の女性に押し付けると、オセロは凄い速さでその場を立ち去った。


「待ってください!

お名前を教えて……!」

声を聞きながらも、オセロは館内から出てきた。

さあ、パワーの出番だ。

係の女性が館内から出てきたところで、パワーが立ちはだかる。

「あの、すみません。

道をお聞きしたいんですが……」

「えっ?」

体格のガッチリしたパワーが前にくると、大人でも隠れてしまう。


その間オセロは待機させていた車に乗り込んだ。

ボウシがパワーと係の女性の様子を窺う。

「駅まではどう行けば……」

「え、あの……それは……」

係の女性はオロオロし、パワーの体を切り抜けようとする。


体の小さな女性とは言え、抜けるのは、時間の問題。

ボウシは最後に皆に指示を出した。

「さあ、仕上げた!

皆、そこいら一帯走り回って!

目眩ましだ!」

合図を聞いた他の皆が、待ってましたと言わんばかりに姿を出し、公民館の前をなりふり構わず走り抜ける。

タイミングを読んで、パワーがその場を離れた。


そんな場面の中、係の女性は何かを思い出しそうになった。

(あれ……?

この人、たちって……)

女性がまだ学生の頃、隣県で発生した土砂災害の救助を手伝いに被災地を訪れた。

其処は酷い被害をもたらし、民家やあらゆる施設、そしてとある保育園も土砂に流されていた。


保育園として経営されていた建物は壊滅したが、中の園児たち、保育士たちは無事に保護された。

(もしかして、あの日の……?)

あの日救助した園児たちと、今目の前を走り抜けている若者たち。

(面影……残ってる?)


ボウシが一声あげた。

「撤収!

逃げるぞ!」

声を聞いた皆は、方向を変え、車へと乗り込んでいく。

元『ドングリ組』を乗せた数台の車は素早い切り替えでその場から逃走した。


残された女性は呆然としていたが、暫くすると小さな喜びが生まれてきた。

(あの子たちだったら良いのに……)

園児だった子たちがあんな風に成長していたら、こんなに喜ばしい事はない。

渡された巾着袋には、想像を絶するほどの額の金銭が入っていた。


(こんなに沢山のお金……いつから貯めてたのかしら?

もしかして、あの日、から……?)

女性は巾着袋を両腕で抱き締め、此処を訪れてくれた彼等に感謝の気持ちを噛み締めた。


逃走車の中でミッションを成功させた皆は、それぞれの気持ちを抱いている。

運転する兄妹繋がりの人たちが、羨ましそうに言った。

「今度またミッションする時は、俺らも混ぜてくれよ。

今から貯金すっから」

「あざっす!

仲間は多い方が良いっす」


ボウシたちは常に思う。

被災地に寄付して、名のらずその場を立ち去る……という事をしたかった……と。


「これからも色んな被災地に寄付していこう!

元『ドングリ組』+(プラス)ファミリーでさ!」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ