恩返し大作戦
遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。
今年度も、沢山の作品を出していきます。
西暦2025年、1月1日、午前6時……旭ヶ丘保育園前にて、十数人の男女が集まっている。
其処に集う者たちには、これからあるミッションをクリアする目的があるのだ。
皆、高校三年生。
そして、旭ヶ丘保育園の『ドングリ組』の卒園者。
お互い顔を会わせるのは卒園式以来だが、成長を遂げながらも当時の面影が残っている為、誰が誰かは分かる。
集まる男女の中、リーダー的存在である少年が発言する。
「元『ドングリ組』全員揃ったな?
あの日の約束通り一人も欠けることなく集まれて先ずは安心……皆、この日まで辛抱したこと……マジできつかったと思う!」
「それは、ボウシも同じでしょ!
あの日、提案したの、ボウシなんだからね!」
「そうだぞ。
ボウシが俺らに話を持ちかけてくれたから、今こうして俺らは再会出来てんだからな!」
「ボウシ、我らのリーダー!」
皆は口々に彼をたたえる。
ところで彼が『ボウシ』と称されている理由は『ドングリ組』の時から皆を正しく誘導していたから、ドングリの頭に被さる帽子からきているわけだ。
「茶化すなよ……今その通り名で呼んでくんのは、腐れ縁のコカゲだけだぞ!」
『ボウシ』が一人の少年を笑いながらにらむ。
にらみ方には愛があり、良い関係性なのを示している。
「まあな……でも今となっちゃあおれは木陰じゃなく、光の中でバスケすんのが日課だ」
木陰ばかりにいた内気な『コカゲ』は、自信たっぷりに言ってくれた。
ワチャワチャと皆は当時の通り名で呼び合い、笑いながら昔を語る。
「さあ……昔ばなしに花咲かせんのは、ミッションをクリアしてからだ。
皆、行くぞ……元『ドングリ組』……ミッションスタート!」
〈おおおおお……!〉
元『ドングリ組』の皆はミッションをクリアする為に、ある場所へと向かう。
「車の手配は出来てるな?」
「三つアミ子、探偵プリンス、シーソーの兄妹やその姉弟の友人らがワゴン用意してくれてる」
同時三つ編みだった少女、謎解きが好きな少年、シーソーの順番を決めてくれていた少年、彼等は別に協力者を探していた。
話を聞いた兄妹やそれ繋がりの人たちが、賛成してくれミッションの後で必要な車を手配してくれたのだ。
「皆、歩きながらで良いからこの袋に例のヤツを入れてくれ」
ボウシが少しばかり大きめの巾着袋の口を広げ、皆に呼び掛けた。
皆の手が持っている例のヤツを巾着袋に投入していく。
一同ドキドキしている。
あの日『ボウシ』が提案した事を実行する日が来たのだ。
当時は出来るかどうか自信がなかったが全員一致で決まり、長い年月をかけて各々別の場所で準備をしてきた。
「さあ……着いたぞ。
いよいよ決行する」皆が目指していたのはとある公民館。
現在は付近で発生した大地震により、避難所としと開放されてある。
付近には手配している車が数台停まっていて、ドライバーたちが皆に手で合図を出している。
行きはエンジン音でバレ中の人が見に来る恐れがある為、車での移動は帰りのみと決まった。
「じゃあ、行くわね」
「オセロ、任せたぜ!」
ボウシとオセロがグータッチ。
例のヤツを集めた巾着袋を抱き、オセロは公民館の中へと入った。
当時のボウシは代表者をオセロに決めた。
〈オセロは見た目は地味タイプだけど、走りはチーターみたいに速いから大人が油断してくれる〉
見た目は目立たない園児だが、行動するときには意外な姿を見せる。
オセロが館内へ姿を消すと、次にパワーが動きに入る。
〈パワーは重要な役割をこなしてもらう。
館内から出てきたオセロをひき止めようとする係の人を、道を聞くふりをしてブロックしてほしい〉
役割をきちんと決めていくボウシは、やはりリーダーの中のリーダーだ。
「俺っちのブロックにはボスキャラ的な根強さがあるんだ!
大人なんて軽くブロックするぜ!」
パワーの言葉は実に頼もしい。
館内へと入ったオセロは避難している多くの人たちを見詰め、唇を噛み締めた。
(私たちがこの状況から抜け出せて差し上げます!)
公民館の係の女性が近付いてきて、オセロに声をかける。
「どうかされました?
もしかして、被災された方の御家族の方ですか?」
「!
……いえ実は私は、ニュースでこの事を知りまして……」
言いながらオセロの手が巾着袋を、係の女性の方へ差し出す。
「少しでもお力になれればと思いまして、気持ちですけどお持ちしました‼
受けとって下さい!」
台本通りの言葉を言い巾着袋を係の女性に押し付けると、オセロは凄い速さでその場を立ち去った。
「待ってください!
お名前を教えて……!」
声を聞きながらも、オセロは館内から出てきた。
さあ、パワーの出番だ。
係の女性が館内から出てきたところで、パワーが立ちはだかる。
「あの、すみません。
道をお聞きしたいんですが……」
「えっ?」
体格のガッチリしたパワーが前にくると、大人でも隠れてしまう。
その間オセロは待機させていた車に乗り込んだ。
ボウシがパワーと係の女性の様子を窺う。
「駅まではどう行けば……」
「え、あの……それは……」
係の女性はオロオロし、パワーの体を切り抜けようとする。
体の小さな女性とは言え、抜けるのは、時間の問題。
ボウシは最後に皆に指示を出した。
「さあ、仕上げた!
皆、そこいら一帯走り回って!
目眩ましだ!」
合図を聞いた他の皆が、待ってましたと言わんばかりに姿を出し、公民館の前をなりふり構わず走り抜ける。
タイミングを読んで、パワーがその場を離れた。
そんな場面の中、係の女性は何かを思い出しそうになった。
(あれ……?
この人、たちって……)
女性がまだ学生の頃、隣県で発生した土砂災害の救助を手伝いに被災地を訪れた。
其処は酷い被害をもたらし、民家やあらゆる施設、そしてとある保育園も土砂に流されていた。
保育園として経営されていた建物は壊滅したが、中の園児たち、保育士たちは無事に保護された。
(もしかして、あの日の……?)
あの日救助した園児たちと、今目の前を走り抜けている若者たち。
(面影……残ってる?)
ボウシが一声あげた。
「撤収!
逃げるぞ!」
声を聞いた皆は、方向を変え、車へと乗り込んでいく。
元『ドングリ組』を乗せた数台の車は素早い切り替えでその場から逃走した。
残された女性は呆然としていたが、暫くすると小さな喜びが生まれてきた。
(あの子たちだったら良いのに……)
園児だった子たちがあんな風に成長していたら、こんなに喜ばしい事はない。
渡された巾着袋には、想像を絶するほどの額の金銭が入っていた。
(こんなに沢山のお金……いつから貯めてたのかしら?
もしかして、あの日、から……?)
女性は巾着袋を両腕で抱き締め、此処を訪れてくれた彼等に感謝の気持ちを噛み締めた。
逃走車の中でミッションを成功させた皆は、それぞれの気持ちを抱いている。
運転する兄妹繋がりの人たちが、羨ましそうに言った。
「今度またミッションする時は、俺らも混ぜてくれよ。
今から貯金すっから」
「あざっす!
仲間は多い方が良いっす」
ボウシたちは常に思う。
被災地に寄付して、名のらずその場を立ち去る……という事をしたかった……と。
「これからも色んな被災地に寄付していこう!
元『ドングリ組』+(プラス)ファミリーでさ!」