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2 情報収集

「はあ、最悪だ」


 パーティーの後、自室に戻った私は、ベッドに寝転びタメ息をついた。


 パーティーには、王国西部の諸侯の他、国王や東域公の使者も出席していたのだが、その皆に向かって、父上は高らかに宣言したのだ。


「今日は、我が息子、西方侯の18歳の誕生日の祝いにお集まりいただき感謝する」


「近々、魔物の狂暴化が世間を賑わせているところだが、息子もそのことで心を痛めており、是非、この問題を解決したいと私に申し出てきた」


「まだ半人前の息子だが、私はその心意気に感じ入り、その大志を全力で応援したいと思う」


「王女とともに次の王国を支えるに相応しい我が息子、西方侯は、きっとこの偉業を達成してくれることと思う。どうか、西方侯にお力添えのほど、よろしくお願いする!」


 いつの間にか、魔物狂暴化の解決については私が言い出したことになっていて、しかも、まるで王配になると決まったかのように言われてしまった。


 万雷の拍手の中、私はぎこちない笑顔で会釈を繰り返したのだった。


「はあ、どうして父上はいつもあんなに強引なんだろうか」


「心中お察しいたします。私の父もどうしていつもあんな強引なスピーチ案を起草するのか……」


 パーティーのことを思い出して改めてタメ息をついた私に、ベッド脇に立つ家令補が慰めの言葉をかけてくれた。


 家令補は私の1歳下。家令の息子だ。いずれ、私が父上の後を継いで西域公になるとき、彼は父親の後を継いで家令になる。それが決まりだった。


 彼と私は、小さい頃からずっと一緒だった。身分の差を越えて、まるで兄弟のような関係だった。


 その関係は、一昨年、王立第2高等学校の創設に尽力してくれていた彼が急病で亡くなるまで変わることはなかった。あのときは、身を引き裂かれる思いだったよ。彼には、開校を見届けて欲しかった……


 彼も私も、当時からどちらかというと大人しいタイプだった。


 そもそも、西域公は、歴代武闘派揃いの東域公と異なり、初代から学究肌で物静かな者が多かった。物事をグイグイと進める父上や家令は、突然変異みたいなものだ。本人達には口が裂けても言えなかったが……


 私はベッドの上に胡座(あぐら)をかいて、家令補に聞いた。


「これで(いや)が応でも魔物の狂暴化を解決しないといけなくなったけど、まず何をすべきだと思う? 東方侯は魔物を討伐して回ってるみたいだけど、それじゃキリがないしね」


「まあ、武芸に秀でた東方侯なら、このまま暴れる魔物を根こそぎ討伐しちゃうかもしれないけどね」


 私が苦笑しながら言うと、家令補が笑った。


流石(さすが)の東方侯様でも、王国中の魔物を倒すのは困難でしょう。まずは情報収集を行うというのはいかがでしょうか?」


 私は両手を頭の後ろに組んだ。


「父上はすぐに出陣せよとか言いそうだけど、やっぱりそうだよね。取りあえず領内や王国各地の魔物の動向と、少しでも関連しそうな事象について情報を集めるとしようか」


「承知しました。領内各地の役人や、近隣諸侯に依頼いたします」


 家令補が笑顔で言った。



† † †



 私の誕生日から10日ほど経つと、遠方を除く各地の情報が徐々に集まってきた。


「王国全土で、夏至(げし)を境にあらゆる種類の魔物が狂暴化しているようだね……」


 自室のソファーに座って報告書を見ながら私が(つぶや)くと、向かいに座る家令補が(うなず)いた。


「はい、単なる偶然とは思えません。何かしらの共通原因があるのかと」


「共通原因か……今年の夏は暑いし、森の作物が不作だったり、特定の魔物が極端に増減したりといったことはないのかな?」


「各地の報告を見る限り、そのようなことはなさそうですね。領内の田畑の作物も今のところ順調に育っているようですし、魔物による大規模な食害の報告もありません」


 家令補が報告書をめくりながら答えた。私は報告書をローテーブルに置くと、腕組みをした。


「うーん、食料と関係なく、あらゆる種類の魔物が人を襲っているということか……『夏至』が何かの鍵になっているのかな。昔にも同じことがあったのかな」


「どうなのでしょう。大図書館長に聞いてみましょうか?」


「なるほど。彼女なら何か知ってるかもしれないね。よし、行ってみるか」


 私と家令補は、王国一の長生きと言われる大図書館長に話を聞くため、公爵城内の大図書館へ向かった。

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