4:外道を成敗
公爵家の次男ガエルは片付いたので、すぐに移動する。
今度は華麗な演奏を行っている宮廷楽団が見える場所までやってきた。
いたいた。
宮廷楽団のバイオリン奏者オノレ。
サラサラの美しい銀髪は腰までの長さで、それをリボンで優雅に後ろで一本にまとめている。バイオリンの演奏のうまさはもちろん、その容姿は貴公子のようであり。彼のファンは多い。今も沢山のマダムがダンスそっちのけでオノレに目が釘付けになっている。
優雅なワルツ曲が終わり、アップテンポのある曲の演奏が始まった。
私はまたもチャンスを待つ。
曲の盛り上がりにあわせ、オノレの演奏の動きにも熱が入る。
体が大きく動いたその時。
「ヅラ魔法、発動!」
銀髪は長髪で後ろで一本に優雅に結わかれていた。髪自体の重みもある。そしてヅラ魔法により頭皮はツルツル。その上で情熱的にバイオリンを弾いたのだ。
スルリとオノレの銀髪が床に落ち、彼の周りにいる演者が動きを止める。オノレ親衛隊のマダムからも悲鳴が上がった。
良し。完了。
これも大成功だ。
音楽が中断され、ダンスも止まり、ホールは騒然としている。そのホールを出ると、警備騎士の隊長コールの姿を探す。
警備をしているのだから。簡単に見つかるかと思ったが……。
いない。
あ、もしや。
使われていないが、自由に出入りできる個室のドアを一つずつ押して中を確認する。
この個室は。
舞踏会で仲良くなった男女がしけこむために使われているのだ。そっと扉を開き、中に人がいれば使用中だ。そこは見なかったことにして立ち去るのがルール。
失礼――と思いながら、個室の扉を少し開け、確認すると。
結構な確率で使用中。
みんなダンスそっちのけで何をやっているのだか。
「!」
いた。
警備騎士の隊長コール。
警備そっちのけで、どこぞやのマダムとしけこんでいるとは。
って、あれ、王太子の妹では?
ダークブラウンの少し長めの髪を派手に揺らし、コールは王太子の妹との許されない情事に勤しんでいる。
コールは私を牛につなぎ、市中引き回しにする役目を嬉々として受けた。私の髪を引っ張り、牢屋から引きずりだし、牛につないだ張本人だ。
ヅラに加え、王太子の妹に手を出したことがバレ、大変なことになるだろが……。
ここにルアンヌがいたら「情けをかける必要はない。警備の騎士なのに襲われた令嬢を守らず、逆に襲おうとした外道なんだから」と言うだろう。
再びコールに目を戻すと。お盛んに動いていらっしゃる。これならいつ魔法を発動しても問題ない。ということで。
「ヅラ魔法、発動!」
ダークブラウンの少し長めの髪は呆気なくコールの頭から落ち、すぐに王太子の妹の悲鳴が聞こえる。コールは何が起きたか分からず、自分の頭皮がシャンデリアの明かりを受け、ツルツルに輝いていることにも気づいていない。
すぐにあちこちから警備の騎士が集まってきたので、素知らぬフリをして宮殿を出た。そしてすぐ様、ルアンヌの待つ森へと帰って行く。
「エレーヌ。見ていたわよ、あんたの活躍!」
舞踏会から戻ると、ルアンヌは赤ワインを飲みながらご機嫌で私を迎えた。ルアンヌは大きな水晶玉を持っている。その水晶玉を使うと、遠隔で見たいものを見ることができた。私がヅラ魔法を使う様子を見ていたわけだ。
「お前さんがヅラ魔法を使った3人の男達の慌てっぷりったら、あれは傑作だね。必死に落ちたヅラを頭に被せるけど、頭皮はツルツルだからどうにもならない。令嬢やマダムはドン引き。誰も彼らに近寄ろうとしない。コールとかいう警備騎士の隊長は牢屋につながれたし。いいんじゃないの。お前さんにやった仕打ちの罰が当たったわけさ」
上機嫌のルアンヌは私にも赤ワインを勧める。
久々に飲んだアルコールは私の体を巡り。
すっかり酔った私はぐっすり眠ることになる。