2:断罪を回避しなかった結果
ゲームの設定より、ヒドイ断罪をされたと思う。そこにゲームの抑止力がなぜ働かないのかと思ったが。断罪後の悪役令嬢よりも、重要なのはヒロイン。腹黒ヒロインのハッピーエンドに全力投球で、悪役令嬢の断罪後なんて放置だったのだろう。
おかげで、こうなった。
舞踏会の場で王太子に断罪され、国外追放を命じられる。
泣きながら舞踏会のホールを飛び出したところ、攻略対象の一人だった公爵家の次男にぶつかり、なぐさめるふりをして部屋に連れ込まれ、手籠めにされかけた。でも大いに暴れた結果、たまたま私の足が次男の大切な場所を直撃して……。
悶絶する公爵家の次男を置いて部屋を出ようとすると、そこに来たのはこれまた攻略対象の一人だった宮廷楽団のバイオリン奏者。私の様子がおかしいと気づき、声をかけてくれたまでは普通だったが……。私が手籠めにされかけたと知ると、勝手に興奮しはじめた。そして目についた部屋に連れこまれ、そのまま押し倒された。
あまりにもヒドイ悪役令嬢の扱いに呆然としながらも、次男の時を思い出し、抵抗を諦めたと思わせた瞬間。バイオリン奏者の大切な場所を蹴り上げた。次男同様、悶絶するバイオリン奏者を放置し、部屋を飛び出した。
もう早く屋敷へ帰ろうと、廊下を駆け出したのだが……。これまた攻略対象の一人、警備騎士の隊長にバッタリ出会った。宮殿の部屋で何をしていると問われ、話を聞くという名目で部屋に連れ込まれた。もしやこんな不埒なことをしていたのではないか――そんなことを言い出したソイツにまで、手を出されそうになったのだ。
警備騎士の隊長だけあり、次男やバイオリン奏者の時のようにはいかない。もう、もはやこれまでと思ったその時。警備騎士の隊長は。巡回する部下が部屋に来たので焦った。そして「この悪女に襲われるところだった。助けてくれ」と言い出す。
その結果。
私は破廉恥令嬢として牢に閉じ込められ、両親の尽力もむなしく、牛による市中引き回しの上、国外追放が命じられた。
そしてズタボロになり、国境にある森に捨てられた私を見つけてくれたのが、森に住む魔女ルアンヌだった。
◇
森に住む魔女ルアンヌは。
かつては上流貴族の令嬢だったようだ。でも魔法を覚えたことで、忌まわしき魔女と国外追放され、この国境にある鬱蒼とした森で暮らしていた。年齢は60歳ぐらいに見えるが、本当はもっと若いようだ。森で若い女が一人暮らしをしていると何かと面倒なことになる。だから魔法で姿を変えているようだが……。本当はかなりの美人らしい。
ちなみに本人は魔法も使えるので、森での一人暮らしを満喫している。しかもその魔力は相当なもののようで。ズタボロだった私は劇的ビフォーアフターで回復していた。あの三人に手籠めにされかけたことを思い出すと、眩暈がして頭が重くなる。でもこれは心が傷ついたゆえの反応。魔法使いとはいえ、心の傷まで治癒することはできない。それでも体がここまで回復したのだ。文句などない。
それにしても。
本当にどこにも傷がないと、寝間着からドレスに着替えるため、下着姿になった自分の体をしみじみと眺めてしまう。
明るい青のブルージュの髪は、綺麗なウェーブが自然と出ている。瞳の色は深みのある青。大人っぽい顔立ちで、肌はなめらかでシルクのよう。胸は大きいが、手足はほっそり。身長は高めで、王太子はそこに劣等感を覚えていたようだ。マリエットは小柄だったから、喜んで自身の横に置いていた。
ルアンヌが用意してくれたグレーのワンピースに着替え、部屋を出る。これから部屋の掃除と朝食の準備だ。
体も回復したので、伯爵家に戻ることも考えたが。戻ったら戻ったで、王太子やマリエットに何をされるか分からない。だからルアンヌに頼み、私は彼女の弟子にしてもらうことにした。
ただで家に置いてもらうのだ。家事は私が担当することになった。それで寝床と食事を与えてもらえ、さらに魔法を教えてもらえるのだ。勿論、文句などない。
手早く部屋を掃除し、朝食を用意し、ルアンヌを起こす。ルアンヌが着替えている間に使い魔の猫たちに餌を食べさせる。着替えたルアンヌが部屋にきたら、朝食開始だ。