夢で人を殺した男
一人の男が訪れてきた。キョロキョロ挙動不審に目を動かしている。優介は、「どうし たんですか」「此処は、初めてですが」と優しく対応する。優介はこんな処でホストの経 験が生かせるとは、思ってもいなかった。 男は初めてなんだけど、と言って唾をごくんと飲んだ。汗の量がすごい。今日はそんな に暑いわけではないのに男は大量の冷や汗をかいていた。水を勧めると男は水をごくごく と流し込んだ。やっと落ち着いたようで名を名乗る。安田初51歳。中年の頬のこけた痩せ 型の男だ。悩み悩み喋るので会話が何度も中断したが意を決したらしい。実は私は人を殺 してしまったかもしれないんですと告白した。 草太は、「貴方は、人を殺したとおっしゃるんですね」と聞き返した。 安田は、そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれないんです。実を言うと人を殺 したのは夢の中でなんです。何度も此れは夢だと思いました。ですが人を殺したのは、現 実じゃないか妙に心配になってしまうんです。 何度も同じ夢を見ます。目が覚めて寝所の中で「しまった」「何という事をしてしまっ たんだ」と思うのですが病院に言ったほうが良いのかもしれませんしかし名探偵の司馬草 太さんなら私のその思いを解決してくれるんじゃないかと思ってこうして来たのですと述 べた。 優介はこのお客さんは病院に行った方が良いんじゃないかと草太に相談すると草太は、 「良いんだ此処は、何かあった時に来る所なんだから」と優介に言った。 話を詳しく聞く。安田は、夢の中で小学生で一緒に遊んでいた友達を不意の事故で殺し てしまう。遊具がぶつかって友達は頭から地面に落ちてしまったのだ。血がドバドバ出て 息をしていなかった。動転した安田は、小学校の花壇に死体を埋める。埋めなかったら生 きていたかもしれないが動転していたのだ。そして家に逃げ帰った。その当時そこには、 二人以外誰も居なかった。友達の親は子供を捜し警察も出動した。が友達は見つからなか った。今も友達の親は息子を探している。 安田は、罪の意識、秘密を隠したい気持ち、いつかバレるのではないかと不安になる気 持ちでいっぱいになって何度も探偵社に行こうか悩むも、もし夢でなく本当の現実だった ら私はどうなってしまうのだろうと今まで思い止まっていた。だが、勇気を出して相談に 来たという。
もしかしたら前世の記憶かもしれませんと真顔で言ったりもした。 草太は話を聞くとそれじゃ一度調べて見ましょうと言って一度目の面会を終えた。 草太が調べた結果何の事件性も無く依頼者の近辺に殺された人も居なかった。 優介は、この一件は、何だったのでしょうかねと草太に聞いた。草太は、人間全てを背 負っていけるものではないよ。夢もいつかは聞こえなくなっていくだろう。時間に任せる べきだね。もし本当に人を殺していたとしてもね。と答えた。優介は、黙って聞いてい た。夢で人を殺してしまった人は、黒猫探偵社に行くと良い。