ロックの傑作
優介達は、音楽スタジオに併設してある会場に来ている。草太の知り合いのツテで会場 に紛れ込む事が出来たのだ。今日はakitoが大型テレビジョンで新曲公開録音するそうで、 皆期待している。akitoと言えば天才ロックショーミュージシャンで国際的評価も高い。今 一番乗っているミュージシャンだ。
久方ぶりの新曲発表に皆心を疼かせていた。 akitoは、会場でも世間に憚らずにプロデューサーと喧嘩をした。もっと沢山お金をくれ る事務所もあるのに契約契約と縛られてたまったもんじゃない。こんな事務所から他の事 務所に移りたいのにと呻いた。プロデューサーは誰が発掘して挙げたと思っているんだと 取り上げない。akitoは、「今日の新曲をよく聞きなよ」「きっと天国に居る気持ちにな るぜ」と捨て台詞を吐いて会場を出て行った。akitoは、プロデューサーを新曲の曲中わざ と一人で音響室に入る様に画策した。 akitoは自身があった。俺が作った最新曲を皆聞き惚れるだろう。誰もが、手を止め足 め、他の事を気にする人間は居るまい。俺が人を殺そうとしている時も殺した時も。 喧嘩を見ていた草太に、美樹は、そんなに皆その曲を気にしているなら「料理作ってる 人も仕事を止めて聞きに来ちゃうね」と言った。草太は違和感を感じてきた。 会場にakitoが現れると20秒程自分の代表作を口ずさむ。皆うっとりして聞き惚れた。 しかし美樹は何がいいのか良さがわからないと首を捻った。その時草太は、はっとした。 世の中には、美樹の様な音楽オンチもごく一部いるのだ。その盲点を忘れている。ピー ンと草太の直感が発動する。 akitoは自信作の5分間の曲中に殺人を遂行しようとするだろう。 草太は罠を仕掛けた。 新曲が流れ始める。秒数が刻まれる。444445分間の時間が流れる中殺人を実行し ようと黒い手袋をしてナイフを出したakitoがゆっくり近づいてくる。映像と音楽が進行し ていく後、半歩の所でakitoはギョッとする。座っている後ろ姿の殺そうとしているプロデ ューサーがakitoの方を振り向いたのだ。座って居るのは、プロデューサーではなく司馬草 太だった。
akitoはびびってナイフを床に落としてしまった。 akitoは演奏している筈だが、あらかじめ曲を取って流していたのであろう。 草太は、「貴方の殺人未遂現場を抑えましたよ」と声を響かせた。パッと電灯が灯っ た。 akitoは顔を引き攣らせたが、俺がプロデューサーを殺そうとしたなんて誰が信じるんだ と叫んだ。 草太は身一つ動かさずに、今処の部屋の事は、映像で会場に全部流れていますと告げ た。曲の映像から切り替わってakitoの犯行を会場の人々は、固唾を飲んで眺めていた。 akitoは仰向けに反って膝から崩れていった。 完