第09話:天川達郎
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天川 達郎は、真と恵美の父親だ。妻の雪をなくし、男手ひとつで家系を支えていた。
「お父さん。おかえりー」
「おかえり、親父」
「ただいま。今日も遅くなってすまないね」
「しょうがないよ。おとうさんが仕事頑張ってるから、私たちが暮らせてるんだよ」
「そう言ってくれると、元気出るな」
そこに、真が口を挟んだ。
「あのさ、親父。ちょっと……」
真はそう言って、達郎を自室へ行かせた。
「恵美は自分の部屋に居といて」
「え? なにかあったの?」
「いや、大したことじゃないから」
ドアを開け、部屋に入る。
「どうしたんだね?」
真は、真剣な顔で話をはじめた。
「俺さ、親父のために………家族のために、バイトしたいと思って」
すると達郎は、温かな優しい声でこう返した。
「そうか。その気持ちはありがたいな。でもね、お前は高校生だからな。やりたいこと、めいっぱいやればいいと思うけどね」
「お金……足りないんだろ?」
「そのくらいなんとか」
「でも、その、ないよりマシだろ?」
「お前は、なにかほしいものがあるのかね?」
「違う、そうじゃない。今までみたいに家族三人で暮らせればそれでいい」
「じゃあ、大丈夫。足りないなんてことはないな。お前は、お前が本当にやりたいことをやればいいからね」
「本当か?」
「ああ、心配するな」
「ありがとう、親父」
達郎は、本当に家族のことを思っていた。優しいお父さんだった。
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