第08話:ひと休み
草原を倒した後、二人はあと3人のパソコンを持つ人間の手掛かりを掴むために、町に戻って聞き込みをしようと思った。しかし、真が草原との戦いで疲れていたので、今日はゆっくり休むことにした。
とはいえ、恵美はまだまだ体力が残っているので、あのソフトウェアを使って少し遊ぶことにした。
恵美は、パソコンの画面に、『キンテンドー スイッピ』と入力した後、Enterキーを押した。
なんとびっくり、ちゃんとスイッピが出てきた。横になって休んでいた真も、興味を示して起き上がった。
「やった!」
「あっちの世界の物も取り出せるんだな! 知らなかったよ」
恵美は、スイッピの電源を入れた。ちゃんと使える。18年前の、2017年発売のゲームだ。割と古いやつ。あの時は、テレビゲームとしても携帯ゲームとしても使えることで、結構話題になった。
「なあ、思ったんだけどさ。スイッピが取り出せたなら、親父をこっちの世界に連れてくることもできるんじゃないか?」
ふとアイディアが浮かんだ。達郎がこっちに来れば、きっと楽しいだろう。
「そうだね! そしたらまた3人で暮らせ……うーん、でも……」
「……やっぱ、そうだよな。親父に、悪いよな」
「うん。おとうさんには、むこうの世界で平和に暮らしてもらいたい」
「俺もそう思うよ」
「じゃあ、この話はナシだね」
二人は少し戸惑ったが、すぐに結論を出した。父親を思う気持ちは、オーバーフローしそうだ。
「それより、他にもやってみようぜ」
そう言って、真は『汚れた小さな紙』と入力した。しっかりとその通りの物が出てきた。
「すげー。単語しか打てないと思ってたよ。これは新しい発見だな!」
真が驚いたのは、『汚れた小さな』という条件を付け加えられることに気づいたからだ。
さらに続けて、真は絵を描きはじめた。大型犬に角が生えたような見た目だ。
「お兄ちゃん、なにそのヘンな怪獣は?」
「怪獣とは失礼な。……まあたしかに怪獣みたいだけど……って、そんなことはどうでもいい。とりあえず、このキャラは『けんちゃん』と名付けよう!」
そう言って、真は『けんちゃん』と入力した。
すると、絵に描いた通りの奴が出てきた。ガフンガフンと鳴いている。
「うおぉ! 想像上のものまでいけるのか!」
「ガフン!」
「ってあれ、どこ行くんだ」
出てきたかと思ったら、そいつはどこかへ行ってしまった。
「あらら。逃げてっちゃった」
「ま、いっか」
なんにせよ、このパソコンは思っていた以上に万能だった。そんな収穫を得た後で、この日の昼間は、真は汚れた紙をゴミ箱に捨てた後で休息を、恵美はスイッピのプレイを満喫した。
×××
そして、夜になった。二人は今日も、宿屋に泊まることにした。真は布団に入ったが、昼間寝すぎたせいであまり寝られなかった。
「なかなか寝付けないなー」
その時、真がふと反対側を向くと、そこには恵美がいた。
「うわ!」
真はびっくりして大声をあげた。
「どうしたの、そんな大きな声出して」
「どうしたのじゃないだろ。昨日から、いや、向こうの世界にいた時からいつも言っているだろ。同じ布団で寝るのはやめろ」
「なんでよー。いいじゃん」
いつまでも甘える恵美に対抗して、真は力ずくで恵美を隣のベッドに移動させた。
「今日は特にしつこいぞ。どうしたんだ」
「どうしたもなにもないよ。お兄ちゃんのこと好きなだけだよ。それに……」
「ん?」
恵美は急に顔色を変えた。そして、ゆっくりと口を開いた。
「私、やっぱり前の世界が恋しいの。やりたいこといっぱいあったし、家族でもっと暮らしたかった。お母さんは3年前に死んじゃったけど、お父さんが一生懸命頑張ってくれた。お母さんに続いて、私達までいなくなって、お父さん大丈夫かな……」
「そうだな。それは俺も同じ気持ちだよ。ほんとに、良い親父だったからな」